パッソ 1.3 レーシー 一度手放したけれど夢に出てくるほど愛おしくて買い直した愛車

  • トヨタ・パッソ 1.3レーシーTRDスポーツM(QNC10改)

TRDがカスタマイズしたコンパクトカー、トヨタパッソ 1.3レーシーTRDスポーツM(QNC10改)。このマニアックなクルマをはじめての愛車として購入し、その虜になってしまったというオーナーさん。GT-Rも所有しているものの、愛情はパッソに注いでいるという。パッソレーシーの魅力にせまる。

クルマ好きなら誰しも、初めて手にした自分だけの愛車には深い思い入れを持っているのではないだろうか。
はじめてエンジンをかけた時のドキドキ感や仲間と遊びに行った記憶、はたまた急なトラブルで途方に暮れてしまった事件ですら、すべてが良い思い出として心に刻まれていることだろう。もちろん出会いがあれば別れもあり、そんな思い出深い愛車とも泣く泣く別れる時がきてしまうのも仕方のないところ。
しかしそんなはじめての愛車の思い出が、その後のカーライフに大きな影響を与えることもある。そんな初めての愛車を忘れられず、手放してから4年越しで再開を果たしたというのが、このトヨタ・パッソ 1.3レーシーTRDスポーツM(QNC10改)に乗る加藤 銀さんだ。

「パッソは13年くらい前にはじめて見たんですよ。その頃はまだ高校生で、カタチに興味を持ったもののATしか設定がなかったので、正直言って乗ろうとは思っていなかったんです。でも、TRDバージョンのMT車があることを知ったらどうしても欲しくなっちゃって。免許を取ってすぐ、はじめての愛車として購入しちゃいました」
スポーツカー好きの父母の影響もあって、幼い頃からクルマ好きだったという加藤さん。そのためはじめての愛車として選ぶクルマはMTが必須だったとのこと。デザインがドストライクだったパッソにMT車の設定があることがわかり、他のクルマに目移りすることなく購入を決意したという。

トヨタ・パッソは2004年にデビューしたコンパクトカー。1.0Lの1KR-FE、もしくは1.3LのK3-VEを搭載し、トヨタのエントリーカーとして人気を集めた。標準車にはAT車しかラインアップがないのだが、スポーツグレードの『レーシー』をベースにTRDが架装を施した『TRDスポーツM』には、1.3Lに5MTが組み合わせたモデルが存在したのだ。
ちなみに加藤さんがお世話になっていたディーラーの情報によると、このボディーカラーのTRDスポーツMは当時全国で30台ほどしか販売されていないはずなのだとか。

こうして手に入れた初めての愛車は、友人と色々な場所に出かけたのはもちろん、クルマの運転やカスタマイズを学んだことで、多くの思い出が積み重なっていった。
初心者マークをつけて毎日山に行って、見よう見まねでヒール&トゥの練習をしたり、タイヤの使い方を考えたり、缶コーヒーをドリンクホルダーに入れてこぼさないように走る練習を行ったりと、運転の難しさや楽しさを覚えていったという。まさに加藤さんにとってカーライフの原点がパッソなのである。
しかし、2年ほど乗ったところでミッションがブローしてしまい、限定車ということもあってパーツが見つからず泣く泣く手放すことになってしまったという。

「ATに載せ替えるという案もあったんですが、やっぱりMTに乗りたかったのでパッソは諦めるしかなかったんです。その後はインプレッサを買ってみたんですが、なんだかやっぱり違うなって感じてしまい、すぐに売却して今度はBNR32を買ったんです。GT-Rもいいクルマだとは思うんですが、やっぱり軽量コンパクトなFFとはまったく違うんですよね。そうしている間に、今度はパッソが夢に出てくるようになっちゃって…そこで一昨年、またおなじクルマを探しはじめたんです」
初号機と同じボディカラーに限定して探していたこともありなかなか見つからなかったが、中古車サイトを巡回していると奇跡的に1台の販売車両があることを発見。
「30台しか売れていなかったって聞いていたので、まさか本当に見つかるとは思っていなかったんですよ。でも見つけた瞬間、はじめてパッソに乗った時のこととか色んなことを思い出して号泣しちゃいました」

ちなみに、見つけたタイミングではGT-Rとの2台所有は難しいと考えていたが、両親に相談したところ「本当に欲しいなら買ったらいいのでは」とアドバイスを受け、購入を決意して販売店に連絡を入れたという。
「愛知県にある車両だったので、陸送で送ってもらうことも考えたんですが、少しでも早くパッソと対面したくて自分で行くことにしたんですよ。ちょうどコロナの影響も落ち着いていたタイミングだったので、彼女と友達といっしょに飛行機に乗って行ったんですが、誕生月の人がいたら半額になるキャンペーンがあって飛行機代が半額になったんです。さらに愛知で宿泊したホテルも周年祭があって割引になっちゃって。ここまでくるとパッソが『早く迎えに来て』って言ってるみたいだと思っちゃったんですね。それでパッソと対面したらまた泣けてきちゃって」

こうして加藤さんのもとにやってきた2005年式の2号機は、手放した初号機とほぼ同等の走行距離8万キロ代。エンジンもコンディションがよく、900kg代の軽量ボディに90psのパワーは重量級のGT-Rとは違った楽しみがあるという。
その走りを満喫するため、JAF・オートテストの初心者クラスにエントリーしてみたところ、クラストップタイムを叩き出したこともあるのだとか。

標準車とレーシーTRDスポーツMとの相違点は、5MTの設定だけでなくサスペンションやリヤウイング、TRD製マフラーなど、走りを楽しむうえでのセットアップが行われていること。またエキゾーストマニホールドはステンレス製が採用された他車種用の純正部品を流用することでトルク特性もアップしているという。こうしたパーツの流用情報はインターネットなどで収集し、各所にオリジナリティを加えることで愛情を注いでいるのだ。

装着しているシフトノブやステアリングは後輩たちからの贈り物。もういちどパッソを買うと宣言したときから様々な協力をしてくれて、愛知からのドライブにも付き合ってくれた仲間たちには感謝の念に堪えないという。

カスタマイズに関しては本物志向かつ車検の範囲内で行うのがコンセプト。バケットシートを装着し、純正メーターベゼルには社外タコメーターを装着するなどスポーツ走行やサーキットなども楽しめるように仕上げられている。このタコメーターもパッソ納車祝いとして友人から贈られた思い出の品だ。
「パッソって、どうしてもセカンドカーや足車ってイメージがあって、テキトーなパーツをつけているって見られがちなんですよ。でも自分にとってはパッソがファーストカーで、GT-Rがセカンド。だからこそパッソにはちゃんとしたパーツを付けているんです」

ホイールはトムスの井桁ホイールを進化させたC2の14インチ。スポーティなスタイルを演出しつつ、あえて初号機とは違うアイテムを選択したポイントでもあるという。

納車時のボディはくすんでいて艶もない状態だったが、自分で磨いてリフレッシュ。さらにヘッドライトはレーシーTRDスポーツM専用のブラックメッキインナーの新品を取り寄せて装着している。
このクルマとは一生付き合っていくつもりということで、今後はさらにビカビカにして最高のコンディションを保つことを考えているのだとか。
パッソレーシーTRDスポーツMに関する情報はすべて網羅したいと考え、もちろん新車カタログなどもしっかりとストック。さらに、致命的なトラブルが発生しても手放さずにすむように、流用パーツに関して調べておくことにも力を注いでいるという。

友人や後輩から贈られたパーツに加え、彼女からの納車祝いは裏表に初号機と2号機が彫り込まれたジッポライター。世界で1つのライターは加藤さんにとってパッソと同様に宝物というわけだ。ここまでまわりのひとたちから納車を祝福してもらえるのはオーナー冥利に尽きるというものだろう。

現在パッソとともに所有しているGT-Rは、もしパッソを維持していくためにまとまったお金が必要になったら迷わず手放すことも考えているのだとか。
「自分にとってはパッソが第一。パワー的には全く及ばないですが、車重が500kgも軽いとパッソの方が乗っていて楽しいんですよ。GT-Rで繋がった仲間も大勢いるんですが、そんな仲間も自分がパッソに乗っているのを見て違和感がないっていってくれるのは嬉しいですね。極端な話、GT-Rはもっとお金がある人の手に渡った方が幸せかもしれませんが、パッソは自分が幸せにするしかないんです」
人気のあるGT-Rよりも、パッソに愛情を注いでいることはこの言葉からも滲み出ているのである。

免許を取得し、はじめてパッソに乗ってから6年。途中に4年ほどブランクはあったものの、最高の相棒と再び出会うことができたのはまさに運命といえるだろう。
2号機で再び回り始めたオドメーターは、2年で2万キロほど進んで10万キロを超えたという。愛車を通じて築き上げられた友情とともに、加藤さんのカーライフはこれからも続いていく。

取材協力:旧弘前偕行社

(文:渡辺大輔 撮影:金子信敏)

[GAZOO編集部]