ソアラ歴25年以上のオーナーが自ら作り上げた『オンリーワン』のサンマル
子供の頃の憧れのクルマを購入し、モデル(型式)を変えながらずっと所有し続けてきたという『アーク』さん。そのなんとも羨ましく、濃厚なカーライフについてお話を伺った。
「親戚がみんなクルマ好きだったこともあって、僕も小さい頃から自然とクルマ好きになっていきました。神奈川出身なのでまわりには日産車好きも多かったんですけど、なぜか自分は昔からトヨタ車が好きでしたね。それを決定づけたのが、当時の刑事ドラマにもよく出ていた20(ニーマル)ソアラだったんです」
アークさんが物心ついて最初に強烈なインパクトを受けたニーマルソアラことGZ20型ソアラ。ハイソカーブームの立役者として知られる初代のGZ10型から基本スタイリングを受け継いだ二代目で、サスペンションには四輪ダブルウィッシュボーンを採用。一部の上級グレードに当時世界初となる電子制御式エアサスペンションを搭載するなど、トヨタを代表する高級車らしい先進技術が数多く導入されていた。
バブル時代の華やかさも感じさせるGZ20型ソアラのスタイリングに痺れ、いつかは乗ってみたいと童心に刻んだアークさんは、その夢を20代になって実現した。初めて買ったソアラは、GZ20型の2.0L直列6気筒ツインターボ搭載モデルである2.0GTツインターボL。晴れてソアラオーナーとなったアークさんは、感慨もひとしおだったと振り返る。
「20代の自分にとっては当時でもまだまだ高かったんですけど、夢を叶えるためにかなりがんばって買いました。念願叶って手に入れたクルマですから、とても満ち足りた気分を味わうことができましたね。ただ一方で、そうして夢を叶えてしまうと、ある程度それで満足してしまったと言いますか…1年程乗ったんですけど、ちょっと古さも感じてしまうようになっていったんですよね」
そんな想いを抱えていた折、いつも通りソアラで街を走っていた時に突然転機が訪れた。
信号待ちでたまたま横並びになった気になるクルマ、それがGZ20型の後継モデルであるJZZ30型の三代目ソアラだったのである。
「その30(サンマル)ソアラが少し車高を下げて、BBSのメッシュホイールを履いていたんですよね。その佇まいがものすごくカッコよくて、サンマルも悪くないな〜と思うきっかけになったんです」
JZZ30型ソアラは、アメリカをはじめとする海外市場では『レクサスSC』として販売されたスポーツクーペ。デザインはトヨタがカリフォルニアに設立したCALTYが担当し、現地ニーズに合わせてボディの大型化を実現。搭載エンジンも従来の直6に加えて、V8の1UZ-FE型も採用されるなど、明らかに北米市場を重視した設計が盛り込まれていた。
大陸志向でさらなるラグジュアリー感を手にしたJZZ30ソアラのオーラに惹かれたアークさんは、日々興味を募らせクルマ探しをスタート。そしてある時、手頃な中古車を発見しソアラからソアラへの乗り換えに踏み切ったのである。
「最初に買った30ソアラは前期型の2.5GTツインターボLでした。20から乗り換えるとやっぱり速いですし、あの無駄に長いノーズ(笑)も気に入って、遂にしっくりくる一台に巡り会えたなと思いました。その前期型には4年間乗って、走行距離が10万kmを超えたので今度は後期型に乗り換えようと考えました。買い貯めていた部品もそのまま使えますし、30ソアラ以外の選択肢はもうなかったですね」
JZZ30型ソアラは1996年に実施されたマイナーチェンジを境に、前期型と後期型で区別されている。見た目にわかりやすい変化は、フロントバンパーのエンブレム下に小さなグリルが追加されたこと。リヤバンパーやテールランプのデザインも変更された。
アークさんが手に入れた後期型のJZZ30型ソアラは、1JZ-GTE型の2.5L直6ターボを搭載する2.5GT-T Lパッケージ。マイナーチェンジを機にツインターボからシングルターボに変更されたエンジンを搭載し、最高出力は280psを誇る。
GZ20型、JZZ30型の前期型、JZZ30型の後期型と、同じソアラという車種を順にステップアップしながら乗り続けてきたアークさん。その間、一貫して楽しんでいることが愛車のカスタマイズだ。
今回の撮影でも最初に気になったのが左右でホイールのカラーが違っていることだったのだが、それもアークさんならではのこだわりである。
「ホイールはワークのグノーシスGSR1というモデルで、サイズは20インチです。わざとディスクのカラーを2本ずつ変えて、今は右がブラック、左がシルバーになるように装着しています。見た人にアレッ?と思ってもらうのがうれしいというのが一番なんですけど、もともと飽き性なので、せっかく買うなら気分で左右を入れ替えられるようにしたかったというのも理由のひとつです(笑)」
その時の気分で付け替えたい、というアークさんの価値観を最も象徴的にあらわしているのが、シフトレバーだろう。レクサスの純正品とアフターパーツをコレクションし、大事にアタッシュケースに収納されていた。ちなみに撮影時に装着していたのは、レクサスLSのFスポーツ純正品だった。
トヨタやレクサスの流用技はそれだけに留まらず、ウッド調のステアリングは三代目の60型ハリアー、シフトゲートは80型スープラから移植。しかもステアリングはオーディオ操作用のリモコンスイッチやクルーズコントロールのレバースイッチ、エアバッグなどもちゃんと作動するように配線してあるという。
「そういう細かい作業とかDIYが好きなんです。流用が効く純正部品の情報などはネットで調べたり、同じソアラオーナーと集まるミーティングや全国オフ会で仲間から教えてもらったりすることが多いですね。同じ車種に乗り続けるからこそ、小さな変化で長く楽しみたいと思っています」
そのためアークさんはソアラの配線図や修理書、カタログなどもたくさんコレクション。助手席シートの電動スライド操作を運転席側からもできるように自作で加工したり「他の車種や最近のクルマで使われている技術を自分でソアラに追加できないか?」という発想をもとに、さまざまなDIYを実現してきたという。
「さっき無駄に長いノーズって言いましたけど、実際に運転していてフロントノーズがどこまで届いているのかわかりにくいことがあるんですよね。なので、フロントグリルにカメラを付けたんです。左右のドアミラーの下にも付けて、ナビのモニターに前方と左右の映像を三分割で映し出せるようにしました。ウインカーを操作したら、曲がろうとしている方向の画面に切り替わるような設定も盛り込んであります」
その他にも内装の加飾をカッティングシートでヘアライン仕上げにしてみたり、本来はフロント用のリアルウッド製ドアトリムをリヤに移植してみたりと、オーナーでなければ違いに気づかないような細かいカスタマイズも実施。極め付けはトランクと給油口のオープナースイッチやシートベルトのキャッチをUCF30型セルシオから移植。そうするとLEDが光るので、夜間の実用性を上げると同時に、ちょっとした違いを楽しめるのだそうだ。
外装についてもベバスト製サンルーフを取り付けたほか、サイドウィンドウのメッキモールをV8モデルから移植。最初からメッキ部分が黒っぽくなっているGR系のトヨタエンブレムに付け替えると同時に『SOARER』のエンブレムもブラッククローム加工を施した。マフラーカッターにはレクサスGS用を流用してある。
「現代的な機能を自分で付け加えながら、便利に大事に乗り続けたい。そう思いながら毎日を過ごしていたら、30ソアラ歴は最初に乗っていた前期型から数えて早25年になっていました。飽き性ではあるんですけど、このクルマに飽きたことはないですね(笑)。これからもそんな感じで、ずっと乗って行きたいです」
アークさんが愛を持って育てたソアラ。それは他のどこにもない、オンリーワンのソアラである。
取材協力:大磯ロングビーチ(神奈川県中郡大磯町国府本郷546)
(⽂:小林秀雄 / 撮影:平野 陽 / GAZOO編集部)
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