永遠のアイドル スカイラインGT-R(BNR32)に恋して30年、今も溺愛中
「『もうこのクルマに乗るのは辞めよう』と誓ったはずなのに、気付けばまたおなじクルマを買ってしまった」という福留さん。その愛車はケンメリ以来16年ぶりのGT-R復活ということで憧れる人が多かった日産・スカイラインGT-R(BNR32)だ。
「大学2年生の時にGT-Rの専門誌が発行されることになって、そこからずっと買い続けていて、それは大人になった今でも続いています。つまり、GT-Rは愛車であろうとなかろうと、ずっと好きで憧れのクルマです」
ずっと維持していくのは決して容易ではないと頭では理解しているが、一生忘れることのできないインパクトのあるこのクルマから逃れられずにいるのだそうだ。今回は、そこまでさせるR32の魅力について語って頂いた。
福留さんとスカイラインGT-Rの出会いは、大学生時代のアルバイト先。働いていた運送屋の社員さんが乗っていたスカイラインGT-Rが駐車場に停まっている姿を見て、ひと目惚れしてしまったのだそうだ。当時の福留さんはというと、運転免許こそ持っていたもののクルマにはまったく興味がなく、乗れれば何でもいいや程度だったという。
「まずは、その見た目にやられちゃったんですよね。斜め後ろから見た時のボディ全体のラインや、フェンダーの盛り上がりがすごくカッコよくて。それまではクルマに対してこだわりなんてなかったはずなのに『どんな走りなんだろう? 内装はどうなっているのかな?』と、とにかくいろいろ知りたくなりました。そして、知れば知るほどのめり込んでいきました(笑)」
そうなってしまうと興味心は止められず、アルバイト先で先輩を見かけるたびに、シートに座らせてもらったり、助手席に乗ってドライブに連れて行ってもらったりと、何かしらせがんでいたと笑っていた。
そしてある日、オーナーさんから「そんなに好きなら乗ってみる?」という願ってもないチャンスをもらい、アルバイトが終わった夜8時から深夜1時まで5時間ほど走りまくり、RB26DETT型エンジンの奏でる甘美なエンジン音に酔いしれたのだそうだ。
「ドドド……という、独特の太いエンジン音が想像以上に良かったんです。聞けば聞くほど癖になる音と言えば良いのかな〜。今ではRB26エンジンを積んでいるクルマはすぐに分かっちゃうくらいですよ。マフラーで誤魔化しても音圧の違いで分かるし、2000ccと2500ccの聞き分けもできます(笑)」
彼を陶酔させたエンジン音を奏でるのは、GT-R専用エンジンとして生み出されたRB26DETT。2.6ℓ直6 DOHC 24バルブにツインターボを搭載し、当時の自主規制枠ギリギリだった最大出力280馬力という高いパフォーマンスを発揮する名機だ。
また、そのエンジンが生み出す強大なパワーを効率良く路面に伝えるために、電子制御アクティブトルクスプリット型フルタイム4WD『アテーサE-TS』も採用されるなど、復活したGT-Rならではの走りに特化した機能が搭載されている。
福留さんが晴れてそんなGT-Rのオーナーになったのは23才のとき。
「GT-Rってやっぱり良いな!と思っても、学生だったからすぐに買えるわけじゃなかったので、いつか乗れたらと夢見ながら、初めての愛車はサビサビのAE86型スプリンタートレノを買いました。そして、就職して2年目の夏にトレノの床に錆びて穴が開いたことをキッカケにGT-Rを購入しました」
愛車との出会いは、横浜に専門店があるという話を聞きつけて足を運んだことがキッカケだという。チラッと覗くだけにしようと決めていたのに、気付けば購入することになっていたそうだ。本物を目の前にすると、どうしても自分の気持ちを抑えきれなかったと笑っていた。
念願かなって手に入れた愛車のアクセルを踏むと、あの日の夜のエンジン音、硬くも柔らかくもない上品な乗り心地、総合的にしっかりとまとまった走りが走馬灯のように蘇り、懐かしくもあり面白くもあったという。手に入れるまで我慢した時間を取り戻すべく乗り回し、走行距離もどんどん伸びていったそうだ。
ところがその2年後、不運にも追突事故にあってしまい、さらに夢にも思わなかった災難が起こったのだ、と顔つきが変わった。
「壊れた愛車をレッカーで運んでもらったんですが、なんと保管してあった駐車場でシートやシフトノブ、ステレオなどお金になりそうなものがゴッソリ盗まれてしまったんです。それで『盗まれるようなクルマって嫌だなぁ』と、気持ちが一気にGT-Rから遠のいていきました」
こうして大好きだったGT-Rと別れて、しばらくは普段乗りのクルマで生活していたものの、いちど覚えてしまったGT-Rの魅力はそう簡単に忘れられるものではなかったようだ。
事故の翌年に関東への出張が決まった際、懐かしさを感じて“少し寄り道”しようと、以前1台目を購入した専門店を訪れたという。
「買うつもりなんてなかったのに、1台目とまったくおなじ年式、おなじボディカラーの個体があったんですよ。だからねぇ〜、これは不可抗力ですよ。ほんと、気付いたらハンコを押してたんだよなぁ〜」
久しぶりに乗ったGT-Rは、当たり前に楽しく、自分にしっくりくることを再確認したそうだ。
こうして2000年に手に入れた2台目のスカイラインGT-Rは、1990年式のフルノーマル車。それから20年以上を共にしてきた現在の愛車は“ほぼNISMO仕様”へとカスタムされているという。
『スカイラインGT-R NISMO』といえば、全日本ツーリングカー選手権のグループAカテゴリーに参戦するべく、ホモロゲーションのために500台限定で生産されたモデル。1990年のデビュー戦からグループAのカテゴリーが終了する1993年まで、華々しいGT-R伝説を作り上げた立役者でもあり、現在でも国内外で人気の衰えない存在だ。
福留さんは、フルノーマルだった愛車をこのNISMO仕様に近づけるために、フロントバンパーのエアインテークダクトやボンネット先端のフードトップモール、リアの補助スポイラーなどを装着し、現在では「かなり細かいところまで再現できたのでは?」と自負するほどの仕上がりとなっている。
「NISMOにはリアワイパーが付いていないから取ろうと思ったんですけど、取ってしまうとリアガラスに穴が空いた状態になってしまうわけですよ。だから、穴の空いていないリアガラスを購入して取り付けました」
奥様には『何が違うの?』とつっこまれたカスタムだったというが、福留さんにとってはかなり大きな変更点だったと少し不服そうに呟いていた。
そして、これを皮切りにさらに拍車がかかり、ABSを取り払い、フロントブレーキの大型化などもおこなっているという。
さらに、ダッシュボード上にBNR34のマルチファンクションモニターを装着したり、サンバイザーの裏側にはこのGT-Rの開発主管である伊藤修令氏の直筆サインが書かれていたりと、GT-Rとオーナーが共に過ごしてきた年月や楽しい思い出が、随所に数えきれないほど詰まっていることが窺える。
「乗り味のこだわりとしては、10年前にエンジンとミッションを載せ変えたことですね。シフトチェンジは大変になったけど(笑)、少し弱かった低速が強くなったし、それなりに速くなったのでOKとしています」
金色に輝くN1エンジン、そしてBNR34の6速ミッションに載せ換えたことで「やりたかったことは一通り終わった」ということで、今後はこの状態を維持しつつ綺麗に乗っていくことが目標だという。
そして、今回の取材会に一緒に参加してくれた2人の息子さんたちも、父親が大切に愛でるこのクルマを好きになってくれるのではないだろうか。
青春時代に出会ったスカイラインGT-Rは、大人になってもなお福留さんの心を掴んで離さず、ふとした瞬間にまた好きにさせるのだという。
これからも福留さんは、スカイラインGT-Rの魅力から逃れられない。
取材協力:高知工科大学 香美キャンパス(高知県香美市土佐山田町宮ノ口185)
(⽂:矢田部明子 / 撮影:西野キヨシ / 編集:GAZOO編集部)
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