27年前に新車で購入したスカイラインGT-R、無線局として人との繋がりを楽しむ
みなさんにとって、クルマとはどういう存在だろうか?
移動手段、相棒、自分をリラックスさせてくれる場所etc…ほかにもたくさんの言葉が思い浮かぶが「無線局でもある」と答える人はなかなかいないだろう。
「CQ、CQ、CQ、こちらは、JF7◯◯◯。山形市内モービルです。ご入感のステーションがございましたら、QSOをお願いします」
よく通る明快な声で話す青木さんにとって、愛車の日産・スカイラインGT-R(BCNR33)はそれなのだという。そして、GT-R×無線の組み合わせは、これまで色々な出会いと、想像もしなかったカーライフをもたらしてくれたという。
1976年に新入社員となった青木さんは武蔵野市で暮らしていて、その時に何となくはじめたのがアマチュア無線だったそうだ。スマホ、パソコン、iPadといったように、今でこそ世界はモバイルデバイスに溢れているが、その当時はまさかそんな便利なツールが登場するとは、多くの人が夢にも思っていなかっただろう。
「自分が育ってきた場所、学校が同じだった友達、会社の方々など、生活圏内の知り合いは増えてはいくけど、それ以外の人との繋がりがあっても良いんじゃないかと思ったんです。じゃあどうすれば良いんだろう? 無線なんてどうだろうか? と、こういうわけです」
簡単に説明すると、自分の出した電波を誰かがキャッチして会話が始まる、というのが無線だそうだ。繋がっての最初の交信は、自分がどこに住んでいて、使っている無線時の機種やアンテナの種類、電波の強さはこれくらいで、声の明瞭度はまずまずなど、主にそういった内容の会話をするのだという。
「スマホと違う面白さはね、毎回毎回どこの誰に繋がるか分からないということなんです。電波は遠くまで飛ぶから、それこそ自分が足を運んだことのない県の人とも会話できるというわけ。僕はこれが好きだったんです。今日出会えるのはどんな人なのか?と考えるとドキドキしました。アマチュア無線のコンテストの時、メキシコの少し上あたりに住んでいるという方と繋がった時は、流石にビックリしたけど嬉しかったですね(笑)」
そんな日々を過ごしていた青木さんはある日、マツダスポーツカークラブ(MSCC)に所属しているという人と交信し、仲良くなったそうだ。
普段は無線に関する話をするくらいで「ではまた」と良きところで交信を切り上げるそうだが、それをしなかったのは、無線と同じくらいクルマの運転が好きだったからだという。さらにいうと、マツダスポーツカークラブが開催している『MSCCラリー』に興味を持ってしまったのだと、楽しい弾みが声に現れていた。
「兄が2人いるんですけど、この2人がクルマ好きでね。長男は大学で自動車部。次男は地元山形でドライバーとしてラリーに出ていたから、私も昔はそのナビゲーターとして参加していたんです。それがすごく楽しかったから、またやってみたいと思ったんですよ」
コースの路面状況は色々で、指示速度やコマ図の方向などをドライバーに伝え、その通りにクルマが走り、ミスコースをしないで、隠されたオンタイムの時間に近い走りをする、というのがラリーの面白いところなのだそうだ。
そして、ラリーに挑戦しようというくらいだから、参加しているドライバーは少なくとも運転好き、または運転が上手い人ばかりだったという。
「そうすると目が肥えてしまって、運転の仕方やクルマの挙動などをじっと見て、技術のある人の走りを目で追ってしまうんですよ。それと同時に、ハンドルの切り方、アクセルの踏み方、曲がり方、止まり方など、どうすればそういう運転に近付けるのか考えるようになりました」と腕を組んだ。
こうしてラリーを通じて走る楽しさや運転の奥深さに魅了された青木さんが、あるとき山形市からクルマで30分くらい行ったワインディングロードを走っていると、そこに颯爽と現れたのがR32型スカイラインGT-R。自分の前を走るそのクルマは、デザインもさることながら、何より走りが完璧だったという。
「とにかく、1つ1つの挙動が良かったんです。当然ながらセダンとはちょっと違う、少しだけ上下に揺れる足まわりの固さや、コーナーでしっかりと減速して立ち上がりでシューっと滑らかに加速していく、キビキビ走っている姿がすごくカッコよくてね。ひと目惚れしてしまったんです」
湾岸ミッドナイトが大好きだったためGT-Rにはもともと憧れがあった上に、こんな走りを見せられてしまったものだから、心はもうGT-Rに決まっていたという。
そしてこの日から3か月後、青木さんはスカイラインGT-Rを買うことになる。BNR32ではなくBCNR33を迎え入れたのは、すでにBNR32が新車で売っていなかったからだそうだ。しかし、どちらにせよGT-Rというクルマの走りは極上だろうと迷うことなく判を押したのだとニヤリ。
ちなみに、唯一の難関と思われた奥様は、意外にも難なくOKを出してくれたという。
というのも、当時乗っていたハイラックスサーフがかなりくたびれていて、あちこち故障していたうえに、キャブ車だったためその日の気候が合わないとエンジンがかからないこともあり、不満に感じていたのだそうだ。それでも好きだからと乗り続けていた青木さんが新しいクルマに乗り換えるというものだから、反対するどころか嬉々としていたという。
こうして1996年8月、BCNR33は青木さんの元へとやってきた。
R33型スカイラインGT-R は、R32型の後継モデルとして1995年に開催された東京オートサロンでデビュー。GT-Rの中でも“第2世代"と呼ばれるこのモデルは、日本だけではなく世界中で人気のあるクルマだ。当時はボディサイズが少し大きくなったことが良しとされず、ほかのモデルに比べて人気が無かったそうだが「そこが良いのに」と青木さんは言う。
「このおかげで走行安定性か上がって、走りは第2世代のなかで1番いいんですから。どの角度から見ても美しいんですけど、強いてあげるならフロントからリアにかけてのボディラインや、オーバーフェンダーの膨らみかな。あとはGT-Rというエンブレムも。でも、なんといっても魅力的なのは、やっぱり走りですよ」
搭載されているRB26DETT型エンジンは、その圧倒的なポテンシャルの高さから今なお多くの人の心に残っている“名機"だ。排気量が2568ccと税金が一気に高くなるということも厭わずに速く走ることを追求したこの潔さが、青木さんは気に入っているのだという。
「五感を揺さぶるようなエンジンの音、振動、アクセルペダルを踏んだ時の感覚、ステアリングの切れ方など、まさに僕が求めていた走りでした。3000回転を超えると一気に加速するあの力強い感覚は、一度味わったら病みつきになるほどだと思いますよ。それでいて、一般道も充分楽しいのがR33の面白いところなんです」
この愛車を購入するキッカケとなったワインディングロードを走るのも大好きで、山形市内と日本海側を結ぶ国道112号線を通って月山から志津までの上り下りを楽しんで帰ってくるというのがお決まりのコースなのだとか。スムーズなシフトアップとシフトダウンをしながら、あの日見たR32のように滑らかな走りを意識しているという。
大切に乗り続けているだけに雪道は走らせず冬眠させているのかな?と思いきや「何を言ってるんですか。せっかくの四輪駆動なんだから、むしろ冬の方が楽しいんですよ」と、オールシーズンを通して愛車とのドライブを満喫しているそうだ。
長年連れ添ってきたR33は、ステアリング、シフト、サイドブレーキといったドライビングに関わる部分の配置も抜群だそうだ。ちょっと手を移動すれば良いというその距離は、近すぎず遠すぎずで、かなり運転しやすいと大絶賛していた。
「ただし!法定速度を守った、安全な走り方をしていますよ。これでもラリー競技に出場していたし、後半はスタッフとして参加していたんです。だから、恥ずかしくないような楽しみ方をしないとね♪」
なるほど。クルマと真剣に向き合ってきた青木さんらしい言葉である。
免許を取って50年が経つという青木さんだが、振り返ってみればずっとクルマが側にいる人生を送ってきたという。知れば知るほど奥が深く、いろいろなスタイルでカーライフを楽しんできたと笑っていた。
ラリー、無線、大切な友達との繋がり。こういう大事にしていきたいものと愛車を掛け合わせることで、密度の濃い毎日を歩んでくることができたのだと感じているという。
「73(セブンティ―スリー)さよなら。他、お聞きの方はいらっしゃいますか?こちらはJF7◯◯◯ 山形市内モービルです。受信します」
無線と青木さんのカーライフは似ているのかも知れない。様々なことを受信し、また次の人と交信するように、楽しいカーライフを見つけていくのだ。
取材協力:やまぎん県民ホール(山形県山形市双葉町1丁目2-38)
(⽂: 矢田部明子 撮影: 平野 陽)
[GAZOO編集部]
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