結婚しても「ロードスターにずっと乗り続けていいよ」と言ってもらえた幸せ

  • GAZOO愛車取材会の会場であり石川県政記念 しいのき迎賓館で取材した1993年式ユーノス・ロードスター Sスペシャル(NA8C)

    1993年式ユーノス・ロードスター Sスペシャル(NA8C)

クルマの歴史を遡っていくと、その元祖は人や荷物を効率的に運搬する馬車にたどり着くと言われる。その後、動力が内燃機関へと移り変わるとその性能は格段に進化を遂げ、さらに時代が進むとクルマに求められる性能はより細分化されていき、家族みんなで快適に移動できるクルマや、速さやパワーをとことん追求したスポーツカー、どんな悪路も走破できる4WD車など多彩なキャラクターが生まれていった。
そんな数多くの選択肢の中から、軽量ボディとマニュアルミッションの組み合わせによって軽快なフィーリングが楽しめる1993年式ユーノス・ロードスター Sスペシャル(NA8C)を選択し、乗り続けているのが林さんだ。

林さんとロードスターの出会いは8年前のこと。大学を卒業して就職し、心機一転で愛車の乗り換えを考えたタイミングで、シルビアを探してもらおうと訪れた行きつけのショップの傍に置かれていた1台に目が止まったという。
「大学生の時はMTで軽快に走ってくれるのが気に入って、ヴィッツRSに乗っていました。大学を卒業して自分でお金を稼ぐようになったこともあり、運転が楽しめる少し大きめのFR車に乗ろうということで、シルビアを狙っていたんです。でもその場にあったロードスターを見たら、コンパクトで丸くてカワイくて、ひと目惚れしちゃったんですよ。ロードスターは想定していなかったのでまったく知識やイメージがなかったのですが、当初考えていたFRスポーツという条件には合致していたのですぐに買っちゃいましたネ」

  • GAZOO愛車取材会の会場であり石川県政記念 しいのき迎賓館で取材した1993年式ユーノス・ロードスター Sスペシャル(NA8C)

    1993年式ユーノス・ロードスター Sスペシャル(NA8C)

ロードスターの初代モデルとなるNAシリーズは、1989年に誕生したライトウェイトスポーツ。1トンを切る車重や2シーターオープンといった車体は、まるでバイクのように運転する楽しさを最大限に引き出した、平成初期の人気モデルである。その唯一無二とも言えるキャラクターは、日本はもとより欧米をはじめとした世界中のクルマ好きに認められる存在で、現在も多くのファンに愛され続けている。
そして、デビュー当時は1.6リッターエンジンを搭載するNA6CEだったが、パワー不足を指摘されたことから1993年のマイナーチェンジでは1.8リッターエンジンを搭載するNA8Cへと刷新され、より洗練された走りを楽しめるモデルへと進化していったのだ。

そんなロードスターは、林さんが狙っていたシルビアと比べるとコンパクトではあったものの、それまで乗っていたヴィッツRSよりも排気量が増え、何よりもFFからFRへ駆動方式が変わったということもあって満足度は高かったという。
しかも、前オーナーの手によってNB型ロードスターに搭載されていた可変吸気システムを搭載するBP-ZEエンジンと6速MTに載せ替えられていたそうで、これも購入意欲を掻き立てられたポイントだったとか。
「シルビアなんかのターボ車と比べると絶対的なパワーはありませんが、1トン弱の車重で145psと考えると、それほど遜色はないのかな、と。何よりもともと小さい車体で軽快に走ってくれるクルマが好きだったこともあって、ロードスターを選んで正解だと思いましたね」

ボディカラーはNB8Cのスペシャルカラーとして採用されていた『ラグナブルー』というのもお気に入りポイント。ロードスターといえば、カタログカラーの赤やVスペシャルのグリーンの印象が強いが、鮮やかなブルーメタリックのカラーリングはスポーツカーらしい軽快な印象を与えてくれる。

購入後はブレーキやクラッチのリフレッシュに加え、さらに車高調整式サスペンションやマフラー、ホイールといったパーツの交換も行なったという。それ以外に関しては大きなトラブルもなく、通常メンテナンスを除けば思いのほか維持費はかかっていないとのこと。これも長く持ち続けられる理由で、ロードスターを選んで正解だったと思える点だという。

運転席まわりはパーソナルのステアリングや、握りやすい球体のシフトノブを装着して操作感を高めるとともに、メーターパネルやシフトノブはボディカラーに合わせたブルーをチョイスして、シンプルながらもインテリアのカラーコーディネートを楽しんでいる。
また、運転席はバケットシートに交換している一方で助手席はノーマルシートのままというのも、ハンドルを握る自分にはやっぱりホールド性が必要だが、助手席に奥さんや子供を乗せる場合は不快な思いはさせたくない…このバランスをギリギリで成り立たせる林さんなりのこだわりカスタムなのだ。

ちなみにロードスターと言えばオープンボディが最大の特徴で、一時期は手軽に購入できるオープンカーということもあって『一度はオープンカーに乗ってみたい』というオーナーたちの受け皿にもなっていた。そのため、ロードスターオーナーの中には『乗る時は必ず屋根を開ける』なんていう人も少なくない。
しかし、林さんにとってのロードスターは、ホロが閉まっている状態こそベストなスタイルだという。購入後に屋根を開けて走ってみたことはあるが、周囲からの視線を感じてしまって気恥ずかしくなり、以来開けたことがないのだとか。そして、この閉めっぱなしの状態は、幌やビニールスクリーンに折り目がつかないため、劣化防止にも効果を発揮しているかも?とのこと。

また、リトラクタブル式のヘッドライトもこのNA型ロードスターの個性が際立つポイント。ライトをクローズしていると低いフードから流れる流麗なボディラインを作り上げ、一転してヘッドライトをオンにして開眼すればファニーフェイスが現れる。実際に子供たちもこのファニーフェイスがお気に入りで、家族の一員として親しまれているのだとか。

そんなロードスターは、まだ結婚前の奥さんとのドライブでも活躍していたそうで、結婚する時に奥様から「ずっと乗り続けるなら残しておいてもいいよ」と言ってもらえたそうだ。その言葉に込められた真意は奥さんのみぞ知るといったところではあるが、2人乗りの車内で過ごしてきた時間や景色は、奥さんにとっても思い出深かったのかもしれない。
「妻と3人の子供という5人家族で、さすがにロードスター1台では生活できないのでファミリーカーを追加したんですが、ロードスターに乗りはじめてからマツダ車が好きになっちゃって、アテンザやCX-8なんかを乗り継いでいます。ファミリーカーはロードスターとはまた違ったクルマですけど、マツダ車の設計や作りの良さっていうんですかね。すごくしっくり馴染む感じがするんですよ」

ファミリーカーとの併用ということもあり、購入時に10万キロだった走行距離は8年経った現在でも13万キロとそれほど伸びているわけではないが、エンジンに関しては積み替えられているため正確な総走行距離は不明となっている。
「最近はヘッドガスケットが抜け気味の症状が出始めているんですよ。だから車検の時にエンジンまわりはリフレッシュしたいなって考えています。ずっと乗り続けるという約束で残しているので、やっぱり壊してしまう前にちゃんと直すべきところは直しておかないと。不動車になっちゃうと放置しちゃうのが目に見えていますしね」
ダッシュボードに装着された空燃比計なども、こういった車両の状態をチェックするために役立っているというわけだ。

  • GAZOO愛車取材会の会場であり石川県政記念 しいのき迎賓館で取材した1993年式ユーノス・ロードスター Sスペシャル(NA8C)

    1993年式ユーノス・ロードスター Sスペシャル(NA8C)

手に入れてから8年。その間に家族構成も大きく変化した林さんにとって、ロードスターはクルマ趣味を満喫することができる唯一無二の存在でもある。そんなロードスターと家族と過ごす時間を両立するため、休日は早朝に独りでドライブを楽しんでいるのだとか。
「最近は朝早く起きて2〜3時間くらいですがドライブに出かけて、道の駅とかを目的地に、ワインディングを流したりするのがロードスターの楽しみ方ですね。でも7時くらいには帰宅して家族と過ごす時間も大切にしていますよ」

現在、6歳のアオイちゃん、3歳のキッペイくん、2歳のユイちゃんという育ち盛りの子供たちに囲まれている林さんは、子供たちと過ごす時間を何よりも大切にしているのだという。クルマ趣味と家族を両立するには家族からの理解も必要不可欠であり、その点でも林さんファミリーとロードスターは良好な関係が築かれているのは言うまでもない。
「子供たちが手離れしたらこのロードスターにもっと時間を使いたいですね。お爺ちゃんになった時の楽しみっていうんですかね。もちろんその時は妻と2人でいろんなところにドライブにも行きたいので、それも今から楽しみにしているんですよ!」

運転席には髪色がロマンスグレーに染まった林さんと、その助手席に座る奥さん…そんな素敵な未来まで想像させてくれるロードスターは、林さんにとってかけがえのない相棒であり、将来の夢を乗せて人生という大海原を進み続けていく箱舟なのだ。

取材協力:しいのき迎賓館(石川県金沢市広坂2丁目1-1)
(⽂: 渡辺大輔 / 撮影: 土屋勇人)
[GAZOO編集部]

MORIZO on the Road