「人として成長させてくれた」愛車ホンダ・トルネオ ユーロRとの日々
クルマ好きのオーナーさんに、愛車に乗っていてよかったことについて伺うと『そのクルマに関する知識が増えた』『自分でメンテナンスができるようになった』といったお話をよく耳にする。愛車が旧型車であれば、その確率はより高くなる傾向といえるだろう。
ただ、ホンダ・トルネオ ユーロR(CL1)に乗る『龍美沢』さんは「人として成長できた。それがこのクルマに乗ってイチバンよかったと感じることです」と断言した。
話は遡ること10年前。高校1年生だった龍美沢少年が、クルマ好きが集まるコミュニティサイト“みんカラ”に、お父様のクルマで登録したところから始まる。
「携帯も持っちょらんかったし、クルマ雑誌を毎月買うお金もない。しかも新型車やのうて旧車が好きじゃから、ディーラーに行っても置いちょらん。じゃあどうやって勉強すりゃあええんかな? と考えた時に、みんカラじゃったらタダでいろんな情報を得られるぞ! と思うたんです」
その予感は的中して、写真付きでカタログをアップしている人や整備記録をつけている人、どんな感じで乗っているか等といった情報がズラリ並んでいたという。その時の記憶が蘇ってきたのか、好奇心でいっぱいになった少年のような表情で話してくれた。
「ほしたら、実車が集まる“オフ会”ちゅうんが県内で開催されちょることを知ったんです。こりゃあ、絶対に行かにゃならんと思いましたよ! 距離的には自転車で半日もあれば行けるけぇ大丈夫なんじゃけど、問題は集まった人に見せるクルマがないことを良しとしてもらえるか。そこで主催者の人に『クルマが無いから自転車での参加になるんじゃけど、行ってもええですか?』と、連絡を取りました」
すると、主催者の方から返ってきたのは『良ければ、助手席に乗って一緒に行きませんか?』というメッセージだったという。それだけでも有難いのに、乗っているのがホンダ・シビック(EG6)ときたものだから、自分はなんてツイている男なんだとガッツポーズしたそうだ。
かくしてオフ会当日を迎えた龍美沢さんは、夢のような1日を過ごしたと話してくれた。見渡せば、サバンナRX-7、ケンメリ、フェラーリなど、素性は調べ尽くしていたものの今まで実車を見たことのなかった大好きなクルマたちが並んでいたからだ。
「ぽ〜っと、ただ見惚れておきたいというんはあるんじゃけど、次はいつ来れるか分からんのじゃけぇ、自分が気になったことをオーナーさんたちに片っ端から聞いていきました。オフ会では、メモを取って、帰ってパソコンで調べるということを繰り返しよったですね」
龍美沢さんは「古いクルマにはロマンが詰まっているのだ」という。当時最先端のメーカー技術を注ぎ込み、1台でも多く世に送り出したいという作り手の思いを感じるからとのこと。
もちろん、それは新型車にも言えることだが、今や当たり前となっているオートエアコンがマニュアルエアコンだったり、デジタルメーターがアナログメーターなのを見ると、余計にそれを感じてしまうのだとか。
そんな思いもあって、免許を取得して購入する愛車についても自分で維持できる範囲の古いクルマに乗りたいと思っていたそうで、候補として三菱・ギャランVR-4、日産・サニーVZ-R、マツダ・ランティスなどを思い浮かべていた。それらの共通点はというと『何か自分にビビッとくるものがあったから』だという。
そんな龍美沢さんがトルネオを選んだのは、手放す人がいるから一度見てみないかと、友人が声をかけてくれたのがキッカケだったそうだ。
「最初は、姿形を思い浮かべることはできるけど…ってくらいの印象しかなかったけれど、ほれやったら一度見てみましょうかいね〜という感じじゃったんです。というか正直に言うとね、あんまり期待はしちょらんかったんですよ(笑)。なんじゃけど、見た瞬間に感じたのは“これしかない”ということやったんです」
つまり、このクルマにも“ビビッとくるもの”があったということだろう。
ホンダ・トルネオは、アコードの姉妹車としてチャンネル違いで販売されていたモデルで、本格スポーツセダンとして追加設定された『ユーロR』は高性能エンジンや専用ギアレシオの5速ミッションを搭載し、足まわりや車内も標準車とは異なる装備が採用されている。
まず龍美沢さんの心を揺さぶったのは、手ごろな3ナンバーサイズであること。そして長すぎないノーズ、充分な居住空間、主張しすぎないが存在感のあるお尻、隣に立った時の大きさがシックリきたのだという。
内装も同じくらい気に入ったということで、ユーロR専用装備のホワイトメーターが3面鏡のようにすべてドライバーの方を向き、レカロ製バケットシートがしっかりと体を包み込んでくれるコックピット感が、堪らなく居心地良かったそうだ。
ちなみに、スプーン製のコンプリートエンジンは、以前乗っていたオーナーが10万kmを目前にオーバーホールついでに載せたものだという。ほかにも、純正の見た目を生かすべく装着した、無限のリヤウイングとフロントエアロリップもお気に入りのポイントだそうだ。
「自分でイジったんは、マフラーを無限製からフジツボ製のレガリスR に変えたくらいです。というんも、無限製マフラーの音は、僕からすると、ちいと静かすぎたんです。それに、切り口がスパッと剥き出しになっちょるようなデザインの方が、ユーロRに合ってると思うたからです」
2.2ℓ直列4気筒DOHC VTECのH22A型エンジンは、自然吸気で220psを発揮するハイパワーユニットであると同時に、常用域でのトルクも重視され、扱いやすくゆったり走れるセダンとしても優れた仕上がりになっている。高剛性ボディや専用ローダウンサスペンション、ブレーキの強化なども相まって、操縦安定性や乗り心地も抜群に良いのが特徴だ。
「僕はエンジンの仕様が違うから、ノーマルとのフィーリングはちぃと違うんですが、とにかく運転しやすい! ここが、惚れ込んだポイントのひとつでもあります。例えば、とあるカーブを曲がりたいと思ったとするでしょ? ほしたら、何時の方向にハンドルを切って、何%くらいの力でアクセルを踏んだらええよと、クルマが教えてくれるんです。本当にそんくらい忠実で正確なんですよ。もっと言やあ、トルクも加速もええから、速く走ろうかなと思えばそれもできる。平日は普段使いで、週末はドライバーになりたい。そんな僕にピッタリなんです」
長野まで8時間かけて自走したときもまったく疲れなかったそうで、2024年の10月に静岡で開催されるミーティングも、自走で参加する予定だという。
迎え入れて4年が経った今、ロングドライブでも疲れないという部分は、実際に走ってみないと気付かなかった魅力だったと振り返る。スタイル重視で購入したが、龍美沢さんの趣向に合った走行性能は意外な副産物だったということだ。
「いろんなお話しを聞いてもらったんじゃけど、僕がいちばん感じちょるんは、このクルマに乗ることで、人として成長できとるということです。というのも、僕が無茶苦茶な人間じゃったら、きっと『見てみないか?』という声はかからんじゃったと思うんです。少なくとも『アイツなら大事に乗ってくれるんじゃないか?』と、思うてくれたんかなぁと。そう考えると、僕がクルマを大事に思う気持ちとか、人との関わっている様子を見て、評価っちゅうか…ええなと思ってくれる人がおったんじゃなぁと。それが、なんか嬉しゅうてね。そして、それって少しは人間として成長できとるいうことなんかなと」
そう言いながら、照れ臭そうに笑った。
そして自分について考えてみると、そういった人としての成長は、オフ会を通じて学んだ経験が大きいのではないかとハッとしたそうだ。
「実はね、オフ会に参加するとき、行きと帰りで違う人に送ってもらっちょったんですよ。そうすると、免許を持っていなかった高校1年生の僕は、違うクルマのフィーリングを体感できる機会が増えるけぇ勉強になりました。他にも、いろいろ尋ねてくる僕のために、当時の雑誌をくれる人もおりました。僕が人を思いやることができるようになったのは、これじゃったんですよ。いっぱい優しさをもらったから、自分も、自然と誰かを蔑ろにするんはやめよう、お互いに支え合える人間になろうと思えるようになったんです」
だから、龍美沢さんはトルネオに感謝しているのだという。楽しいカーライフを送るという幸せだけではなく、自分を成長させてくれた存在だから。そんな想いもあって、これからも、トルネオとも周りの人とも、ちゃんと向き合って歩んでいきたいと思っているそうだ。
「不思議ですよね。そういうことを、僕は学校じゃのうて、クルマから学んだんじゃから(笑)。やっぱり、古いクルマはロマンじゃ。ロマンが詰まっちょるいうことです!」
それを聞いて、胸の中に暖かい灯りがともったような気がした。心を動かされ、優しい気持ちになれる。そんな一言だった。
(文: 矢田部明子 / 撮影: 西野キヨシ)
許可を得て取材を行っています
取材場所:秋吉台展望台(山口県美祢市秋芳町秋吉秋吉台)
取材協力:美祢市観光協会/秋吉台観光交流センター
[GAZOO編集部]
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