GRガレージでeスポーツと出会い、憧れのGR86で走りを愉しむ
昨今、世界的な盛り上がりを見せている『eスポーツ』。コロナ禍による追い風もあってここ数年で認知度、市場は大幅に拡大し、急速に注目度を高めている。中でも、クルマ好きに人気があるのはプレイヤー同士がドライビングテクニックを競い合うカーレースだ。
今回の取材対象者である吉原琉一郎さんが、プレイステーション用ゲーム『グランツーリスモSPORT』を使用したeモータースポーツにハマったのは高校1年生のとき。近所に『GR ガレージ 周南 INGING』がオープンし、そこに置いてあったレーシングシミュレーターのハンドルを握ったのが、すべての始まりだったと話してくれた。
まだ高校1年生だった吉原さんが、GRガレージに行ってみようと思ったのは、トヨタ・86をどうしてもその目で見たかったから。1人で行こうと思ったものの、ガラス張りで無機質なデザインの建物、ピシッとしたシャツを身に纏ったオシャレなスタッフ達は、当時の吉原さんには刺激が強く気が引けてしまい、祖父を誘ってお店を訪れたそうだ。
「ピカピカに磨かれた86を近くで見ることができただけでもじゅうぶん満足だったのに、祖父が『うちの子、86が好きじゃから試乗させちゃってくれんか?』と、突然言い出したんです。焦りと恥ずかしさで顔が真っ赤になって、すぐに帰ろうとしたけど、スタッフさんが快諾してくれたんですよ。助手席に乗せてもらうことができたのがすごく嬉しくて…それに味を占めてしまって、気付けば1人でも店舗に通うようになりました(笑)」
かくして、GR ガレージ 周南 INGINGは、吉原さんの行き付けの店となったのだ。
そんなある日、身体をがっしりホールドしてくれそうなシートと、重そうなステアリングを備えた本格的なシミュレーターが店舗に設置されたという。
「最初は『ふ〜ん、あれがグランツーリスモか。あれで運転が上手くなれば、免許を一発で取れそうだな』というくらいの認識でした」
というのも、ご両親の教育方針により、あまりゲームに触れずに育ってきたという吉原さん。中学生になって買ってもらったニンテンドー3DSも、使いたくて隣でウズウズした目をしている妹に譲ることが多かったそうで、レースゲームはもちろんドライブシミュレーターに触れる機会などほぼ無かったのだそうだ。
そんな少年が、1年後に開催される『全国都道府県対抗eスポーツ選手権2019 IBARAKI』の山口県予選で、グランツーリスモSPORT 少年の部で1位になるとは、誰が想像しただろうか?
吉原さん自身ですら、毎日が光の速さで変わっていき、自分が自分じゃない感覚に陥ることもあったというほど、急転直下のできごとだったという。
「人と比較されるのが嫌い、争いごとが嫌い、自分が我慢すれば良いならそうする。僕って、そんな性格だったんです。だから、GRガレージの方が『グランツーリスモSPORTの大会にチャレンジしてみたら?』と言ってくれた時、果たしてこんな自分が出場して大丈夫なのだろうか?と不安になったくらいです」
そんな吉原さんが大会出場を決意したのは、それまで自分のワガママを聞いてくれたお店のスタッフさん達に、恩返しがしたかったからだと言う。クルマを購入するどころか、免許すら持っていない自分に良くしてくれるということが有り難く、いつしか心の拠り所となっていたGR ガレージ 周南 INGINGを少しでも宣伝したいと考えたのだ。
そして、出場が決まってからは、GRガレージのスタッフでもありGR86で全日本ラリー選手権に参戦していたラリードライバー曽根崇仁選手が仕事の合間に走り方を教えてくれたり、お店を訪れていたGTドライバーの中山雄一選手が対戦相手になってくれたりしたこともあったという。
まさに、お店も一丸となって吉原さんを送り出してくれたのだ。
そんな応援や後押しに対する感謝の気持ちも込めて、全国都道府県対抗eスポーツ選手権2019 IBARAKIと、その代表選手を招待して東京モーターショー2019にて開催された『U18全日本選手権』では、2大会ともトヨタ・GRスープラで参戦したそうだ。
「ほかの選手たちが、そのコースを得意とするハイパワー輸入車などを選ぶ中、GRガレージのみなさんに感謝の意を込めてGRスープラで走ったところ“義理堅い高校生”と実況して頂き、思いのほか目立ってしまいました。まぁ、でも、それはそれで良かったのかなぁと(笑)。全国の猛者が集まって行われた大会は、残念ながら予選敗退という結果で終わってしまいましたが、eモータースポーツを通じて自分自身が変わることができたことは、自分にとって1番の財産だと思っています」
実は、自分がeモータースポーツをしているということを、吉原さんはご両親にずっと内緒にしていたそうだ。
選手権大会の1次予選はオンライン参戦だったため言わなくても良かったそうだが、本戦は会場が県外の広島県だったため、言わざるを得なかったと渋い顔をしていた。
言わなかった理由は、何となくタイミングを逃したのと、反対されるかもしれない…という気持ちが心の隅にあったからだ。
「だけど、その気持ちは、実力がついていくうちにどんどん消えていきました」
むしろ、自分が生まれて初めて夢中になったことを伝える際には、はやる気持ちが抑えられなかったという。
結果、ご両親は全力で応援してくれたし、もしその時ご両親が反対していても『これが今の自分のすべてだ』と断言し、この宝物は自分だけのもので誰にどういわれても守り抜こうと決めていた、と自信に満ち溢れた表情で話してくれた。
「そうすると、自分の中でどんどん何かが変わっていったんです。今度は自分のために走ろう、楽しもうって。それで実車でも走ってみたいと思うようになりました」
善は急げと教習所に通い始めると、グランツーリスモがいかにリアルと近いのかが身に染みて分かったという。半クラの感覚が分からなかったくらいで、あとは難なく順調に進めたからだ。あまりのスムーズさに教官から無免許で運転していたのではないか?と疑われ、グランツーリスモのことを必死で説明したと笑っていた。
そうして晴れて18歳で運転免許を取得した吉原さんは、19歳の時にずっと憧れていたGR86を自分が大好きなGR ガレージ 周南 INGINGで購入することになる。
「店長は、僕がGR86を購入したことをすごく喜んでくれて、なんと本社に報告までしたんです(笑)。そして『社内誌で取り上げられたよ!』って、自分のことのようにすごく喜んでくれました」
こうして吉原さんの愛車となった2023年式のGR86 RC(ZN8)は、GRガレージ周南 INGINGのスタッフによるアドバイスなども受けながら、サードダンパーやサスペンション、ホイール、ブレーキ、マフラーなどでカスタマイズも進行中だ。
お気に入りだというアイスシルバーメタリックのボディカラーに、ブレーキキャリパーやマフラー、ドライビングシューズも含めてブルーを差し色としてコーディネイト。
撮影場所となった秋吉台の景色と相まって、まるでゲームの中のワンシーンのような錯覚に陥るほど、美しく仕上げられている。
そして、ふと車内を覗くと、センターコンソールにはなぜかゲームセンターなどでよく見かける硬貨挿入口が…。もちろんシャレで装着しているオモチャだそうだが、終始クールな吉原さんの意外な一面を見ることができた気がして、思わず口元が緩んでしまったポイントでもあった。
そんなお気に入りの愛車で、現在はサーキットを走るのが日課となっているそうだ。
遠心力が体に直にくるのに慣れてしまえば、そこはグランツーリスモで走ったことのあるTSタカタサーキットと変わらなかったということだ。
「すごく不思議な感覚で、時間が経つに従って、リアルとグランツーリスモとの差を感じなくなるんです。初めてサーキットを走った時も、後半は電子制御を切って、コーナーで駆動輪を滑らせて遊べるくらい余裕がありました。そして、サーキットを走ると、また自分の中で変化が起こっていくのを感じました。いつしか僕は、負けず嫌いになっていたんです。誰よりも速く走りたい、勝つことにこだわりたいって」
そのために、モータースポーツ活動をチームで集まってやりたいと思うようになったそうだ。
プライベートでも、企業でも、個人ではなくあえて“チームで"というのは、人と人との繋がりの大切さを大事にしていきたいと言う、実に吉原さんらしい答えだと感じた。
「86を手に入れて、何がしたいのか? その先の楽しみ方が分かったし、その先を考えるようになりました。大袈裟に聞こえちゃうかもしれないけど、そしたら人生がどんどん楽しくなっていったんです」
吉原さんは、高校1年生の時にGR ガレージ 周南 INGINGを訪れて本当に良かったと言う。そして、グランツーリスモをプレイして、86に乗ることで、運転技術だけではなく、人として成長できたと語ってくれた。
さあ、これからの吉原さんが進んでいくコースは? その選択肢は無限大に広がっている。
(文: 矢田部明子 / 撮影: 西野キヨシ)
許可を得て取材を行っています
取材場所:秋吉台展望台(山口県美祢市秋芳町秋吉秋吉台)
取材協力:美祢市観光協会/秋吉台観光交流センター
[GAZOO編集部]
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