サーキット走行や父とのラリー参加など思い出が満載。使いこなせるパワーとサイズ感が“ちょうどイイ”CR-X
幼少期から乗り物に興味を示し、小学生の頃は学校が終わるとバイク屋さんに入り浸って雑誌『オートバイ』を読みふけり、17歳になるとレーシングカートも経験。2輪、4輪を問わずにレース観戦も大好きで、MINEサーキット(現在はマツダの美祢自動車試験場)にも頻繁に足を運んでいたという『ゆうすけぱぱ』さん。
そんな彼の愛車は、大型のエアアウトレットを備えたFRPボンネットや、車内後部のロールバーなど、いかにも“本気仕様”というモディファイが施されたホンダ・CR-X(EF8)だ。
「カートを始めたのは1990年頃。鈴木亜久里さんのファンで、デサントのレーシングスーツ、アディダスのグローブとシューズ、ショーエイのヘルメットと、フットワークF3000時代の亜久里さんの真似をしていました」
「あっ、テクニックは全然真似できませんでしたけど(笑)。F1の日本GPで3位表彰台に立った姿には泣けました。翌年にはマツダがルマン24時間耐久レースで総合優勝しましたし、あの頃、日本のモータースポーツ界はとても盛り上がっていましたね」
免許を取って初めての愛車として選んだクルマはマツダのRX-7(SA22C型)だった。その頃にはFC3Sはもちろん、FD3S型のRX-7も発売されていたが、ボディのサイズ感的にSA型が最もシックリ馴染んだという。
「本当は当時からCR-Xが欲しかったけど、いろいろな事情で買うことができませんでした。そんなRX-7ではショップが主催するサーキット走行会にも度々参加していたんですが、実は今乗っているCR-Xはその当時に会社の先輩の友人が乗られていた車両で、その頃からサーキットで見かけていたんです。足まわりは短いスプリングを装着しただけという、ザックリした仕様だったのに、ものすごく速かったんです」
それからしばらくRX-7に乗り続けていたが、購入時からイマイチだったエンジンの不具合がさらに深刻化。中古エンジンに載せ替えたものの、今度はタービンから白煙が出はじめ、年式的に補修部品の調達が難しくなったことから乗り換えを考えていた。そんな時、先輩から『友人がCR-Xを降りるので買い手を探している』という話が舞い込んできた。
「もともと欲しかったクルマだし、お友達価格で良いという条件だったので、これも何かの巡り合わせだと思って購入を決めました。とりあえず基本的なメンテンスをと、ディーラーに整備をお願いしたところ、そこの工場長さんがたまたま同型のCR-X乗りで、いろいろと部品を分けてくれました」
「他にも角度がキツ過ぎたカムシャフトをEG6シビック用のノーマルに交換したり、ECUの調整などを行なった結果、シャシーダイナモの実測で157psという、ほぼカタログデータ通りのパワー(160ps)を得ることができました。30年以上前のクルマだと考えれば、十分納得できる数値だと思います」
購入後はネットで見つけた無限のエアロキットを装着するタイミングに合わせて、ブラックだったボディカラーをホワイトへと塗り替え。“短いスプリングだけのシャコタン仕様”となっていた足まわりも車高調整式サスペンションへと交換。アルミホイールもスポーティなデザインの軽量タイプに変更されている。
「このクルマでもMINEサーキットを何度か走らせました。悔しかったのが、シャコタン仕様だった前の持ち主さんのタイムを超えられなかったこと。こっちはちゃんとした足まわパーツを組んでいるし、カートもそれなりに長く乗っていたのに…。やっぱり速い人はパーツとかスペック的な部分だけでなく、基本的な素質が違うんでしょうね。それからしばらくしてMINEサーキットがなくなってしまったので、今は時々レーシングカートで地元のコース(萩市のナチュラサーキット)を走っています」
購入からすでに24年余りの時間が経過していることもあり、車両はお世辞にもピカピカとは言い難い状態。エンジンも少々くたびれ気味の様子だが、CR-Xを手放してまで買い換えたくなるようなクルマが見当たらないという、ゆうすけぱぱさん。
「僕のクルマ選びの基準は、まず“軽量コンパクト”であることなので、CR-Xのサイズはまさにピッタリなんです。エンジンも上を見れば300psとか500psとか凄い仕様のオーナーさんもいますけど、個人的にはドライバーが囲い込めるくらいが走らせていても楽しいと思います。パワーがあり過ぎるとクルマに囲い込まれちゃっていろんな意味で大変だし、メカ的にも複雑になってくるから、トラブった時に自分で診ることができないでしょ。まんまCR-Xみたいなパッケージングのクルマがどこかのメーカーから出てくれば買い替えを考えるかも知れないけど、現実問題としてそれは望み薄かな?」
この『重視すべきはMAXパワーではなく自身の技量とのバランス』という、質実剛健、王道体育会系的なクルマとの向き合い方に、無意識のうちに影響を与えていたのがゆうすけぱぱさんのお父様の存在だった。
若かりし頃は10Aエンジンを搭載したファミリア・ロータリークーペを愛車とし、レーシングカートで腕を磨いていた時期もあったそうだ。ゆうすけぱぱさんがCR-Xを購入した当初は、ジムカーナやサーキット走行会にダブルエントリーしたこともあったという。
中でも記憶に鮮明に刻まれているのが、2011年に萩市で行われたクイズラリーイベントへの参加。なんとこの時、ゆうすけぱぱさんはナビ役で、ドライバー役を務めたのがお父様だったのだ。
「終始言い争いが絶えず、とにかく苦労しました。公道イベントだからスタートは穏やかにって主催者が言ってるのに勢いよく発進。昼食場所を兼ねた道の駅でのチェックポイントでは、他の参加者は時間節約のためパンとかおにぎりとか、さっと食べられる物を買っているのに『海鮮丼が食べたい』と言い出して思いっきり時間をロス。その分を取り戻すために焦ってミスコースしてまたケンカ。もう散々でしたよ(笑)」
そんなゆうすけぱぱさんの言葉を“うんうん、そうだったなぁ”と、穏やかな笑顔で聞き入るお父様。ラリーの道中はそれなり大変だったようだが『でも、何だかんだで、クルマに関しては親父の影響を受けていることは否定できないかも知れませんね』と、ゆうすけぱぱさん。結局のところ、CR-Xでのクイズラリーへの参加は二人にとって良きにつけ悪しきにつけ、忘れられない時間となったようだ。
このようにたくさんの思い出が詰まったCR-Xだが、近々内外装をメインとした大々的なレストアを行なうことが決まっているという。
作業の依頼先は、過去にレーシングカートのトランスポーター用として使っていたボンゴの修理がキッカケとなり、このクルマの長年の主治医として絶大な信頼を寄せている地元の整備工場となる。
「見ての通り、今は撮影してもらうのが申し訳ないくらいのコンディションで、自分としても早くなんとかしたいと思っています。メーカーから入手できる純正部品もだいぶ揃ってきたし、塗装もガラスやモールを外してキレイにしてもらいます。純正のテールランプとガーニッシュもちゃんと保管していますしネ」
「ついでにエンジンをインテグラタイプR用のB18Cに積み替えたら面白いだろうなという気もしているけど、バランスが崩れてしまいそうだし、たぶんこのままオーバーホールになるでしょう。レストアが完了した後、もし近県で取材会があったら、また応募しますネ!!」
平成という時代を生き抜き、令和に入ってから大掛かりなレストアを受けるCR-X。その決断をされたということは、これから先、まだまだ10年単位で乗り続けることへの決意の証でもあるのだろう。
(文: 高橋陽介 / 撮影: 平野 陽)
許可を得て取材を行っています
取材場所:秋吉台展望台(山口県美祢市秋芳町秋吉秋吉台)
取材協力:美祢市観光協会/秋吉台観光交流センター
[GAZOO編集部]
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