「今度は手放さない」家族みんなで楽しむ トヨタ・セラとの愛車ライフ

  • GAZOO愛車取材会の会場である千葉県の『さんばしひろば』で取材したトヨタ・セラ(EXY10型)

    トヨタ・セラ(EXY10型)


セラは、私にとって“クルマ”という分類ではないんです。あくまでも“セラ”に乗っているのであって、クルマに乗っているんじゃないと思っています。家族や友人とも違う、でも、自分の人生にとって大切な存在です」
そう陽気に話してくれたのは、トヨタ・セラ(EXY10型)に乗る『まだ〜む。』さん。

彼女がセラに乗りたいと思うようになったのは、COMPLEXの『BE MY BABY』という曲にあわせて、カッコ良い女性がセラで颯爽と走っていくCMを見たのがキッカケだったという。そして『これはどんなクルマだろう?』と興味が湧いて調べていくうちに、全体的な雰囲気はカッコ良いのに、サイズ感やフロントデザインは可愛いという、個性的なセラならではの魅力に引き込まれていったそうだ。

それから、いつか自分も乗りこなしてみたいと憧れること数年…。現在の旦那様が初デートにセラで迎えに来てくれた時は、これまでに経験したことがないくらい胸が高鳴り、恋する乙女の顔になっていたそうだ。ちなみに、キュンとしたのは旦那様にではなく『セラにですね』ということである(笑)。
ちなみに旦那様も、これまで何台ものセラを乗り継いできたというほど、セラをこよなく愛しているお方だ。

まだ〜む。さんが乗っている現在の愛車は1991年式。中期型と呼ばれ、1年間程度しか生産されなかったため販売台数が少なく、イベントでもあまり見かけることがないのだと教えてくれた。
シート地が明るい色に変更となり、キー抜き忘れ警告音が付与されたり、ルーフガラスに熱線反射ガラスがオプションで選択可能になったりといったマイナーチェンジが行われ、ボディカラーにブラック、オレンジマイカ、ライトブルーメタリックが新たに追加されたのもトピックスとなったモデルだ。

そんな愛車について伺ってみると、まさにマイナーチェンジによって追加となったオレンジマイカのボディカラーがお気に入りポイントなのだという。
「ボンネットは娘に追い剥ぎされて(笑)、白色になっちゃったんです。ですから近々の目標は、オレンジマイカとツヤ消しブラックのツートンカラーで再塗装することかな」
ニコニコしながら指をさす方に顔を向けると、まだ〜む。さんと一緒にやってきた紫色のセラに乗る娘さんの姿が見えた。そう、娘さんもまたセラに魅了された一人なのだ。

まだ〜む。さんと同じくらいの満面の笑みで、旦那様が"追い剥ぎ”についての経緯を教えてくれた。
「娘は当時、イプサムに乗っていたんですが『成人式はセラで行きたい』と言ったんです。僕が若い頃は、成人式にカスタムカーやVIPカーで乗り付ける人がいて、それがカッコ良くてね〜。自分は当時、親戚から譲ってもらった軽に乗っていたから羨ましかったし、そうじゃない自分のクルマが恥ずかしくて、誰にも見られないように遠くの駐車場に停めたものです。だから、自分の子供には、自分の好きなクルマで会場に行って欲しかったかったんですよ。綺麗で、ピシッとしたセラに乗って欲しいという思いがあったから、娘の代でその夢が叶って良かったです」

娘さんの発言から3ヵ月間、1990年式のベース車両を休日返上で修理していったそうだが、歪んでいたボンネットの補修が思うようにいかず、成人式まで1ヵ月を切ったタイミングで修理を断念して、まだ〜む。さんのボンネットを移植することになったそうだ。

また、塗装がボロボロになって錆も多く発生していたため、どうせなら娘さんの好きな紫色にオールペンしようということになり、日産・ジュークの限定モデルで使用されている“ミッドナイトパープルⅣ”で塗装したという。
完成したのは成人式当日の朝で、太陽の光によって偏光するボディカラーを見て、いっしょに作業してきた家族や息子さんの友人などと、みんなで顔を見合わせて笑顔したのだと嬉しそうに話してくれた。
「そういえば、こんなことを私たちの結婚式前にもやっていたなぁ…と思い出しちゃって、笑顔が溢れたというのもあるんです。あれは忘れもしない、結婚式の2次会での出来事でした」

当時、週末にセラ仲間の家に集まって、誰かのセラを修理するというのが恒例行事だったという。とはいっても、仲間の多くは素人だったため、整備士資格を持っている友人にやり方を教えてもらいつつ修理やカスタムを学んでいったのだとか。
その集いは、まるで文化祭の準備のようにワイワイやる感じだったと、懐かしそうに目を細めていた。
週末がやってくるたびに集まり、朝からカスタムを行い、暗くなったらスーパー銭湯で次のカスタムの相談をしながら汗を流して疲れを癒すのがルーティンだった、とキラキラした思い出の断片を話してくれた。

1998年くらいからスタートした“週末セラ会”は、まだ〜む。さんたちがご結婚された2000年以降も続いていたそうで、その頃には各自得意分野の技術を習得していて、旦那様はボディワークや塗装作業を担当していたという。
「そんな時、オーナー未定のセラを塗装してほしいと、主人に依頼がきたんです。ボディカラーは、トヨタの189(シルバーオパール)に、ピンクパールを合わせた3コートパール塗装。写真だとシルバーに見えるんですけど、太陽の光が当たるとピンク色に見えるんですよ」
仲間内で“モモセラ”の愛称で親しまれていたというこのセラの塗装は、まだ〜む。さん夫婦の結婚式前に無事完了したという。

そして作業もひと段落して心置きなく結婚式を迎え、セラ仲間に司会をお願いした2次会も終盤に差し掛かった頃…『鍵の形をしたボード』を手渡されたそうだ。
「何事かと思ったら『クルマを1台プレゼントします!』と言われたんです。そしてそのままお店の前に誘導されると、そこには夫婦と仲間で塗装したモモセラが駐車してあって、このセラが私の1台目のセラとなりました」

驚きのあまり気絶しそうになりながらモモセラに駆け寄り、ずっと乗りたかったクルマについに乗れるのだと幸せを噛みしめたというまだ〜む。さん。
「主人のセラの助手席に乗れるだけで満足していたのに、今度は自分でハンドルを握れるわけですからね。しかも自分にとって初めてのセラが、大切な仲間がプレゼントしてくれたということがすごく嬉しかったんです」

その後、2人のお子様に恵まれ子育てに奮闘するあいだも、セラは最適だったと当時を振り返る。ドアが上方に開くので、後席のチャイルドシートにお子様を座らせる際に、腰を屈めることなく立ったまま座らせられるし、前席と後席が近いので、後ろで泣いてもすぐにあやせるのも良かったのだという。なにより、セラの特等席は後席で、子供達もそれを分かっていて、後ろに座ればすぐに静かになったというのだ。
「ルーフが窓ガラスになっているから、後席からだと首をぐっと上げずとも空を見ることができるんです。夜なんて最高で、満点の星空が頭上いっぱいに広がるんですよ」

このように、どこを切り取っても欠点が見つからないクルマだったそうだが、色々な事情が重なって最終的には手放すことになり、夫婦で毎年欠かさず足を運んでいたセラオーナーズクラブによる全国大会からも徐々に足が遠退いていったという。
しかし、まだ〜む。さんは再びセラに乗っているのだ。

「やっぱり、私はこのクルマ以外考えられなかったんですよ。扉が上に開くだとか、人と被らないとか、カッコ良い、可愛いとかそういうことではなくて、セラが大好きなんだと、セラと離れていた12年で思い知らされました」
まだ〜む。さんは、何故ここまで惹かれてしまうのか、自分でも分からないと笑っていた。現在エアコンが故障中だそうで、この夏は40度を超える暑さのなか窓を全開にして運転していたそうだが、それでも運転席に座れば“なんて良いクルマなんだ!”と、汗だくで感じているのだという。

「セラには“人を引き寄せる何か”があると思っています。大人気だったというクルマではなかったのかも知れないけど、私のように魅力に取り憑かれた人間は、何年経ってもこのクルマから離れられない(笑)。そういった意味では、一家でセラの魅力に取り憑かれているのかもしれませんね」と、大笑いしていた。

セラが家に戻ってくると、再び夫婦でセラオーナーズクラブによる全国大会に行くようになり、小さな頃からセラの“グラッシーキャビン”に包まれて育ってきた娘さんもセラに乗るようになるなど、再びまだ〜む。さん一家らしいカーライフを送れるようになったと話してくれた。
『今度は手放さない』と、口角がギュッとあがったまだ〜む。さんの活き活きとした表情があまりに幸せそうだったから、筆者もつられて笑ってしまった。

(文: 矢田部明子 / 撮影: 平野 陽)

※許可を得て取材を行っています
取材場所: 千葉みなと さんばしひろば(千葉県千葉市中央区中央港)

[GAZOO編集部]