新車から36年。「他に乗りたいクルマが見つからない」マークⅡ GTツインターボとの揺るぎない絆
-
トヨタ・マークⅡ(GX81型)
初めての愛車にトヨタ・マークⅡを選び、それから現在に至るまで、ずっとマークⅡに乗り続けているという『ゴースト』さん。がむしゃらに働いた新入社員時代、結婚、子育て、全てのことがひと段落した今。考えてみれば、自分のことを誰よりも知っているのは、間違いなくマークⅡであると目尻が下がった。
「これまでに、2台のマークⅡを乗り継いできました。1台目は叔父のお下がりで、2台目が21歳の頃に新車で購入したこのマークⅡです。これ以外に乗りたいと思うクルマが見つからず、気づけば39年間の時が経っていました」
1台目のマークⅡ(MX41型)に乗るキッカケは、憧れだった叔父さんのクルマを引き継げるから、というのがあったそうだ。俳優の三浦友和氏に似ていた叔父さんは、仕事も遊びも全力投球で、ゴーストさんが思い描く“できる男”の後ろ姿そのものだったと、想い出して痺れていた。
同級生達がシルビアやソアラなどに乗っている中、自分は少し上の世代が乗るマークⅡに乗っている、というのもちょっとした優越感だったのだと笑みが溢れた。
「MX41の鎮座する左右の単眼2灯式ヘッドライトは、丸くてつぶらで、何となく豚の目を思わせることから“ブタ目”なんて愛称が付けられていたんですよ。一度見たら忘れられない、存在感のあるフロントフェイスでした」
乗り心地も忘れられないくらい個性的で、シートのクッションは身体が沈むくらいフワフワ、コーナーを曲がるとコテンと転がりそうなくらいスリルがあって、加速するとフロントノーズがかなり浮き上がって何とも言えない驚きがあるのだと苦笑いをした。そして、それがマークⅡの“良さ”だったとも。
そんなマークⅡに3年ほど乗り、今回取材したマークⅡ(GX81型)に乗り換えることになったのは、当時の車検制度が大きな理由だったという。
その頃は製造から10年が経過したクルマは車検が1年毎になるというルールだったため、入社して間もないゴーストさんにはフトコロ事情的に厳しく、思い切って新車購入を決意。1台目で得たマークⅡの教訓を生かし、ハイパワーに加えてしっかりした乗り心地を実現する専用サスペンションを備えたGTツインターボグレードを選んだのだと“TWIN turbo”のロゴが入ったフロントグリルをチョンチョンと嬉そうに指差した。
昭和63年8月に登場した6代目マークⅡは、エレクトロニックディスプレイメーターやオートエアコン、チルト&テレスコピックステアリングなどの豪華装備が目白押しだった。そんな中でも、ドライバーの横揺れを防ぎ、身体をホールドしてくれるGTツインターボグレードのみに装着されたシートの形状が気に入っているそうだ。
「座るたびに、このシートは他のクルマとはちょっと違うんだぞ! と思うんです(笑)。若い頃は、カセットテープで『アース・ウィンド・アンド・ファイアー』の曲をかけて、千葉マリンスタジアムの海沿いや、今日撮影会をしているポートタワー周辺を流すのがとても好きでしたね」
プレイリストは主に洋楽のダンスナンバーで、6スピーカーオーディオシステムのおかげで四方八方から曲が流れてくるため、車内が臨場感に包まれるのもマークⅡの良さだと、終始顔が緩んでいる。少しハンドルを切れば鼻先が入っていき、アクセルを踏めばスムーズに加速するというフィーリングも、自分との相性が抜群で心地良いとのこと。
このマークⅡ GTツインターボは、シリーズ最強の1G-GTE型エンジンを搭載し、インタークーラーが従来の水冷式から空冷式に替わりパワーもアップしている。一見すると他のグレードと変わらないように見えるが、ハンドルを握ればその差は歴然で、ひと味違う鋭い走りが堪能できるというのも、このクルマから離れられなかった要因だったらしい。
「いや、僕は走りであまり良い思い出はないです。家族でスキーに行った時、もしかしたら、もうダメかもしれない…と、怖い思いをしたことがありましたから(笑)」
そう、すかさず突っ込みを入れたのは、今回の取材会に一緒に参加していただいた今年23歳になる息子さん。
当時、家族でスキーに行こうということになり、幼稚園児だった息子さんはワクワクしながらマークⅡに乗り込んだのだという。早起きして良かったと窓の外を眺めて一息ついていると、タイヤが見事に滑って、雪の中に突っ込んでいったそうだ。あまりのことに、目の前も頭の中も真っ白になり、到着後もスキーを楽しむ気にはなれなかったと、何ともいえない表情をしながら父に視線を送る。
「それは俺だって同じだよ! 前が結構凹んでいたから、こりゃあ鈑金かな? ディーラーで修理できるかな? って、気が気じゃなかったんだから(笑)」と、息子さんとそっくりの顔で、同じく何ともいえない表情をした。
登場から36年が経過していることもあって、ここ最近はモール類など新品で手に入る部品が徐々に減ってきていて、もう簡単にはぶつけることはできないのだ。
「ディーラーマンは15年経った辺りから、私に営業をしてこなくなりました。おそらく、もう乗り換えるつもりはないと悟ったんでしょう。その代わり毎回しっかり整備をしてくれるので、特に大きな事故もなく走行距離は24万kmを突破しました」
これまでに唯一いじったのはマフラーで、15年前に錆びて外れて壊れてしまったため、車検対応のもので、良い音がするHKS製のマフラーに交換したそうだ。いじったわけではないが…と、頭をポリポリ掻きながら教えてくれたのは、ボディをちょこちょこ擦っているらしく、再塗装した部分がそれなりにあり、年数が経つと共に瘡蓋のように禿げてきたことだという。
「ある意味これも味があって良いのかと、そのままにしています(笑)」
「屋根の低さ、サイズ感、ボディカラー、全体の雰囲気など、やっぱり僕はマークⅡのこういった感じが好きなんですよ。何がどうだとは明確に言えませんが、このままの状態が好きだから、この先も現状維持で乗っていきます」
セカンドカーを増車するわけでもなく、今でもこのマークⅡで普段の街乗りから遠出までしているのだと、優しい声で教えてくれたゴーストさん。
スライドドアのクルマにしない? 流行りのSUVは? という家族の声もあったそうだが、マークⅡに対するゴーストさんの情熱が家族にも伝わり『やっぱりマークⅡのままにしよう』という展開は毎回のことだという。
「宜しければ」と見せてくれた整備記録書には、これまで手を加えた箇所がびっしり記入され、大切にしっかりと乗ってきたのが伝わってきた。そのあいだに担当営業マンは何度も変わり「なんなら定年を見送ったこともある」と笑っていた。
「そうやってきたんですけど、娘はついに大学生の時にヤリスクロスを購入しました。いやぁ〜、というのもねぇ〜」
なんでも、娘さんをバイト先へ送る途中にエンストをして、遅刻してしまうという事態が起きてしまったのだとか。その一件で、今後こういうことがあっては困ると、ヤリスクロスを購入することになったのだという。2桁ナンバーのマークⅡを、できれば子供達へ引き継ぎたいと考えていたゴーストさんは、今回取材に同行してくれた息子さんに夢を託すしかなくなったと冗談で言った。
そんな息子さんは、休日のお出かけはレンタカー派らしく、ノートなどのコンパクトカーを選ぶことが多いらしい。しかし、車両移動の際に慣れた手つきで運転しているのを見ると、もしかすると…? ということがあるかもしれない。それをゴーストさんに伝えると、一瞬瞳の奥がキラッと輝き、満面の笑みでニコッと笑っていた。
今後もずっとマークⅡに乗っていくために、これからは同型車に乗っている人との情報交換を兼ねて、イベントに参加しようと考えているというゴーストさん。
そうするとまた新たな世界が広がり、マークⅡとのカーライフはまだまだ続くことになるのではないだろうか? となると…息子さんに譲るのはずっと先の話になりそうだ。
(文: 矢田部明子 / 撮影: 平野 陽)
※許可を得て取材を行っています
取材場所: 千葉みなと さんばしひろば(千葉県千葉市中央区中央港)
[GAZOO編集部]
トヨタ マークⅡの愛車記事
-

-
新車から36年。「他に乗りたいクルマが見つからない」マークⅡ GTツインターボとの揺るぎない絆
2025.11.09 愛車広場
-

-
新車発売当時から憧れたGX71型マークⅡを、カタログ写真のようなコンディションに仕上げる
2025.05.25 愛車広場
-

-
自分より年上のマークII GTツインターボを手に入れ『当時のカタログのような姿』を目指す日々
2025.02.27 愛車広場
-

-
中古車販売店で「僕を買って!」とアピールされた気がして愛車に。1996年式 トヨタ・マークII ツアラーV (JZX100)
2024.08.30 愛車広場
-

-
「トヨタ・マークⅡは私の出発点」14年間魅了され続けた、替えが効かない存在
2024.08.24 愛車広場
-

-
トヨタ・マークⅡ フォーチュナ(JZX110)に心奪われて
2024.03.28 愛車広場
GAZOO愛車広場 出張取材会in千葉
-

-
『セブンなくして今の自分は無い』RX-7に魅せられた男が語る、ロータリーと共にしたクルマ人生の軌跡
2025.11.30 愛車広場
-

-
憧れだった『インテグラタイプR』が今では居心地バツグンの“動くマイルーム” に
2025.11.28 愛車広場
-

-
夢の区切りで心機一転。憧れだった『86』を購入し、自ら切り開いた別世界の風景と未来
2025.11.26 愛車広場
-

-
一家3世代が同じハンドルを握るアルテッツァは、家族の歴史そのもの
2025.11.23 愛車広場
-

-
別れから20年の時を経て…S110型シルビアを“永久動態保存”すると決めたオーナーの情熱と息子へのバトン
2025.11.21 愛車広場
-

-
3.5リッターV6にこだわり13年かけて育てたアルファードは家族の一員
2025.11.19 愛車広場









