レア車を乗り継いできたオーナーが辿り着いた正統派セダン『トヨタ・ビスタ』の特別仕様車!

  • GAZOO愛車取材会の会場である霞ヶ浦緑地公園で取材したトヨタ・ビスタ N180Lプレミアムエディション(ZZV50型)

    トヨタ・ビスタ N180Lプレミアムエディション(ZZV50型)


自分にとってクルマは絶対に欠かせない存在だという『上野市ノラシネ』さん。それを象徴しているのが“自分の乗ってみたいクルマに乗らずに死ねるか!”という意が込められた、このニックネームだとニカっと笑った。

愛車歴は、ステップバン、キャロル、カローラⅡ、セドリックワゴン、レパードなどなど。メーカーやジャンルを問わずにいろいろなクルマを運転してみたいという思いから、所有期間は短いもので半年、長いもので7年というカーライフを送ってきたということだ。

そんな中、人生で初めて10万kmどころか、可能であればもっと走りたいと思わせるクルマに出会ったのだという。何を隠そう、それがここに登場するトヨタ・ビスタ N180Lプレミアムエディション(ZZV50型)である。

この型のビスタは、1998年7月に発売開始された5代目で、初代から4代目までは姉妹車関係にあった“カムリ”からは独立。日本国内向け専用車としてプラットフォームを一新し、4ドアセダンの『ビスタ』と、そのワゴン版の『ビスタ アルデオ』が加わるなど、デビュー以来もっとも大きな変更が施されたと言っても過言ではないモデルだ。

そんな5代目ビスタの中でも、上野市ノラシネさんが所有するモデルは、トヨタビスタ店の創立20周年を記念して誕生したレアなモデル。専用のボディカラーやスウェード調シート表皮、本革グリップを採用した木目調のステアリングホイール等を装備した特別仕様車なのである。

「あの時代のトヨタ車の伝統的なカラーリングが“パールツートン”やったから、それがこんな綺麗な状態で残ってるならば、絶対に自分のものにしやなあかんと思ったんです。Bピラーも黒の樹脂じゃないでしょ? あの頃のビスタにドアパネル一体の同一色なんて…ものすごく珍しかったんやから。とにかく、めっちゃカッコええなと思ったんです」

そう大絶賛するビスタに乗り換えるキッカケとなったのは、近年の猛暑が大きく関係しているという。というのも、ビスタの前に乗っていたスズキ・ツインは、エアコンが効かず、年々暑くなっていく三重県界隈の夏に耐えられなくなってしまったとのこと。

「ツインのエアコンは買った時から壊れとったから、しばらくはエアコン無しで頑張ってたんです。せやけど、2020年に入ったあたりから、もう耐えられへん! エアコン付きのクルマを買おう! ってなったんです」

なんとかその年の夏は乗り越え、翌年の夏に向けて中古車サイトで探し始めたのだという。条件は、家族に迷惑をかけない値段で、走行距離が少なく程度の良いもの。加えて、できれば人と被らないようなクルマに乗りたいというのがあったそうだ。
ちなみに、人と被りたくないというのは、昔からクルマ選びのマイルールだったと教えてくれた。

「長期戦を覚悟していたんですけど、探し始めて1ヵ月も経たんうちにポンっと出てきたんです。販売者はトヨタディーラーで、これは良い個体に違いないと、すぐに実車を見に行きました」

さっそく電話を掛けてみると、ディーラーマンは昨日掲載したばかりだと驚いていたそうだ。車両価格が16万円だったため、ヤレているのかと思いきや、その心配はどこ吹く風で、パールがキラッと輝いていたと話してくれた。尚且つ、担当者は細かいリクエストにも親身に対応してくれる方で、さっそく購入を切り出そうとした瞬間…。
「お客様、運転席の後ろのドアが、ものすごく凹んでおります」と、バツの悪そうな顔で切り出されたそうだ。

「ええ! とは思ったんですけど、このいかにもセダンらしいフォルムを見たら、後に引けなくなってしもてね。このクルマが登場したのは僕が30歳の頃やったんやけど、あの頃のビスタと言えばセダンやったなとか、後ろの丸目4灯はスカイラインやゼロクラウンとか、ビシッと決めたいクルマに付いとったなとか…。というか、それならこのビスタにも付いてるから負けてないやんかとか、いろいろと気持ちが持っていかれちゃったんですよ(笑)」

そんなわけで、結局ドアの凹みは車両価格を上回る金額をかけて鈑金で修理することになったそうだ。こうして愛車に迎え入れたビスタは、ほぼ誰とも被らないクルマだと満面の笑みを添えてくれた。

「限定車やから『懐かしい! 貴重ですね!』とか、声をかけられるんじゃないかと期待してたんです。実際は『このクルマは何?』って声は掛けられるんやけど「トヨタビスタです」と答えると『は〜ん』とか言って、スッとおらんくなるんです。おそらく、ほんまに知られてないんやと思います」

一時期は、クルマ好きが集まることで有名なパーキングエリアに行けば声を掛けられるかもしれないと、名古屋周辺から横浜まで通ったこともあったそうだが、何回駐車場に停めても収穫はゼロ。それならばと、ビスタオーナーとSNSで繋がろうとすると、がんばって探しても3人が限界だったということだ。

そうかと思えば、オークションに出品されたグリルが直ぐに落札されることもあるのだという。
「僕が知っている日本のビスタ乗りは、僕を入れて3人…。ということは、そのグリルを落札したんは、この2人のどっちかなんか?」と、眉間に皺を寄せていた。そしてすかさず、そういうニッチな所も途轍もなく愛しいのだと話してくれた。

そんな上野市ノラシネさんに、愛車の好きな箇所を聞いてみると、クルマとはまったく関係のない“がまかつ”という釣具メーカーのエンブレムを指差した。
休みの日に、しょっちゅう釣具屋さんに連れて行ってほしいとせがんでいた息子が、このエンブレムに気付いて笑ってくれればと思い貼ったそうだが、4年が経とうとしている今でもコメントはないと、少し寂しそうに肩を落とした。

「もしかしたら、息子はこのメーカーにあまり興味ないかもしれないんです。というのもね、後から気付いたんやけど、息子は“シマノ”という別メーカーのステッカーをクルマに貼っとったから。そうか、シマノ派やったんやな…」

他に好きな所を伺うと、乗り心地が良いのも気に入っているポイントだという。取材日の前日に三重県から神奈川県まで走ったそうだが、長距離を運転してもまったく疲れを感じないくらい静かで、速さというよりは、そこまでスピードを出さずにゆったり走りたいと思わせる仕様になっていると再確認したとのことだ。

サスペンションは“猫足っぽい味付け”になっているそうだが、そこまで縦揺れはせず、柔らかいだけではなく、それなりにトラクションも掛かる。言葉ではなんとも表現し難い乗り味とのことで「これはビスタに乗っている人しか分からない」と終始嬉しそうに説明してくれた。

「僕は、18才で運転免許を取ってから、クルマに乗らなかった日がほぼないんです。だからそもそも、クルマに乗らないということが考えられないんです」
週5のクルマ通勤に加えて、営業職だったため会社のクルマで毎日数百km、2年で10万km近くのペースで運転をするという。そして、土日は旧車のイベントに繰り出しているのだと満足そうに話して下さった。
それにしても上野市ノラシネさんは、特にクルマの話をする時には、活力にみなぎったすごく良い顔をする。

「購入した古いクルマが突然故障して乗れなくなって、急遽軽自動車を購入したこともありました。ただ、ダブルでローンがきて、『これはあかん!』なんてことも(笑)。それでもまたクルマを買ってしまうのは“乗らずに死ねるか”だからです。そんな僕やったけど、ビスタが最後のクルマになっても良いかと思えるほど、このクルマが好きなんです」

ビスタのどこが好きかを問うてみると『走り』『スタイル』『認知度が低いところ』を含め、そのすべてだという。何より気に入っているのは、運転している時間が上野市ノラシネさんにとって癒しの時間となっていて、乗れば乗るほど『可愛いやつや』と思えるところだそうだ。

「クルマに乗ることは、生きることなのかもしれません」と、やっぱり上野市ノラシネさんはクルマについて話す時、ものすごく良い顔をする。

(文: 矢田部明子 / 撮影: 清水良太郎)

※許可を得て取材を行っています
取材場所: 霞ヶ浦緑地(三重県四日市市大字羽津甲)

[GAZOO編集部]