第二の人生を『86』と共に楽しむ母に、MT免許を取得した娘が宣戦布告!?
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トヨタ・86(ZN6型)
娘さんと仲良く埼玉県の出張取材会に参加してくださった『KEIKO』さん。愛車は真っ赤なトヨタ・86(ZN6型)で、普段使いだけでなく、サーキット走行もこなすというマニュアルミッション車だ。
朝一番の撮影にも関わらず、86の運転席から颯爽と降りてきたKEIKOさんは、我々取材陣だけでなく他の参加者の方にも早速挨拶をして、すぐに打ち解けていた。大好きなクルマについて話すことがとにかく楽しいといったご様子で、我々の質問にもハキハキと答えてくれた。『こんなお母さん、いたらカッコイイな』と、クルマ好き男子が抱くイメージを、そのまま体現されたようなお人柄である。
KEIKOさんがクルマに興味を持つキッカケとなったのは、トラックドライバーをしていたお父さん。大きなトラックを自在に運転する姿がカッコ良く見え、お父さんと一緒にドライブに出かけた時は、街行くクルマの車種名クイズに答えるのがお決まりの遊びだったそうだ。
そうして自然とクルマ好きになっていったKEIKOさんは、19歳の時に日産・シルビア(S13型)を手に入れ、クルマ趣味をスタート。仕事も当初はクルマ関連の業界で働き、22歳の時にはダイハツのミラターボに乗り換えた。
それから、今回取材会に一緒に来てくださった娘さんを授かったのを機に、子育てを優先するため土日休みの仕事へと転職。もう一度スポーツカーを所有したいという願望もあったが、それはしばらく封印することにしたそうだ。
「娘が大学を卒業して、子育てがひと段落したのを機に人生第二のステージを開始しました(笑)。昔乗っていたシルビアは色が黒だったんですけど、当時から赤に憧れていたので、FRのスポーツカーで色は赤! という条件で愛車探しを始めたんです。ロードスターなども候補には挙がったんですけど、買い物や通勤にも使うので荷物が載せられた方がいいのと、何より86は赤が似合うデザインだと思ったので86にしました」
大学に最後の学費を振り込んだ瞬間から、目をキラキラと輝かせて久々のスポーツカー探しに取り掛かったKEIKOさん。そのハートを射抜いたのが86だったわけだが、実は当初購入したのはAT車だった。
「スポーツカーに乗ること自体が久しぶりでしたし、その時はまだそこまで乗り倒すこともないと思っていたのでATを選んだんです。けれど、すぐにツーリング仲間も増えて、年間3万kmペースで走りに出かけるようになって、だんだんATだと物足りなくなっちゃったんですよね。それで1年待たずにMTに乗り換えました(笑)」
持ち前のバイタリティから、一緒にツーリングに出かける仲間があっという間に増え、関東近県の山々はことごとく制覇していったKEIKOさん。86にはこれまで訪れた峠のステッカーが、勲章のように貼られている。
そして、もうひとつKEIKOさんの第二の人生に彩りを与えた新しい趣味がサーキットだ。子育て中もF1観戦に出掛けたりしていたそうだが、SNSでサーキット走行会の存在を知ると『憧れのサーキットを自分で走ることもできるんだ!』と開眼。思い立ったが吉日と、富士スピードウェイでサーキットデビューを果たしたそうだ。
「今は主に筑波サーキットに通っていて、シーズン中は月2回のペースで走りに行っています。エンジンはNAのまま、他の部分もできるだけノーマルに近い状態でタイムを出すことを目標にしています。足まわりだけはこだわっていて、車高調整式サスペンションは、お試しレンタルも含めて今のサスペンションで7セット目。結局フルオーダーになってしまいました(笑)」
助手席の前のグローブボックスには、コース図に気温やスプリングレート等を記録したメモが貼られており、ベストなセッティングを追求する研究熱心な一面も垣間見せる。ちなみに、これまでのベストラップは、筑波サーキット コース1000で41秒971、コース2000で1分9秒733だという。
特に筑波1000の41秒台は上級者と言えるタイムで「富士スピードウェイでサーキットデビューした時は、ホームストレートで100km/hも出せませんでした(笑)」と言うのが信じられないほど。
タイムアタックだけでなくドリフトにも熱心に取り組んでおり「コース2000で1分7秒台が出せたら、ドリフトに専念してもいいかな〜と思っています」とのことだ。
サスペンションはスプリングレートだけでなく、リヤのストローク量にもこだわってフルオーダーするなど、中身は玄人なKEIKOさんの86だが、見た目は女性らしく可愛くしたいというのがコンセプト。トムス製のエアロパーツを備えた上で、桜を描いたステッカー装飾が施してある。
KEIKOさんは一緒にサーキットやツーリングに出かけられる女性のスポーツカーオーナーを増やしたいという思いから、女性オンリーのグループも立ち上げた。現在では50〜60人ほどのメンバーが在籍しているそうで、KEIKOさんが培ってきた知識やノウハウも惜しみなく提供。若くても頑張ってスポーツカーを所有、維持している女性オーナーを応援している。
そして、当日着てこられたポロシャツに描かれていた『Garage M.F.R.』というのが、一緒にサーキットを走ったり、クルマのメンテナンスに協力してくれているプライベーターの友人。娘さんよりも若い男性だそうで「私は息子だと思っています(笑)」と話すが、性別や年齢を問わず、自然と仲間を増やせるのはKEIKOさんの人徳あってこそだろう。
そして、そんなKEIKOさんに今、燃えるようなライバル心を抱え、熱視線を送っているのが、取材会に同行してくれた娘さん。KEIKOさん曰く、こうしたクルマに関係したイベントごとには、以前はあまり参加したがらなかったそうなのだが、最近急に運転免許のAT限定を解除し、にわかにドリフトにも興味を示し始めているそう。せっかくなので、なぜ限定解除する気になったのか娘さんにも話を伺ってみた。
「限定解除したのは、悔しかったからです。自分もいつか86に乗れると思っていたのに、母が急にATからMTに乗り換えちゃったことに腹が立って。あと、母だけでなく家族や親戚はみんなMTに乗れるのに自分だけ運転できなかったので、いつか乗れるようにならなきゃと圧を感じていたところもありました(笑)」
娘さんが保育園に通っていた頃、KEIKOさんはミラターボで送り迎えしていたそうだが、娘さんは子供ながらにカーブを曲がる手前でGに備えて体重移動したり、グラブレールを掴んで体を支えたりするなど、どこか勘のいいところがあったそう。
86のタイヤや減衰力調整を変更しても『何か変わった?』とすぐ気が付くそうで、長年KEIKOさんの助手席に乗ってきたからこそ、ある種のセンサーが鍛えられているようだ。
「私もMTを運転するようになって、その難しさがわかったことで、余計に母のことを尊敬するようになりました。最近のイキイキしている母を見ていると、今が一番楽しそうだなって本当に思います。でも、母は自分で自分の運転が上手いって、コトあるごとにすっごい言ってくるんですよ。それって自己申告じゃないですか! いきなりサーキットで戦うのは無理があると思うので、最初はカートとかで勝負したいです!!」
インタビュー中に、突如娘さんの口から飛び出した母への宣戦布告! それを聞いていたKEIKOさんは驚きながらも、どこか嬉しそうな笑顔を浮かべていた。我々取材陣の方を見て「筑波のタイムがどれくらい速いか説明してやってください!」と、助け舟を求めるふりもしてみたが、心の中では『娘よ、受けて立ってやる!』と思っていたに違いない。
今回の取材会をキッカケに、期せずして明るみになった娘さんの母への想いと、勃発してしまった仁義なき母娘バトル。さあ、その行方やいかに!
(文: 小林秀雄 / 撮影: 平野 陽)
※許可を得て取材を行っています
取材場所: 埼玉スタジアム2002(埼玉県さいたま市緑区美園2-1)
[GAZOO編集部]
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