一目惚れから四半世紀。ホンダ・レジェンドクーペと歩む“永遠の蜜月”

  • GAZOO愛車取材会の会場である埼玉県の『埼玉スタジアム2〇〇2』で取材したホンダ・レジェンドクーペ(KA8型)

    ホンダ・レジェンドクーペ(KA8型)


25歳の時に新車で購入した愛車を、四半世紀以上の月日を経てなお所有し、変わらぬ愛情を注ぎ続ける。
そんな、なかなかできそうでできない贅沢な愛車生活を楽しんでいるのが、ホンダレジェンドクーペのオーナー『takekit』さんだ。
取材時は59歳で「年内には還暦を迎えます(笑)」と話してくれたtakekitさん。だが、そんなことはまったく感じさせない若々しさで、趣味のゴルフで焼けた肌が健康的。大好きな愛車に関する質問にも、実に楽しそうにハキハキと答えてくれた。

「子供の頃からクルマが好きで、人生最初の愛車は実家のクルマだったマツダのルーチェでした。友人はBMWに乗っていて『やっぱりドイツ車は安定感が一味違うよ!』なんて話もよく聞いていたので、少しずつドイツ車にも興味が湧いていったんですよね。それで次に乗り換えたのが、フォルクスワーゲンのジェッタでした。確かにドイツ車には数値に現れない“しっかり感”みたいなものがあって、正直今でも高速の安定性に関してはドイツ車が勝ると思っています」

クルマのメカニカルな部分であったり、自分で手を動かして機械いじりをすることも好きな方だと話すtakekitさんにとって、ドイツ車は肌が合う存在だった。
だが、そのように若くして日独のセダンを乗り継いできたtakekitさんのハートを射抜いたクルマこそ、1991年に発売されたレジェンドクーペである。

「当時ホンダはF1で大活躍していましたし、すごくスポーティなイメージが強かったんですよね。市販車にも最新技術を積極的に投入していて、メカニカルな面でも面白いことをやるメーカーだなと感じていました。レジェンドクーペが発売された時は、もう一目惚れとしか言いようがないんですけど(笑)、発売から2年近く経って、1992年の12月に新車で購入しました」と、愛車との出会いを振り返るtakekitさん。

「本革シートはもちろん、ドアバイザー、泥よけ、サンルーフバイザーなど、後悔しないように、当時、新車で付けられるものは全部付けました(笑)」と昔を懐かしむように目を細めた。
あらためて現代の目で見ても、リヤのボリューム感が際立つ個性的なワイドスタンスを誇るレジェンドクーペ。当時25歳だったtakekitさんが『こんなにカッコいいクルマがあるんだ!』と、強烈なインパクトを受けたことも頷ける、不思議なオーラが漂っている。

レジェンドクーペは、2代目レジェンドに追加された派生モデル。C32A型の3.2リッターV6エンジンを縦置きするFFミッドシップという特殊なレイアウトを採用し、スペシャリティクーペを名乗るに相応しい走行性能と個性を兼ね備えた。
基本構造はセダンのレジェンドと共通だが、全長で60mm、ホイールベースが80mm短くなり、全高は35mm低くなっている。結果的にワイド&ローなフォルムを実現し、前傾姿勢で今にも駆け出しそうな疾走感も獲得した。

また、当時としては斬新だった数々の技術も積極的に採用。自車の現在位置をドライバーに知らせるのが主な目的だったホンダ・ナビゲーションシステムを設定した他、ドアを閉じる際にモーターが作動し、ストライカーを強制的に引き込むアクティブドアロックも搭載。いずれも今では当たり前となった技術だが、こんなことができたらすごい! というアイディアを市販車にどんどん取り入れていた、当時のホンダの勢いと情熱を感じさせる。

「オリジナルのナビゲーションは壊れて使えなくなってしまったので、今は市販のカーナビをワンオフで取り付けて使っています。実際のところ自車位置はしょっちゅう狂うし、ノースアップしかしないしで、正直あまり使いやすくはなかったですけど、当時は周りからもすごいすごいと評判でしたね(笑)。その他にも本革シートにシートヒーターが付いているなど、先進的で快適な仕様は購入前にイメージしていた通りでした」

こだわり派のtakekitさんは、足まわりにも一切妥協しない。
「せっかくなら一流のものを」と、ホイールはBBS製の18インチホイールを装着。インセットも自分で計算し、最適なサイズを自ら選定したという。
サスペンションもドイツのメーカーで統一しようと、ビルシュタイン製をベースにしたオーダーメイドのダンパーをエナペタル社にオーダー。乗り心地は悪くせずに、タイヤとフェンダーの間に指2本が入る理想のクリアランスを実現した。アライメントもしっかりと取って、快適かつ安全に走れるセッティングを追求している。

「首都高速を走ることも多いので、気持ちよく走れるよう、足まわりには結構こだわりました。リヤシートもこう見えて意外と実用的で、4人にプラス4人分のゴルフバッグフルセットを積んでゴルフに行ったこともあるんですよ。まあ、後ろは女性2名でしたけどね(笑)」

Gerhard'sのテールエンドを持つマフラーで後ろ姿もスポーティに演出。「アコード ユーロRのレジェンド版みたいなイメージも意識しながらカスタマイズを楽しんでいます」とのことだ。
また、自分でこうしたいと思ったことはDIYにもチャレンジ。本来は上半分がオレンジ色のテールレンズをクリア化したり、黒地に金色の前後ホンダエンブレムもレッドにイメチェン。フロントは市販品に交換したが、リヤはもともと付いていた純正をベースにスプレーで塗装したという。

ちなみに、シートカバーなども含めてアクセントとして赤色を使うのは、もちろん『R』のイメージもあるのだが、埼玉県在住のtakekitさんが浦和レッズのサポーターであることも大きな理由なのだとか。
今回の撮影場所は期せずして、浦和レッズのホームスタジアムである『埼玉スタジアム2002』。takekitさんにとって思い入れのある場所で愛車と一緒に撮影できたことも、大いに喜んでくださっていたご様子だ。

「DIYしたポイントは他にもありまして、純正のヘッドライトがかなり暗い上に、702Kという珍しいバルブが使われているんですけど、それをLED化しています。メーター照明も純正だと暗いので、バックライトを赤く光るLEDに変えたりとか。そういった細かい情報は『みんカラ』で得ることが多いんですけど、レジェンドクーペ乗りは数が少ないので、自然と繋がりも生まれるんですよね。今では北海道から石垣島まで、仲間ができました(笑)」

セダンを含むレジェンド乗り仲間とオフ会で会って情報交換したり、時には部品を譲ってもらったりすることもあるというtakekitさん。実際に純正部品は手に入りにくいものが増えてきて、苦労の連続なのだそうだが、そういった横の繋がりに支えられていることには感謝しかないと話す。

「以前、福島県に行った際にオルタネーターが不調になって、動かなくなったことがあったんですよね。それもあって、なかなか遠出も難しくなってきたなと今では屋根付きの駐車場で保管して、土日くらいしか乗らなくなりました。今もドアのインナーハンドルの具合が悪かったり、エアコンは風量をマックスにしないと冷えなかったりとか、マイナートラブルは絶えないですね(笑)。でも、レジェンド乗り仲間のおかげでなんとか乗り越えてきたこともたくさんありますし、馴染みのホンダディーラーの工場長もよくしてくれるので、これからも何とか現状維持しながら大事に乗っていきたいです」

ABSからオイル漏れを起こした際には、純正部品が既に製造廃止になって困っていたところ、他車種用の部品が一部流用が効くことを確認し、修理できたこともあったのだそう。予防措置的にタイミングベルトの交換も行うなど、先手先手のメンテナンスを心がけているという。

「もうこれ以上いじることはないかなと思いますけど、一目惚れして一緒になった愛車ですから、このまま意地でも添い遂げたいですね」
ここまで深い愛情を持って大事にされるレジェンドクーペも、きっと本望に違いない。
日本が華やかで元気に溢れていた時代を象徴するスペシャリティクーペと、takekitさんの蜜月の日々は、これからも静かに、しかし確かに続いていくことだろう。

(文: 小林秀雄 / 撮影: 平野 陽)

※許可を得て取材を行っています
取材場所: 埼玉スタジアム2002(埼玉県さいたま市緑区美園2-1)

[GAZOO編集部]