自身の分身として家族の成長を見守り、共に歩み続けるランドクルーザー80というファイナルアンサー

  • GAZOO愛車取材会の会場である埼玉県の『埼玉スタジアム2〇〇2』で取材したトヨタ・ランドクルーザー80(FJ80G型)

    トヨタ・ランドクルーザー80(FJ80G型)


2025年現在、現行モデルのランドクルーザーは、300系、250系、70系という3モデルがラインアップされ、2026年の年央には新型となるランドクルーザーFJの発売が予定されている状況だ。そんなランドクルーザーの卓越した悪路走破性は、国内に留まらず世界中で高く評価され『陸の王者』という呼び名でも知られている。

75年近いランクルの歴史を振り返る時、語られることの多い重要なトピックのひとつが、昭和から平成に変わった年にモデルの系譜が乗用系とヘビーデューティ系の二手に分かれたことだ。元号が変わった時代の転換点において、ランクルもまた新しいチャプターを刻んだのである。
ヘビーデューティ系に分類されたのは、今なお現行モデルとして展開されている70系だが、もう一方の乗用系に分けられた最初のモデルこそ、今回の主人公『マネー86』さんが愛車として長年乗り続けている、通称80系と言われるランドクルーザー(FJ80G型)だ。

ランドクルーザー80が初公開されたのは、1989年に開催された東京モーターショー。その時の展示車を生で見たマネー86さんは、ランクル80に一目惚れ。絶対に買うぞと心に決めたそうだ。
「当時はすぐには買えませんでしたので、お金を工面するのに2年掛かりました。1991年の4月に新車で購入したんですが、それから一度も買い替えることなく、今に至っています。まだ独身でしたから嫁さんにとっても旦那のクルマと言ったらこのランクル、もちろん子供たちにとっても親父のクルマと言ったらこのランクルという感じで、我ながら長く乗っているなと思いますね(笑)」

マネー86さんが四駆にハマった最初のきっかけとなったクルマは、ランクル80の前に乗っていたYN60型の初代ハイラックスサーフ。まだクロカンブームが来る前の時代だったが、大きなクルマに惹かれた理由は、ちょっと切ない個人的な経験が影響している。

「ハイラックスサーフに乗る前は、510型のブルーバードやハコスカ、セドリック、フォルクスワーゲンのゴルフ1などを乗り継いでいました。もともとそういったコンパクトなクルマが好きだったんですけど、ゴルフに乗るようになって2年半くらい経った時、正面衝突の事故を経験したんです。クルマは廃車になってしまい、かなり怖い思いもしたので、次のクルマは大きいクルマにした方が安心だなと思ったんですよね」

そういった経緯もあって、ハイラックスサーフの発売を知るとディーラーに赴き、そのまま予約、購入したというマネー86さん。初めて購入したクロカン4WDは思った以上に楽しく、河原へキャンプに出掛けるなど、今までにない新しい趣味を見つけることに繋がったそうだ。

「それからランクル80に買い替えたわけですけど、少し後悔もなくはないんですよ。というのも、当時ディーゼルに関してはNOxの規制が入るらしいと巷で噂されていましたので、発売当初に設定されていた4.0リッター直6ガソリン車を購入したんですが、ガソリン車はそれからすぐ4.5リッターの新型エンジンに進化したんです。96年にはワイドボディに変更になったりと、さまざまなアップデートが繰り返されたんですよね。ただ、その気になれば新しい仕様に買い替えることだってできたんでしょうけど、不思議とそういう気が起きることもなかったですね(笑)」

購入したクルマが途中でマイナーチェンジしたり、ハードウェア的に進化したりすることはよくある話だが、この世に一台しか存在しない愛車に対する愛着の持ち様や度合いというのは、やはり人それぞれ。モーターショーで一目惚れし、2年掛けてお金を貯めてようやく購入したランクルは、本人すら気がつかないうち、かけがえのない存在へと成長していたようである。

「独身時代は仲間と始めた草野球に出掛けたり、結婚して子どもができてからはキャンプやスキーに出掛けたりと、自分自身や家族の成長とともにランクルがあったという感じで、本当によく走ってくれたなと思います」

そうマネー86さんが語る人生の履歴を思わせるように、ランクルからはそのクルマにしかない味わいのようなものが随所に感じられた。
たとえば塗装はドア4枚分こそオリジナルだが、その他の部分は塗り直しているそうである。

キャンプ道具がたくさん載せられるようにと取り付けた、無骨なルーフラックはサンルーフの開閉に影響しない長さ。取り付けた状態で構造変更を行っているため、今では逆にルーフラックが付いていないと車検を通すことができないという。
ちなみにサンルーフからの雨漏りはランクル80のあるあるネタらしいのだが、屋根下保管が奏功してか、マネー86さんは今のところ未経験。「その他のトラブルならいくらでもありますけど、そこだけはラッキーでした(笑)」とのことだ。

サスペンションには四輪のバネレート設定がすべて異なる、デューン製ジオラマデバイスのコイルスプリングを使用。ショックアブソーバーも10年に1回のペースで交換している。車高はその気になればもっと高くすることもできるそうだが、普段の乗り降りのしやすさも考慮して“ちょい上げ”くらいに収めている。

ホイールは4×4エンジニアリング製のブラッドレー16インチで、タイヤはBFグッドリッチのオールテレーンT/Aを組み合わせる。ゴツい見た目で選んだフロントバンパーはオーストラリア製。乗用系の始祖とは言え、クロカン性能もしっかり備わるランクルには、マネー86さん好みのカスタマイズが数々施されている。

「メンテナンスに関しては昔から見てくれている馴染みの整備工場があるんですけど、さすがに古いクルマなので、オイル漏れとか、エアコンが効いたり効かなかったりとか、なかなか直り切らないトラブルも出てきてはいるんですよね。製造廃止になっている部品も多いですし、苦労は尽きないですけど、なんとか現状維持で大切に乗り続けていきたいと考えています」

そう言って目を細めたマネー86さんは、実はこの取材が行われたおよそ1ヶ月前に定年退職を迎えたばかり。現役時代は通勤のためにほぼ毎日乗っていたランクルとも、今後はもう少しゆったりしたペースで付き合っていくことになりそうだと教えてくれた。

そして、この日の取材には長年ファミリーカーとしてランクルに親しんできたご長男も一緒に参加。ランクルとの思い出について聞いてみると、やはり家族みんなでアウトドアに出かけたことが一番印象に残っているとのことだった。
一方で、将来お父さんからランクルを継承したいかと聞くと「それはちょっと荷が重いですね」と苦笑い。ご自身も最近GRヤリスを購入したそうで、クルマや運転することの楽しさを満喫中なのだそうだ。
「あまりクルマに興味を示すタイプじゃなかったんですけどね」と言うマネー86さんだが、やはり息子さんとクルマの話ができることは素直に嬉しい様子で、取材後に久々にクルマでどこに出掛けようかと親子トークに花が咲いていた。

「20代の時に草野球をやっていた仲間たちとは、今でも『生存確認会』と称して年に一度は飲み会を開いているんですが、ランクルの話題になると『お前まだあのクルマ乗ってるの!?』と言われるのがお決まりになっているんですよね(笑)。当時はスキーにもよく一緒に行っていましたから、レガシィとかスプリンターカリブに乗っていたメンバーもいるんですけど、すっかり乗り替えちゃっていますからね。私は、もはやランクルは自分の分身のようだと思っているんですよ。二桁ナンバー(大宮33)と言うところにも誇りを持っていますし、免許を返納するまでずっと乗り続けたいと思っています」

ランクルを終の住処ならぬ終のクルマと決めているマネー86さん。定番のオイル漏れ箇所などは自ら定期的にチェックし、必要とあらば交換すべき部品の手配も、前もって自分で行うなど『分身』と語る愛車のコンディション維持には余念がない。

とかく物が使い捨てにされやすい時代において、語り継ぐべき愛車ヒストリーを聞かせていただくことができて、我々取材班も『これぞ愛車広場!』と、感謝の念に堪えない思いでいっぱいとなったマネー86さんへのインタビュー。
ぜひ『終のクルマ』というメッセージを有言実行し、これから迎える第二の人生においても楽しいランクルライフを送り続けていただきたい。

(文: 小林秀雄 / 撮影: 平野 陽)

※許可を得て取材を行っています
取材場所: 埼玉スタジアム2002(埼玉県さいたま市緑区美園2-1)

[GAZOO編集部]