高校時代に一目惚れしたHR30スカイラインと運命の再会を果たし昭和車ライフを謳歌する

  • GAZOO愛車取材会の会場である島根大学 松江キャンパスで取材した日産・スカイライン2000ターボGT-E・S ポール・ニューマン・バージョン(HR30型)

    日産・スカイライン2000ターボGT-E・S ポール・ニューマン・バージョン(HR30型)


数ある旧車の中でも、高い人気を誇る車種のひとつとされている日産スカイラインの6代目モデル(R30型)。CMに俳優のポール・ニューマン氏を起用したことから『ニューマン・スカイライン』とも呼ばれるモデルだ。
なかでも、“ケンメリ”ことKPGC110型スカイラインGT-R以来、ひさびさのDOHCであるFJ20型エンジン搭載モデルとなった『RS』および『RSターボ』グレードはひときわ多くのファン層に支持され、中古車市場でも高額で取引されていることはクルマ好きなら周知の通りである。
ところが、島根大学で開催した出張取材会にご参加いただいた『栓抜き一等兵』さんが心惹かれたのは、RSなどのDR系ではなく、L型6気筒エンジンを搭載したスカイライン2000ターボGT-E・S(HR30型)であった。

彼がクルマ好きになったのは、かつてZ32型フェアレディZや、E39A型ギャランVR-4を所有していたという父親の影響が大きいそうだが「最も大きなキッカケとなったのは、3歳の頃からケーブルTVで見ていた『頭文字D』のアニメですね。だから幼少の頃はAE86がカッコ良いなと思っていました」とのこと。

「転機が訪れたのは、それからしばらく経った高校生の頃、自動車系SNSでスカイラインGTターボの動画を見た時ですね。最近のクルマはターボ付きでも静かですが、L型ターボが発するキィィーンっていう過吸音にシビれて『将来乗るならコレだ!』と決意したんです。L20ターボは、他にもローレルやセドリック、グロリアなどにも搭載されていたけど、カタチ的にスカイラインが一番しっくりきましたね」

その後、自宅から30分ほど離れた場所にある鳥取・境港の有名旧車専門店『リスタード』にHR30スカイラインターボの実車があることを聞きつけ、当時はまだ免許を持っていない高校生だったにも関わらず足を運び『免許を取ったら買いに来ます!』と伝えてショップを後にしたという。
そのときに実車から受けた感動は計り知れず、これまで以上に同車の魅力にハマっていったという栓抜き一等兵さん。翌年には高校を卒業し、めでたく運転免許を取得。勢い勇んでショップに問い合わせをしたところ、残念ながらすでに売約済みとの返事が…。

「僕が見学に行ったすぐ後に売れてしまったようでした。ポール・ニューマン・バージョンという希少車で、車体もキレイでしたからね。仕方がないのでU12型ブルーバードセダンSSSアテーサを買いました。ハイ、これが運転免許を取って初めてのクルマです」

「SRエンジンは僕の好みではなかったので、あえて前期型のブルーバードに搭載されているCA18エンジン車を選びました。自分ではあまり意識してないけど、どこかアマノジャク的な感覚があるようです。父からは『古いクルマはいろいろ苦労するから、これで最後にしとけ』と指導が入りましたが…」
さらに小回りの利く普段の足用にと、父親が使用していたミニキャブ(U42T型)を譲り受け、ブルーバードとの2台体制に。ミニキャブが半年ほどでエンジンブローとなった後は「一度、2ストロークエンジンのクルマに乗ってみたかった」と、スバル360を手に入れるなど、ハタチ過ぎの年齢とは思えないユニークなカーライフをエンジョイしてきたそうだ。

そして、実はこの期間も前段で触れたカーショップとの交流は続けられており「HR30スカイラインの程度の良い個体が出てきたら、ぜひ乗りたいです」と話をしていたところ、その言葉が現実となる日がやって来る。

「昨年の11月のことですが、私が以前買い損なったそのものの実車が、出戻りで帰って来たとの連絡がお店から入りました。もちろん、翌日にすぐに見に行って即決しました。高校生の時に見た時からはホイールが変わっていて、車高も下げられていましたが、そんなことは後でどうにでもなる小さな話で、ようやくHR30スカイラインのオーナーになる夢が叶った喜びの方が遥かに大きかったですね」

こうして、それまで乗っていたブルーバードとスバル360は2台セットで売却。ちなみに、スバルについては所有していた1年半のうち半年間は修理のために工場に預けっぱなしだったそうで、代わりに普段乗りとしてダイハツの初代ムーヴを手に入れたのだとか。

20代前半の若さでクルマの2台持ちと聞くと、どこか贅沢な印象を受ける方がいらっしゃるかも知れないが、冬場は雪による交通への影響が厳しい山陰地方では、普段使い用と純粋な趣味用という複台数の所有はそれほど珍しい話ではないとのことだ。

さて、話をスカイラインに戻そう。栓抜き一等兵さんが手に入れたのは、1984年式の日産・スカイライン2000ターボGT-E・S ポール・ニューマン・バージョン。
ポール・ニューマン氏のサイン入りステアリングホイールや8ウェイ電動マルチバケットシート、ダイバーシティFM受信システム、15インチホイールなどを備えたGTシリーズの最上級スポーティー車として、1983年に追加設定されたモデルだ。

晴れて念願のHR30オーナーとなった栓抜き一等兵さんがまず着手したのは、自分仕様へのモディファイ。
ホイールは80年代から90年代初頭にBMW用として人気を集めたハルトゲ製へと交換し、車高もDR30純正ダンパー&スプリングでノーマルレベルに戻された。
さらにフロントグリルには『1980年代当時は街角でフツーに見かけた仕様』というスタイルを意識したJAFのバッジをプラス。内装ではナルディ製のステアリングが目に付くが、これは純正のレザーの経年劣化が深刻だったためで、ポール・ニューマン・グレードの特別仕様のシートなどはそのままの状態で維持されている。

「ステアリングもアルミホイールも、純正品は自宅に保管しています。人によってはフルノーマル、フルオリジナルこそ王道、という意見もあるかも知れませんが、僕的にはそれだと“自分のクルマ”という感じがしないので、全体的にはノーマルの雰囲気を残しながらも、好みのパーツを取り付けています。バンパーは前のオーナーさんがアンダーボディと同色に塗装したようですが、ここは先々、ノーマルの黒いウレタン素地に戻すつもりです」

まだ購入から半年余りで、乗るのは天気の良い休日に限定しているということで、L型ターボの走りを存分に楽しむのはこれから。さらに今後の目標としては、トランスミッションのマニュアル化にも着手予定とのことだ。

「マニュアルミッション化への部品は全部揃っているので、あとはお店の方の受け入れ体制次第かな? 日頃から色々無理をお願いしているので、しばらくは様子見ですが(笑)。それにATミッションでゆったり流すのも、なかなかどうして、悪くないですヨ。走行距離は14万3000kmですが、エンジンやタービンは至って好調です」

「ドライブ中の音楽ですか? たまに昭和歌謡も聴きますし、今日も沢田研二をかけて来ました。旧いもの好きは誰の影響なのかは分からないですね。たまに代車とかでイマドキのクルマに乗ることがあるけど、僕はオートエアコンが嫌いなんです。いきなり風がブワッと出てくるでしょ? あれが苦手で。運転中は少し暑いくらいがちょうど良いですね。あと、アイドリングストップのOFFのスイッチを探すのにいつも苦労しています。こんな23歳って、やっぱりヘンですかネ?」

いやいや、ヘンどころか、とくに高齢化が進む旧車業界において、そのクルマの持ち味を理解して、保全に取り組む若者の姿はむしろ歓迎されてしかるべき。ちょっと(いや、かなり?)渋めな感性を備えた23歳の青年と『スカイライン2000ターボGT-E・S』とのネオ・クラシックなカーライフに幸あれ!

(文: 高橋陽介 / 撮影: 平野 陽)

※許可を得て取材を行っています
取材場所:島根大学 松江キャンパス(島根県松江市西川津町1060)

[GAZOO編集部]