憧れだった姉妹車『ファミリア アスティナ』と『ユーノス 100』の2台所有は、自身の人生へのご褒美
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マツダ・ユーノス100(BG8PE型/写真左)とファミリアアスティナ(BG8P型/写真右)
『我が目を疑う』とは、まさにこのこと。今、目の前に並んでいるのは7代目ファミリアのボディバリエーションのひとつとして設定されていたBG8P型ファミリアアスティナ(写真右)と、その高級仕様としてマツダ5チャンネル体制時代の一角を担っていた、ユーノス店向けに仕立てられたBG8PE型ユーノス100(写真左)である。
令和の現代に、この2台が顔を揃えている光景だけでもクルマ好きにとってはなかなかの衝撃だが、さらに驚くべきはこの両車が同一人物の所有車であるということ。
その人物とは、GAZOO愛車広場 出張取材会の会場としてご協力を頂いた島根大学で、地質学や自然科学の研究に従事している『ichiro』さん。この眼福コンビが揃うまでの経緯について、お話を伺っていこう。
「私は“スーパーカー世代”の人間なので、平成元年にアスティナが発売された時、5ドアハッチバックにリトラクタブルヘッドライトという斬新なスタイルに一目惚れしました。その時は、まだ学生だったので購入を考えるほどの余裕はなかったけど、3年後に就職が決まった後、すぐにディーラーへと走りました」
「この時、購入を迷ったのがユーノス100でした。見た目的には雰囲気がちょっと高級路線で、フローティングタイプのリヤスポイラーを備えた100の方が好みでしたが、スペックで比べると、排気量は同じ1.5リッターながらエンジン型式の違いでパワーが5ps高かったアスティナを選びました。やっぱり若い頃って、パワーに目が行っちゃいますよネ」
3年間憧れた末に、ようやく手に入れたアスティナの走りは期待以上のもので、当時は東京在住だったichiroさんは「仕事で辛いことがあった時も首都高をゆったりクルージングするだけでリフレッシュできた」というほど、愛車は生活において無くてはならない存在になっていたという。
しかし、多くの方がそうであるように、年齢を重ねていくごとに自身を取り巻く環境が変化し、購入から8年が過ぎようとした頃、結婚を前にアスティナとの別れが訪れてしまう。
「妻は独身時代カリーナEDに乗っていて、私はアスティナ。同じような背(車高)が低いクルマが2台あっても…という話になり、ともにクルマを売却したのち、妻の意向を尊重してトヨタのマークIIに乗り換えました」
しかし、初めてのマイカーとして、文字通り溺愛していたアスティナを手放してしまったショックと大きな喪失感から、マークIIを所有していた時期の記憶がほとんど残っていないと語るichiroさん。
その後、子供たちの成長に合わせてプレサージュ、エクストレイルと乗り換えるなど、10数年の時間が経過した頃、思わぬ転機が訪れる。
「あちこち移動を伴う仕事が増え始めて、エクストレイルは家族用のメインカーだったので私が自由に使えるクルマが必要になったんです。もちろん『これは良い機会だ!』と、すぐにアスティナを探し始めたものの、とうの昔に生産を終えていたので市場で姿を見かけることはほとんど無くなり、たまに見つかっても状態はそれなりの個体しかなく…。妻からは『もう、実用性のある軽自動車が良いんじゃないの?』と、プレッシャーをかけられていました。それでも、どうしても諦めきれず、毎日のようにインターネット上で探していると、東京のあきる野市で私の理想通りのアスティナを見つけたんです」
その販売店は、いわゆるマイナー車に特化した、マニア系クルマファンの間では知られた存在。実車確認のために店頭に足を運んでみたところ、エンジンや内装ともに新車のような状態に保たれていたことに驚かされたという。
しかも、かつてichiroさんが社会人一年生だった頃、予算不足で諦めていたサンルーフやフォグランプといったオプションが“全部載せ”されていた点も決め手となり、即決。こうして長年のブランクを経て、再びアスティナとのカーライフをスタートさせた。
その蜜月ぶりは2023年に当サイト内において紹介済みだが、今回の本題はこれから。
アスティナとの再会を機に『アスティネイション』というオーナーズクラブに入会し、SNS上などでメンバーとの情報交換を続けていたichiroさんだったが、今から6年ほど前、またもや大きな転機が訪れる。
「そのクラブの主要メンバーの方から『自分が所有するユーノス100を引き取ってくれないか?』という話を持ちかけられました。もちろん、私がすでにアスティナを所有しているのは向こうも承知の上ですが『島根は駐車場代が安いし、大学の先生ならきっと大事にしてくれるだろう』という、よく分からない理由(笑)で説得を受けました」
「確かに100は昔、最初のアスティナ購入時に迷ったクルマだったし、マニュアルミッションという点にも惹かれたけど、家族用のエクストレイルもあって普通車を3台所有できるほどお金に余裕は無いよと困惑していると『無償で構わない』との連絡が。念のため妻に相談したところ許可をもらえたので、引き受けることになりました」
本当のところ、最初に譲渡の話を持ちかけられた際に、困惑した態度を取ってはいたものの、そこは現役の大学研究員。アスティナと同じ排気量とスペックながら、BP型エンジンのアスティナ、BP-ZE型エンジンの100と、型式が異なるエンジンの特性や、マニュアルとオートマチックというミッションの違いにより、どんな走りの変化が見られるのか大いに興味が沸き始め、内心はワクワク気分だったという。
「しかも、どちらも最上級グレード。パワーも同じ135psで、純粋な違いはミッションだけ。この微妙な差が面白くて、ギヤ比や燃費など、乗り味に与える影響についてクルマ仲間に協力してもらいながらデータを取って、論文にまとめました。別にどこかの学会で発表するワケではなく、ただの自己満足ですけどね」
とにかく、この2台が好きで好きでたまらないという思いが、お話の端々からも伝わってくる。
当たり前の話だが、普段の外出時にはどちらか1台しか乗って出ることができないが、今回は取材の事前準備として、前日にアスティナを校内に持ち込み、バスに乗って一旦帰宅。取材当日はユーノス100に乗ってきたことで“2台絡み”の撮影体制を実現させたという。
これには本人も「いやァ、やっぱりカッコイイ! 最高だなァ〜!」と、取材の合間にもスマホで激写。そんなichiroさんの姿はまさにスーパーカーブーム全盛期の頃、カメラを片手に意中の一台を追いかけていた少年そのものであった。
「アスティナと100、どっちが好きかと聞かれても選べないですよ。双子の兄弟を持った親の気持ちです。他に乗り換えたくなるようなクルマは見当たらないし、どちらかエンジンが壊れたら、載せ替え用のエンジンを探します。この先も手放すつもりはないので走行距離とかリセール性なども考えなくて良いから、気分的に楽ですよ」
「強いて言えばディーノ246GTか、ランボルギーニ・ミウラのどちらかであれば、アスティナとの交換を考えてもいいです。私にとってスーパーカーの最高峰と言えば、この二台ですので。フェラーリ308GTBだったら? いやいや、断然アスティナですよ。こんなこと言ったら、跳ね馬ファンの皆さんから怒られるかもしれませんね」
今回の撮影で、ファミリア アスティナとユーノス 100、両方での愛車広場取材を達成したichiroさん。
万一、手放さざるを得ない日が来た時には、売却などせず『マツダに寄贈したい』とまで言い切る。そんな、かなりディープなところまで一貫した偏愛主義に拍手! (笑)
(文: 高橋陽介 / 撮影: 平野 陽)
※許可を得て取材を行っています
取材場所:島根大学 松江キャンパス(島根県松江市西川津町1060)
[GAZOO編集部]
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