VTECと音楽を積んで、ホンダ・アコードワゴンSiRと生きる日々
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ホンダ・アコードワゴンSiR(CH9型)
ファッションに流行があるように、クルマにも時代ごとの人気や定番が存在する。
1990年代から2000年代初頭にかけては、2ボックス型の『ステーションワゴン』が大きな注目を集め、各メーカーが競うように多彩なモデルを投入した。そのブームを牽引した一台が『century』さんが所有する、2000年式ホンダ・アコードワゴンSiR(CH9型)だ。
初代、2代目のアコードワゴンは、ホンダ・オブ・アメリカで製造された逆輸入モデルだったのに対し、1997年にデビューした3代目(CF型)は日本で設計・製造される純国産モデルへとシフト。ステーションワゴンブームと共に人気を集めた2代目から人気を引き継ぐことで、特にドレスアップユーザーから絶大な支持を得て、その販売台数を伸ばした。
同時期、ホンダはシビックやインテグラにTYPE Rを設定し、スポーツ性能への評価も高まっていた。そんな流れの中で、アコードワゴンにもVTECエンジンを搭載した『SiR』グレードが登場。走りのDNAが注入された一台として注目された。
centuryさんが選んだのは、まさにそのSiRグレード。本当ならMTで乗りたかったというが、ワゴンにはATの設定しかなかったため、人生初となるAT車として8年前に手に入れたという。
そんな彼のカーライフは、スポーツ走行一筋だった。
「もともとは国内Aライセンスを取得し、島根ニスモで製作してもらった180SXでサーキット走行をしていました。けれど、車齢30年を目前にして車体のひび割れによって競技車検には受からない状態になってしまったんです。そして、次はZ32に乗り換えたのですが、こちらもパワステの故障に悩まされるようになり、そろそろ落ち着こうかと思ったタイミングで探したのがこのアコードワゴンでした。職業が音楽家のため、楽器を運んで遠征できるし、何よりも昔から気になっていたクルマだったんです」
サーキットで走ってきたからこそ、“落ち着く”といっても、最低限のパフォーマンスは譲れなかった。だからこそ、選んだのはアコードワゴンの中でも200psを発揮するVTECエンジンH23Aを搭載したSiRの一択だったという。しかしながら、以前から興味はあったものの具体的に購入することを考えたことはなかったため、ATしかラインアップされていないという事実は探しはじめてから知ったのだとか。
こうして見つけたのは、ワンオーナーでガレージ保管のフルノーマルで極上車。走行距離も5万kmとまだまだ短く、これから長く楽しめる個体ということで購入を決意したそうだ。
ちなみに、購入当初には、試しにサーキットを走らせたこともあったというが、当然のようにこれまで乗り継いだクルマとは性質が異なり、インプレッションは“イマイチ”という感想にしかならなかった。そして、逆にこの感覚が新鮮に映ってしまったことで、新たなクルマの楽しみに目覚めてしまったという。
「これまでは、数十万円をかけてコンマ何秒のタイムを削ることに全力で取り組んでいたわけですが、アコードワゴンはサーキットを走らせるクルマじゃないと早々に判断しました。それならば、当時はそれほど興味がなかったドレスアップを楽しんでみようと考え方を変えてみたんです」
手始めに選んだのは、1990年代らしさを演出するRAYS製のアルミホイール『ベルサス・カンピオナート』。
さらにこだわったのが、ホンダ純正アクセサリーの『モデューロ』と『ホンダアクセス』による2段構えのリヤスポイラー。特に上段のウイングは専門店でようやく見つけた貴重な一品だという。
空力パーツとしての性能を求めたというよりは、2段構えのデザインで、当時のブームを再現する貴重なスタイリングという算段である。
「このアコードワゴンがデビューして、気になっていたのがこの2段ウイングなんです。もはや売り物としては世の中に存在していないのでは? と思っていましたが、アコードの専門店で探してもらい、やっと手に入れることができました。特にこの上段にあるホンダアクセス製のウイングは頑張って探してもらった甲斐があって、このクルマの中でも気に入っているパーツのひとつですね」
音楽家としても多忙なcenturyさんは、島根大学教育学部を卒業後、音楽講師として学校に出向くかたわら、バンド活動やローカルアイドルのプロデュースもこなすマルチな才能の持ち主。だからこそ、楽器を積めるアコードワゴンは仕事道具としても重宝しているのだ。
「このアコードワゴンに乗り換える前は、スポーツカーばかりに乗っていましたから、ラゲッジスペースが小さいクーペに、どうにか楽器を積み込んで移動していたんです。だから、ワゴンに乗り換えた時はいろいろな楽器が積み込めて、さらに生徒も乗せられるのに感動しましたね。これまでパズルのように工夫して楽器を積み込んでいた苦労はなんだったんだろう(笑)って思っちゃいましたよ」
手に入れた時には極上車だったとはいえ、乗り始めて8年。さらに四半世紀が経過する車体だけに、以前はラジエターの内部が詰まってしまいオーバーヒートしたこともあったのだとか。
また、ボンネット裏のインシュレーターは経年によってボロボロになってしまったため、新品パーツへの交換を考えたものの部品は製廃。そこで市販の断熱材を使ってDIYメイクも行っている。
また、リヤのSiRエンブレムはシビック用を流用し、余った分をフロントに配置している。
サーキットを走っていた頃には気にならなかった細部のビジュアル変化を楽しむようになったのも、このアコードワゴンを手に入れたことで広がった世界だ。
インテリアはエアバッグ部分にVTECのレタリングを施す以外はノーマルの状態をキープ。ナビゲーションユニットに関しては、購入時に装着されていたものがDVDナビで、なおかつアナログTVモデルだったこともあり、納車されたその日に最新版へと刷新したという。
スペアタイヤ部分に組み合わされるのは、2000年代初頭にラインアップされていたカロッツェリアのウーファーユニット。ラゲッジスペースを潰さず高音質を求めるユーザーニーズに向けられた、ステーションワゴンブームならではの逸品だ。こういった音質の向上を目的としたカスタマイズも、音楽家だからこそこだわりたかった部分だろう。
また、ヘッドアップディスプレイなどのデジタルガジェットも、アコードワゴンに乗り換えたからこそ興味が湧いたジャンルなのだとか。
「ライブ活動のために自分の楽器を運ぶのはもちろんですが、指導している小学校のブラスバンドでは、脚を畳めるティンパニーを3台積み込めるんです。それでも2人乗車できるのは、ステーションワゴンのメリットですね。もちろんミニバンの方が積載能力はありますが、スペース効率とスタイリングを両立したアコードワゴンは、自分が求める性能をすべて備えた唯一無二の存在かもしれません」
centuryさんにとってのアコードワゴンは、当時風のスタイリングにちょうどいいパフォーマンスを備えるとともに、クルマに対する新境地を開拓してくれたかけがえのない存在。さらに人も楽器も載せられるユーティリティの高さによって、仕事面でも大活躍してくれる相棒である。
現在の走行距離は18万kmに達しているものの「修理がお手上げとなるまでは乗り続けていくつもりです。それは、これ以上に満足できるクルマが他に存在しないから」と語る姿からは、愛車との深い絆が感じられた。
(文: 渡辺大輔 / 撮影: 稲田浩章)
※許可を得て取材を行っています
取材場所:島根大学 松江キャンパス(島根県松江市西川津町1060)
[GAZOO編集部]
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