「ドラテク磨きもカスタムも楽しみたい」初愛車スズキ・アルトワークスとの日々
普通車も顔負けの戦闘力を秘めたホットモデルとして、数多くの軽自動車ファンを虜にしてきたアルトワークス。その系譜はHA22S/HA21Sの生産終了を以ていったん途切れてしまうが、15年という長い歳月を経た2015年にHA36型で復活を果たす。しかし現行モデルのHA37型では再びワークスの名はカタログから消えてしまい、現時点ではHA36Sが名実ともに最後の『アルトワークス』だ。
FFの5速MTでわずか670㎏という軽量なボディに64psを誇るR06Aエンジンを搭載。さらに、レギュラーガソリンでカタログ値18.7㎞/リッターの経済性や、5ドアならではの利便性、豊富なアフターパーツで生産終了から3年が経過しても人気はまったく衰えていない。
そんな名車に惚れ込んだオーナー。中学生の頃からクルマとバイクの雑誌を読み漁り、運転免許を取ったら絶対スポーツカーを買うと心に決めていた。とは言え、最初はシルビアやロードスターなどの後輪駆動を狙っており、初の愛車がアルトワークスになるとは想像していなかったという。
方針が大きく転換したきっかけは、知人が所有していたS15シルビアの存在であった。
「確かにノーマルで250psのパワーは魅力的でした。ただ、ビギナーの自分にとっては手に余るんじゃないかと感じ、もっと扱いやすいクルマを探してアルトワークスに辿り着いたんです」
もうひとつは古いが故のトラブルや、純正パーツの入手が次第に難しくなることである。その点HA36型アルトなら、純正だろうと社外品だろうと、当分の間はパーツが絶版になる心配は少ない。さらに軽自動車ということで、永続的に安価で済ませられる維持費も魅力のひとつだった。
毎日の通勤から週末のレジャーまで使い倒す予定だったし、スポーツカーだけにいずれはチューニングも楽しみたい。
「普通車に比べて自動車税がリーズナブルなのは大きな魅力で、13年が過ぎて増額されたとしてもまだまだ許容範囲です。燃費も街乗りで17~18㎞/Lだし、高速道路なら20㎞/Lを超えます」
もちろん気に入っているのは経済的な面だけじゃない。スタイリングでは旧規格の時代からアルトワークスのアイコンと言っていい、リヤスポイラーとトランクスポイラーで構成される『2段ウイング』だ。デザインこそ小ぶりながらHA36Sでもシッカリ踏襲され、いずれは少し大型の社外品を導入したいとも考えている。
「全体的にスマートなシルエットが好みではあります。ただアルトワークスは生産台数も多いので、少しは自分の個性を出していきたいですね」
趣味嗜好を反映し外観のカスタムは、何かを足すのではなく引く方向だ。ひとつは『WORKS』のロゴが記された、サイドデカールが剥がされていること。前後バンパーのデザインやブレーキからワークスであることは明らかだが、NAエンジンを積んだ廉価グレードの『ワークス仕様』に見えないこともない。
「実は、買った時からサイドデカールは剥がしてあったんですよ。どんな理由があったのかは分かりませんが、自分のセンスとピッタリ一致しました。コレはコレで個性のひとつだと思っています」
さらに、納車時に装着されていたマッドガードも外し、軽快でスッキリした下まわりをイメージ付けている。今後は『メガネ』の愛称で親しまれるフロントのガーニッシュを除いて、メッキ処理されたパーツをブラックに塗装していきたいとのことだ。
機能パーツに関しては、現在はノーマルを堪能している段階で、唯一のチューニングはタナベ製のローダウンスプリングだ。
「純正サスペンションは走りを追求したワークスらしく、ダンパーもスプリングもかなりハードだと感じました。サーキット走行がメインなら構いませんが、私は今のところ街乗りがほとんどなんです。そこで乗り心地が少しソフトになって、車高も下がるスプリングに交換しました。純正ダンパーとの相性も良いようで快適性がアップし、ほどよいローダウン量で縁石なども気になりません。おまけにほぼ未使用の新古品を格安でゲットできたので、一石二鳥どころか一石三鳥の美味しい買い物でした」
インテリアで気に入っているポイントは、ステアリングやシートのステッチなどに、アクセントとして使われている赤の差し色。唯一のカスタムと言えるのはワイドな視界を確保できるルームミラーで、今回の『オシカーズ鮎川自動車大博覧会』にも一緒にエントリーした、AW11型MR2に乗る先輩から譲ってもらった愛着のある一品だ。
室内も外観と同じくシンプルさがコンセプトだけに、あとはブースト計を装着する程度に抑えたいと話す。それらのカスタムや基本的な整備に関しては、可能な限りDIYで行ないたいと言う。
「今の仕事とはまったく関係ありませんが、高校で自動車整備士3級の免許を取ったんです。愛車をより深く知ることはもちろん、トラブルの前兆を早く発見するためにも、メンテナンスには気を遣っています。HパターンのMT車と、できるだけ長く一緒に過ごしたいですから」
もうひとつ挑戦したいと考えるのはモータースポーツ。HA36Sも歴代アルトワークスと同様に、走りの良さが高く評価されるホットハッチだ。ましてやオーナーが暮らす宮城県にはスポーツランドSUGO、隣の福島県にもエビスサーキットやリンクサーキットがあり、走りを楽しみたい人にとっては最高の環境といっていい。
来るべきサーキット走行に備えた準備は少しずつ進めており、前述したローダウンスプリングの導入もその一環だという。年内にはエアクリーナーを高効率の社外品に交換する予定だし、マフラーを購入するための資金も少しずつ蓄えているそうだ。
HA36Sはその気になればECUやビッグタービンなどを駆使し、100psどころか120~130psすら狙えるポテンシャルを持つが、まずはノーマルの64psをキッチリ使い切ることが目標だと言う。
『アルトワークスの武器は軽さとシャシー性能』と、オーナーは評価する。S660など、同世代の軽自動車スポーツカーと比較しても、HA36Sは車重で150㎏以上のアドバンテージを有しており、パワーアップの優先順位はさほど高くないのかもしれない。FRの普通車という当初の希望とは異なるものの、所有して2年で思い入れが倍増したアルトワークス。人生で初めて手にした愛車とのカーライフは、思った以上に長く濃密なものになりそうだ。
(文: 佐藤 圭 / 撮影: 中村レオ)
※許可を得て取材を行っています
取材場所:鮎川浜山鳥渡し駐車場 (宮城県石巻市鮎川浜)
[GAZOO編集部]
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