友人とコントラバスをポルシェ924Sに乗せて、しなやかに奏でるカーライフ
「1年ほど前、ずっと付き合いのあるクルマ屋さんに自分の乗っているクルマを預けた際に、代車として用意されたのがこの924Sだったんです」
ポルシェ・924S(1987年式)に乗り始めたのは2023年4月だったという高橋さんだが、その愛車遍歴を辿っていくと、924Sのオーナーになることになったキッカケは、20年以上前の18歳の頃まで遡る。
「私が小学生の頃、両親がファミリーカーとして乗っていたのは、フォルクスワーゲンのゴルフ2でした。そして、兄は本当にマニアと言えるほどのクルマ好きで、私が仮免許を取ったタイミングで乗っていたのがポルシェ928。それを借りて『仮免許練習中』というプレートをダンボールで作って、一緒に乗ってもらったという想い出深いクルマです(笑)」
初めての路上運転を左ハンドルのポルシェでこなしたという強烈なエピソードの傍ら、高橋さんには四輪操舵を搭載するポルシェ928の独特なハンドリングの感覚、そしてポルシェにはめずらしいFRレイアウトという個性に対する思い入れがしっかりと刻まれたという。そして、免許を取得してからも928をたまに借りて乗ることがあったそうだ。
いっぽうで、高橋さん自身の愛車遍歴がスタートしたのは19歳の頃。家族からのお下がりである日産・パルサーに乗っていたが、自分のクルマが欲しいと思い立って250万円という予算でクルマを探すことになったという。
「最終的な候補は、マツダ・ランティスと、ポルシェ・ボクスター、MG・TFの3台まで絞りました」
国産車、ドイツ車、イギリス車という多国籍なラインアップだったが、高橋さんが最後に選んだのはマツダ・ランティスだったという。唯一の国産車であるマツダのランティスだが、そのスタイリングはどこかヨーロピアンな雰囲気を醸し出している1台でもあった。
「スポーツ性能が意識された、2ℓのV6エンジンを積んだクーペのモデルでした。愛着も沸いてしばらく乗っていたんですが、諸処の事情で24歳のときに手放しまして。しばらく趣味としてのクルマからは離れて、日常の移動手段というカタチでクルマと接していました」
そんな高橋さんにクルマへの情熱が復活したのは、40歳に差し掛かろうかという頃だった。
「アルファロメオに乗っている友人が『ヨーロッパ車はいいぞ!』って勧めてくるクルマの候補にMG・TFがあったんです。それを聞いて思い出したんですよ、ランティスを選んだ時にも一度考えたクルマだぞ、と」
その友人が通う長野県松本市のプロショップが、外車を中心とした旧車のメンテナンスを得意とするお店だったことも高橋さんを後押しした。信頼できるお店が近くにあるならば、と、MG・TFを購入するに至ったそうだ。
MG・TFはMRの2シーターオープンというレイアウトを採用したライトウェイトスポーツ。なかでも高橋さんが手に入れたのはイギリスのMGローバーが創業80年目を記念して製造した、インテリアなどに特別装備を施したアニバーサリーモデルだったという。
そのいっぽうで、クルマ好きな兄からのお下がりでマツダのNB型ロードスターに乗っていた時期もあったと話す高橋さん。
「2022年に半年間ほど愛知県に転勤になった時期があって、その時はロードスター1台に荷物を詰め込んで、1往復で引っ越しを終えました(笑)。そういえば“兄からのお下がりのクルマに乗る”というのは、クルマ趣味にブランクがあった期間もたまにやっていましたね」
そんな高橋さんと現在のポルシェ924Sとの出会いが訪れたのは、愛知での勤務から長野へと戻ってきたタイミングだった。
「MG・TFを修理に預けようとしたら、店員さんから『いま代車でお貸しできるのがこれしかないのですが、良いですか』と言われて、出てきたのがポルシェ・924Sだったんです」
意表を突くようなこの代車は、まさに古いヨーロッパ車を得意とするプロショップならでは。3年前にMG・TFに乗る選択をしていなければ、絶対に有り得なかったクルマとの接点。高橋さんは素直に924Sという稀有な代車をお借りすることにしたという。
「いざ乗ってみたら、10代の時に乗った想い出の928の感覚とすごく似ていて。懐かしいなぁって、とても感動したんです。言ってみればポルシェのFR車同士ですもんね。その勢いで『MG・TFの代わりに、このクルマを売って頂けるなら、乗りたいです』と相談したところ、幸運にも『現状のままだと不安だから、キチンと販売できる状態に直してから』と言われ、納車されたのが今年(2023年)の4月でした」
1970年代から1980年代にかけて、ポルシェから登場した924・928・944というFRレイアウト車。その中で手頃だった2ℓエンジン搭載の924をベースに、944に搭載されていた2.5ℓ直列4気筒エンジンへと載せ換えたハイグレードモデルが924Sとなる。
兄から借りて乗った928との共通点と言えば、後輪のトー変化によってステアリング操作をサポートする四輪操舵システムが搭載されていること。「エンジンパワーは全然違いますが、四輪操舵は感覚的にはスケボーみたいな操作感で『928と同じ動きだ!』って、昔を思い出しましたね」と、高橋さん。
そんな924Sを購入するにあたって、高橋さんが事前に確認していた、とあるポイントがあったという。それは、ジャズの演奏に愛用する巨大な弦楽器、コントラバスが車内に積めるかどうか。
というのも、高橋さんはバンド活動でコントラバスを担当する演奏者でもあるのだ。
高橋さんが楽器演奏を趣味で始めたのは24歳の頃。仕事の息抜きとしてエレキギターを駆ってバンド活動をスタート。30代半ばからは音楽のジャンルはジャズにシフトし、その時に相棒としてコントラバスが選ばれていたのだ。
そして高橋さんの隣でギターを弾いているのはバンド仲間の中村さん。エレキバンド時代の古い知り合いだったが、高橋さんが愛知転勤から帰ってきた時、偶然にも先輩のライブで演奏している姿を見て再会。そこで意気投合してジャズバンドを結成するに至ったという。
日常の相棒として活躍する傍ら、2人がパーティやイベント、老人ホームなどの催しに呼ばれることがあれば、ジャズを演奏するために二人分の楽器を載せて移動する機材運搬車にも早変わりする924S。聞けば、高橋さんが扱うチャキ社のコントラバスが作られたのは1987年で、偶然にもこの924Sと製造年が同じという共通点まで存在したのだった。
ポルシェ・924Sと共に、新たなカタチでスタートした高橋さんのカーライフは、今年で34回目を迎えたトヨタ博物館クラシックカー・フェスティバルへの初参加という広がりも生まれるなど順風満帆。
いつの日かこの“演奏者と924Sが対となる姿”が名物となるよう、これからも高橋さんと愛車の関係が変わらずに続いていくことを期待したい。
取材協力:信州サンデーミーティング
(⽂:長谷川実路 / 撮影:土屋勇人)
[GAZOO編集部]
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