バブル期を象徴する先進機能が満載された名機アルシオーネを楽しむ

  • 信州サンデーミーティングで取材させていただいたスバル・アルシオーネ

    スバル・アルシオーネ

旧車イベントのレジェンド級マシンである箱スカやS30Z、TE27レビン・トレノなどに対し、近年急速に勢力を拡大しているのが“ネオヒストリック”と呼ばれる1980年代半ばから1990年代の前半のクルマたちだ。
当時の日本はバブル景気で右肩上がりの経済成長を遂げていた時代。その勢いは各社の新型車開発にも現れていて、そんなバブルの産物とも言えるのがスポーツカー的なスタイルとGTカーの快適性を併せ持つ“スペシャルティカー”だ。トヨタセリカ(T160系)やホンダプレリュードがその代表格で、日本のスペシャルティカーはアメリカ市場でも大人気となっていた。それらに続くべく開発され、1985年にデビューしたのが、ここで紹介するスバルアルシオーネだ。

車名の由来はスバルのマークとなっている5連星の中でもっとも明るいアルキオネ(Alcyone)だと知れば、その力の入れ具合も想像できるはず。実際に、その内容は当時のスバルの技術が惜しみなく注ぎ込まれていた。まさに「くさび」という表現がピッタリの直線基調のエクステリアは空力を徹底的に追求したもので、フラットタイプのドアハンドルやフローティングタイプのドアミラーも空力向上のためにデザインされたもの。さらにフラットボトムやリヤアンダースポイラーによって、フロア下の空気の流れも意識していたのは、当時の国産車としては先進的な設計と言えるだろう。ちなみにリトラクタブルタイプのヘッドライトは、スバル車の歴史で唯一このAX系アルシオーネだけに採用された逸品だ。

「このアルシオーネは初期型の最上級グレードとなるVRターボです。もともとは知人が所有していたもので、10年以上倉庫で不動となっていたのですが『走れるようにメンテナンスしてほしい』と言われ、修理することになりました。エアフロメーターが原因のアイドル不調だったのですが、修理後も調子を維持するために私が乗り続けることとなり、結局はそのまま無償で譲渡してもらったんです」
と、入手の経緯を教えてくれたのはオーナーのイワノッチさん。修理したクルマをそのまま頂いてしまうとは、なんともビッグな謝礼だったというわけだ。

聞けばイワノッチさんにとって、このアルシオーネは6台目のスバル車というから生粋のスバリストと言っていいだろう。そこまでイワノッチさんの心をガッチリと掴むスバル車の魅力とはなんなのだろうか。
「スバル車を好きになったそもそものキッカケは父の影響です。記憶に残っているのは小学生のころに父が乗っていたレオーネワゴンで、子供ながらに高速の安定性が高いと感じていました。その後はラリーの活躍ぶりでさらにスバルが好きになり、免許を取って最初の愛車が父のお下がりのレオーネツーリングワゴンSTターボ。以降もBF5レガシィツーリングワゴン、ジャスティ、ヴィヴィオRX-Rを乗り継ぎ、ff-1 1300Gという1970年代のスバル車を所有したこともあります。それぞれ個性は異なりますが、やはりスバル車ならではの魅力は、走りの良さということじゃないでしょうか」

これまでに乗り継いできた多くのスバル車と比べての、アルシオーネならではの魅力というのも気になる部分だ。
「なんといってもアルシオーネで気に入っているのは、この独特なスタイルです。外装のオールペイントは前オーナーによるもので、マットグレーのカラーは古い英国車をイメージしてのものらしいです。このカラーも含めて、私がコンセプトとしているのは『1990年代の若者が中古車を少しイジってます』といった感じですね。現時点では、オリジナルを重視しつつ、ヘッドライトバルブの交換やピンク色のSTIエンブレムなどでアップデートしてみました」

それでは、旧車イベントでも滅多にお目にかかれない、レアな初代アルシオーネの細部をさらにチェックさせてもらおう。まずエンジンは1.8L水平対向4気筒OHCターボのEA82で、最高出力135ps、最大トルク20.0kgmというスペック。これはベースとなっているレオーネと共通のものだが、低いボンネット形状に合わせて補機類のレイアウトが見直されているほか、電動式パワーステアリングやABSも標準で装着している。

「レオーネとはセッティングが異なっているようで、エンジンの回りは軽く、よく走ってくれます。通勤などにも使っていますが、今のところ大きなトラブルは経験していません。ただ、何かあっても純正パーツはまったく入手できない状況なので、維持していく上ではパーツを融通しあえるオーナーズクラブの仲間が頼りですね。それでもダメな場合は、現物合わせでどうにかするしかありません」
と、補足してくれた。やはり補修パーツの入手は大きな悩みのようだが、レア車となればなおさらのはずだ。

足まわりもアルシオーネの特徴のひとつで、トップグレードのVRターボはオートセルフレベリング機能付きのエアサスペンションE-PSを装備。これは車内から標準車高と30mmアップのハイ車高が選択できるだけでなく、車速でも自動的に車高設定が切り替わるというもの。駆動方式は前後のトルク配分を自動的に制御するアクティブトルクスプリット4WD。イワノッチさんの3AT(VRターボのみに設定)では、路面や天候などに対応するオート4WDシステムも搭載されている。

車内も近未来感があふれたもので、独特なスポーク形状のステアリングにはクルーズコントロール(オプション)のスイッチを配置。昭和のTVゲームのようなオプション設定となっていたデジタルメーターパネルも、当時は大きな話題となったものだ。
また、ライトやエアコンのスイッチ類もステアリングコラムから伸びる左右のボックスに集約されていて、ハンドルを握ったままですべてが操作できるようになっている。

「室内で変更したのは、リヤのスピーカーを追加したくらいです。古いクルマですが、アルシオーネの快適性はレガシィ以上。4WDの安定感とクルコンのお陰で高速巡航も疲れません。唯一気になるのは超高速域でフロントが浮いてくることですが、これは車高の影響によるものかもしれませんね」。

最後に、このアルシオーネの今後についてもイワノッチさんに伺ってみた。
「ほぼスバル一筋と言える車歴の中でも、このアルシオーネは入手の経緯も含めて特別な存在です。今となっては貴重なクルマなので、このまま走れる状態で長く維持しながら、イベントなどで多くの人に見てもらえればと思っています」と、力強く締めくくってくれた。

取材協力:信州サンデーミーティング
(文:川崎英俊 / 撮影:岩島浩樹)
[GAZOO編集部]

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