4WDスポーツモデルの祖、初代レオーネRXのカスタマイズを父子で楽しむ
日本に自家用車を根付かせた立役者と言っていいスバル360。そのスバル360を生み出した富士重工業が、軽自動車ではなく普通乗用車のカテゴリーとして、1966年にデビューさせたのがスバル1000であった。
日本の1950〜1960年代は、日本の自動車産業はまだ黎明期であり、各自動車メーカーは独自色の強い技術を投入していた。その中でもひと際、異彩なメカニズムを用いていたのが、富士重工業であった。スバル1000も水平対向4気筒エンジンを縦置きし、フロントホイールを駆動するという、当時の日本のメーカーにはなかったレイアウトを採用。現在では、同レイアウトによる前輪駆動ではなくなっているが、そのメカニズムが根幹となるAWD(4輪駆動)として、レガシィやインプレッサに受け継がれてきた。
そんな縦置き水平対向4気筒エンジンと、4輪駆動を組み合わせたメカニズムを初採用したモデルが1971年にデビューしたレオーネだ。
スバル1000の発展型となるスバルff-1や1300Gの後継として登場したレオーネは、当初、前輪駆動のみの設定であったが、デビュー翌年となる1972年、商用のエステートバンに初の4輪駆動をカタログモデルとして設定。乗用車に4輪駆動が採用されたのは、そこからさらに3年を経た1975年となる。
現在では4輪駆動車の多くがフルタイム4WD、つまり常時、前後輪に駆動を伝えるシステムが主流だが、当時のレオーネの4WDシステムは、トランスファーを手動で任意に切り替え、前輪駆動と4輪駆動を路面状況に応じて選択するというパートタイム4WD。
旋回時のタイヤの回転差を吸収するセンターデフなどが備わらないため、一般的な舗装路ではなくオフロードや雪上など、低ミュー路でのみでその恩恵に預かれるというものであったが、降雪の多いエリアで人気を博することとなる。
そして、そんな低ミュー路での走行性能は、冬季の日常生活における利便性だけでなく、未舗装路が主流であった当時のラリー競技でも注目された。
スポーツ走行に特化させたグレード“RX”は、盛況であった当時の国内ラリーをターゲットにしたようなモデルであり、4WDの利点が最大限に活かせるウインターラリーで活躍。現代では当たり前になった4WD車の実力の片鱗を見せつけたのである。
そんな初代レオーネを2年前に手に入れたのが、まぁ〜ぶるさんとその父上である。父上が所有者、そしてまぁ〜ぶるさんが使用者という役割分担(?)的なものはあるようだが、実際にはお二人で1975年式のレオーネ1600RXを楽しんでいらっしゃる。
父上は、昔ながらのクルマ趣味人で、これまで欧州の、特にイギリスのスポーツカーを楽しまれてきたという経歴の持ち主で、現在でも1962年式のモーガン、1992年式のジネッタG4を所有されているという。
そんな方が、なぜ国産旧車である初代レオーネを楽しもうと思ったのか、所有者となるまぁ〜ぶるさんの父上に伺った。
「昨今の国産旧車ブームというのもありますが、昔から僕が所有するクルマの面倒をみてくれている方が、このレオーネをワンオーナーで所有されていたんです。けれども、足を悪くされてから乗らなくなってしまっていたんです。乗らないまま放っておくと、クルマにも良くないし、何より現存している車両がほとんどない希少なクルマだったので、僕と息子たちが引き継いで乗ろうとなったワケです」
初代レオーネは前述した通り、4輪駆動を組み合わせた初の乗用車。その雪上での走破力の高さは今や常識となっているが、当時はまだ4輪駆動の価値を知るユーザーが少なかった。さらに言えば、実質的なライバルとなるカローラやサニーと比べ、レオーネは高価なのにも関わらず、室内は狭くて装備も簡素だったことから、販売台数が大きく伸びることはなかったようだ。
そんなこともあって、現存するレオーネ1600RXの個体は今や超希少なモデルとなっているという。
「元々所有者だった方は、今でもいろいろ面倒を見てもらっている方で、和歌山の旧車界隈では有名な電装屋さんなんです。乗らなくなって10年ぐらい経っているんですが、その間は、工場の奥に毛布を2枚掛けた上にボディカバーを掛けた状態で保管されていたので、ボディや内装は、元のきれいな状態を保ってくれていました」と、譲り受ける前の状態を説明してくれた。とは言え、10年も不動の状態があると、クルマはすぐに走り出せる状態とはいかない。
「譲り受けてから、不具合のある部分を再生してもらいました。自分たちでもできるところはやりましたが、主に作業してくれたのは、元のオーナーである電装屋さんです」
燃料周りをはじめ、走りに関わる部分もすべて点検し、ブレーキラインやキャリパー、それからマスターシリンダー、さらにはキャブレターもオーバーホールされたそうだ。
「エンジン本体は、大きな問題がなかったので、オーバーホールしたキャブやワンオフで製作した燃料タンクを組み込んだ後で、調整してもらいました」
ボディは前述の通り、錆の発生もほとんどなくカバーによって紫外線の影響も受けていなかった。念の為に下回り防錆処理をやり直しただけだそう。
「弟が、下回りにこれまで塗り重ねられていたシャーシブラックや防錆剤を剥がして、新たな防錆剤とシャーシブラックで仕上げてくれたんです。古い塗装を剥がしても、シャーシにはほとんど錆がありませんでしたね」
錆が少ないのは保存状態が良かったという事も当然あるが、電装屋さんの手によって、日産系の防錆下塗り剤をしっかりと塗り重ねていたことが功を奏し、錆の発生を最低限に抑え込んでいたようである。
再生作業は、約1年掛けてじっくりと行なわれたそうで、2年前に譲り受けたものの、実際に乗り始めたのは、ちょうど1年前から。果たしてその乗り味は、どのようなフィーリングであったのか?
「元々、電装屋さんがエンジンにハイカムを組み込んだり、ミッションのギヤ比をクロスレシオのものに変更したり、さらにはステアリングギヤボックスのギヤ比をクイックなものにしていたので、ちょっと乗っただけでもクタクタになるクルマでした(笑)。もちろん、そういう尖ったところが楽しかったりするんですが、ジネッタG4よりも、このレオーネは神経質かな?」と、まぁ〜ぶるさんの父上が感想を述べてくれた。
「今までレオーネで一番遠方まで行ったのは、兵庫県の三木で開催されたカーイベント、関西舞子サンデーですね」とはまぁ〜ぶるさん。距離にして片道120〜130kmぐらいの距離だそうだ。
ちなみにまぁ〜ぶるさんと父上、それから今回のイベントには同行していなかったが、まぁ〜ぶるさんの弟さんがレオーネに乗るそうだが、基本的には休日の早朝に自宅周辺を軽く走るか、今回のようにイベントに参加するというのが主なレオーネの乗り方となっている。
ハイカムやクロスミッションが入っているので、エンジンが回りたがるままに走らせてしまうと、今度は制動力に不安を感じるという。初代レオーネのRXには、国産車としてはトヨタ2000GTに続く2台目の採用となる、4輪ディスクブレーキが採用されているから、制動力は高そうに思えるのだが。
「実際には、制動力はそんなに強力じゃない。だから止まれるかが心配で、スピードを控えている感じですね」
そんなスパルタンなレオーネRXには似つかわしくないものが、パーセルシェルフ部やトランクルームを覗くと窺い知れる。
「電装屋さんはオーディオも好きでね。40cmもあるスピーカーが入った自作のボックスをトランクに設置しているんです。レオーネのメカサウンドに負けない良い音が聞けるように作られているので、似合う似合わないはともかく、とても良い音楽が楽しめるのも、このレオーネの特徴ですね」
最後に、このクルマの今後について伺わせていただいた。
「ゴム製の消耗部品、例えばエンジンマウントなどを交換したいと思っています。もちろん純正の新品部品は手に入らないんですが、北米には4200〜4300台ぐらい輸出されていて、今でもオーナーズクラブがあるようなんです。これからそのオーナーズクラブにコンタクトを取って、日本では手に入らない部品を分けてもらえたらなぁ、なんて考えています」
やはり世のクルマ好きは、どんな逆風にも立ち向かえる胆力をお持ちのようだ。そんなお話を伺っていると、まぁ〜ぶるさん一家は必ずや末永い旧車ライフを満喫されることであろう。
(文: 坪内英樹 / 撮影: 平野 陽)
※許可を得て取材を行っています
第四回 昭和の乗り物大集合in片男波海水浴場2024
取材場所:片男波海水浴場(和歌山県和歌山市和歌浦南3丁目1740)
[GAZOO編集部]
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