トヨタ ヴォクシー/ノア 開発者インタビュー(デザイナー編)
インパクトのあるデザインで注目される、新型「ヴォクシー/ノア」。エクステリアとインテリアの開発担当者に、誕生までのいきさつやカタチへのこだわりを聞いた。
広さを感じるカタチの決め手は?
トヨタの新型ヴォクシー/ノアが売れている。2014年1月20日の発表から約1カ月で、合計約6万1000台の注文を受けたというのだ。月間販売台数の目標が両モデル合わせて8000台というから、新車効果を考慮しても出足絶好調と言っていいだろう。
ハイブリッドモデルの燃費性能など好調の理由はいくつかあるだろうが、外から見ても室内に入っても広さを感じさせるデザインが、大きな役割を果たしていることは間違いない。ここでは、新型ヴォクシー/ノアの内外装のデザインを担当したスタッフに話をうかがった。
- 6案あった“初期スケッチ”のひとつ。トヨタのクリエイティブスタジオによるもの。
- こちらも、トヨタのクリエイティブスタジオによるもの。
- トヨタ系のデザイン会社 テクノアートリサーチのアイデア。
- 同じくテクノアートリサーチの手になるもの。
- トヨタ車体による、初期スケッチ案。
- トヨタ車体からの、もうひとつの提案。
内外装のデザインのまとめ役を務めたデザイン本部 トヨタデザイン部の高澤達男主幹は、新型ヴォクシー/ノアのデザインコンセプトを次のように説明する。
高澤「フロアの低床化によって室内の高さが『アルファード』並みの1400mmになるなど、新型ヴォクシー/ノアは本当に広いミニバンになっています。まずは、真っ向勝負でこの広さをお客さまに感じていただくデザインを目指しました」
では、外から見て広さを感じさせるデザインとは、具体的にどのような造形なのだろうか。デザインにあたって実務を担当したトヨタ車体 デザイン部 外形デザイン室の舟越友彦室長は、以下のキーポイントを挙げる。
舟越「外から見たときに、ベルトライン(サイドウインドゥの下端のライン)が高いと室内が狭いという印象を与えるんですね。そこで、ベルトラインを従来型より60mm以上低くしました」
――ほかにも、広く見せる決め手はあるのでしょうか?
舟越「後ろから見たときに、幅が広いと感じていただくこともポイントでした。具体的にはリヤのコンビネーションランプをリヤガラスと同質のスモークタイプにしました。リヤのガラスとコンビネーションランプが一体となって見えるようにすることで、幅の広さを感じていただけます。結果、外から見ても室内の広さを感じさせるデザインとなります」
そして高澤氏は、「広さという機能と、クルマとしてのエモーショナルな魅力を両立させたいと考えました」と付け加えた。続いて、ミニバンにエモーショナルな魅力を与えるためのコツをうかがう。
ミニバンこそ“顔が命”
――エモーショナルな魅力を与えるために腐心なさった点を教えてください。
高澤「ミニバンの場合は、ボディ本体はどうしても四角い箱になります。したがって、ルーフラインやキャラクターラインで抑揚を付けられるクーペやセダンよりも、フロントマスクが持つ意味が大きくなります」
――では、実際にフロントマスクの造形を手がけた舟越さんに伺います。新型ヴォクシー/ノアのフロントマスクの見どころは、ズバリどこでしょうか。
舟越「ミニバンの顔は、普通に作ると頭でっかちになってしまうんですね。しかも新型ヴォクシー/ノアはベルトラインを下げたので、顔がつぶれてしまう。そこで、立体感や丸みを感じさせるデザインでありながら、大きく見せないというところに配慮しました。実際に、そういったフロントマスクになっていると自負しています」
確かに、ノアのフロントマスクはいくつかの面を重ねることで、丸みを帯びた造形となっている。一方のヴォクシーは、グリルとヘッドランプを2段構成とすることで、立体感が表現されている。
――ノアとヴォクシーのフロントマスクはかなり印象が違います。両者のすみ分けについてお聞かせください。
舟越「ノアに関しては、人生を楽しむど真ん中の世代を想定しました。大きなグリルをバンパーがやさしく包み込むことで、ドンとした存在感をしっかり表現できていると思います。ヴォクシーは、もう少し刺激を求める方に向けてデザインしています。ヘッドランプとグリルを2段構成として、つり目でにらみを利かせた表情になっています。やんちゃな方向、と言ってもいいかもしれません」
ちなみに、高澤主幹はパールホワイトのヴォクシーのエアロ仕様、舟越室長はパールホワイトのノアの標準仕様を“マイ・フェイバリット”に挙げた。舟越室長は、実際にその仕様を自身で購入したという。
- 6案あった“初期スケッチ”のひとつ。トヨタのクリエイティブスタジオによるもの。
- こちらも、トヨタのクリエイティブスタジオによるもの。
- トヨタ系のデザイン会社 テクノアートリサーチのアイデア。
- 同じくテクノアートリサーチの手になるもの。
- トヨタ車体による、初期スケッチ案。
- トヨタ車体からの、もうひとつの提案。
初期モデル
アイデア検討会を経て原寸大モデルが制作される段階では、エクステリアのデザイン案は2つにしぼられた。
サイドウインドゥやリヤコンビランプの形状からわかるように、右のB案が最終案として採用されることになる。
中間モデル
“中間モデル”と呼ばれる制作段階。この時点で、新型車のデザイン案は「ノア」(写真左)と「ヴォクシー」の2タイプに分かれ、それぞれが並行して煮詰められることになる。
「ヴォクシー」の中間モデルでは、特徴的な2段重ねのヘッドランプやグリルが見て取れる。
使えて、ひかれるインテリア
続いて、インテリアに話を移す。内装デザインの実務を担ったトヨタ車体 デザイン部 内装デザイン室の榊原克典主担当員は「子育てファミリーがわくわくするようなインテリアを狙いました」と語る。
――わくわくするようなインテリアを具体的に説明していただくと、どういうことになるでしょうか?
榊原「高澤からも話があったように、新型ヴォクシー/ノアの室内は、実際に非常に広くなっています。スライドドアのスライド量を75mm広くすることで、ドアを開けてパッと見た瞬間に、広さが感覚的に理解できるようになっているのです」
――従来型ではメーター類を運転席と助手席の間に配置するセンターメーターを採用していました。ところが、新型ではより一般的なドライバーの目の前に位置を移しています。
榊原「例えば小柄な方が運転する場合に、センターメーターだと前方の視界が遮られるという弊害がありました。そこでメーター類をドライバーの正面に移して視界を確保しました。ほかにもAピラーを細くするなど、どんな体格の方が運転してもしっかり視界が確保できる、運転のしやすいミニバンになるようにデザインしたつもりです」
――3列目シートの格納方法は、跳ね上げ式を踏襲しています。床下に格納する方式も検討なさったのでしょうか。
榊原「検討した結果、実際に座った時に心地いいサイズを確保するには跳ね上げ式がベストだという結論に達しました。ただし、跳ね上げる時の仕組みは非常に凝っています。4リンクのヒンジを用いることで、左右にぴったりくっつけて収納できます。片側で約10cm出っ張りが減ったので、両方の椅子を収納した時の左右の空間は合計で20cmも広くなっています」
――空調類の操作パネルのデザインにもこだわりが感じられます。
榊原「この手のミニバンは、女性が運転するケースも多いんですね。すると、あまり“クルマ・クルマした”デザインは好まれない。そこで、モダンリビングをテーマに、その室内にある家電製品のインターフェイスのような見せ方を研究しました」
最後に、前出の高澤主管がこう付け加えた。
高澤「内張やシートの柄にグラデーションを付けて室内を広く見えるようにするなど、細かい点にも配慮しました。普通だったらやらないところまで、相当にこだわっていますよ」
販売が好調なのは、細部にまでいたるこだわりや執念がユーザーに伝わっているからかもしれない。デザイン担当の3名のお話をうかがいながら、そんなことを考えた。
インテリアデザイン案
インテリアの初期スケッチは3案存在した。写真左上は「A案」と呼ばれるアイデアで、傍らには“INSIDE OUT”のテーマが記されている。これが最終的な採用案となった。
写真右上は初期スケッチのB案。2段構えのインパネが特徴的である。
写真左下は「TWISTED EXTEND」をテーマに掲げるC案。大胆なS字型のインパネが目を引く。
写真右下はA案の原寸大モデル。各部のデザインから色彩まで、当初の案の多くがそのまま生産型車両に生かされていることがわかる。
<プロフィール>
トヨタ自動車 デザイン本部 トヨタデザイン部 主幹
高澤達男
1982年に入社。子どもの頃からクルマが好きだったのは、自動車デザイン専門誌を立ち上げた父の影響が大きいとか。入社して最初に担当したのは、当時のビスタ/カムリのホイールキャップのデザイン。以後、エクステリアデザイン畑を歩み、初代「マジェスタ」「プリウスα」「カローラフィールダー」などの内外装のまとめ役を経て、「ヴォクシー/ノア」の担当となる。
トヨタ車体 デザイン部 外形デザイン室 室長
舟越友彦
スーパーカー世代のど真ん中で、子どもの頃からの憧れを実現すべく1989年に入社。初代「エスティマ」や、当時の「エミーナ/ルシーダ」を担当する。その後、欧州勤務を経験、かの地では「ヴィッツ」や「ファンカーゴ」などを手がける。
帰国後は、「プリウス」を担当した後に新型「ヴォクシー/ノア」の外装デザインに取り組んだ。
トヨタ車体 デザイン部 内装デザイン室 主担当員
榊原克典
1981年入社。新入社員の頃は「グランビア」の内装を担当。その後は乗用車系のインテリアデザインを手がける機会が多く、初代「ポルテ」のほか、「SAI」「プリウスα」などが代表作。
(interviewer:サトータケシ/photo:田村 弥)
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