「ルパン三世 カリオストロの城」の世界から飛び出してきたような、日本車の血も混じった1971年式Fiat・500L

淡いイエローのFiat・500といえば、ルパン三世を連想する人も多いはずだ。宮崎駿が手掛けた映画「ルパン三世 カリオストロの城」で、スクリーンの中を縦横無尽に駆け回るFiat・500の姿がフラッシュバックしている人もいるのではないだろうか。

冒頭の逃亡シーンから、メローなイントロとともにこの映画の主題歌である「炎のたからもの」が流れ始めるタイトルバック、ヒロインであるクラリス姫とカリオストロ公国の一団がカーチェイスを繰り広げるシーン。そして、ラストシーンに至るまで、あらゆる場面でFiat・500が登場している。もはや、この作品を語る上で、なくてはならない存在だ。

そんな、「ルパン三世 カリオストロの城」の劇用車そのままのような雰囲気を感じさせる、イエローのボディカラーが眩しいFiat・500がパーキングエリアに佇んでいた。

このクルマのオーナーと思われるご夫婦に許可を得て車内を覗き込んでみると・・・メーターパネルの上にルパン三世のフィギュアを発見した(笑)。この遊び心がたまらない。しかし、このFiat・500をよく見ると、メーターパネルは日本車っぽいし、しかもAT車だ。とはいえ、れっきとした左ハンドル仕様。このようなクルマは一体何だろうか・・・と混乱している様子を、ご主人と思しき男性が察してくれたようだ。

「このクルマは、1971年式Fiat・500L(以下、Fiat・500)です。実は、妻の愛車なんです。以前、旅行でイタリアを訪れていたちょうどその日が、新型チンクエチェント(現行モデルのFiat・500)がデビューした日だったんですね。運命的な出会いを感じました。とはいえ、現行モデルはいつでも買えるから、今のうちに昔のFiat・500に乗っておきたいと、すぐさまクルマを探し始めたんです」。

それが現在の愛車なのだろうか?と思っていたとき、ご主人がすかさずフォローしてくれた。

「いえいえ。現在の愛車を手に入れる前に、イタリアでフルレストアされたというホワイトの1972年式Fiat・500Rを手に入れました。そのクルマは当然ながらMT車です。このとき、妻はAT限定免許だったんです。そこで教習所に通って限定解除しました。坂道発進の練習は、当時所有していた三菱・ギャランGTO GSRで行ったんですよ(笑)。このFiat・500は主に妻が乗るはずだったんですが、所有していて走った距離は、4年間でわずか2000kmでした。そんなとき、夫婦で乗れる仕様はないものかと探していたときに出逢ったのが現在の個体です」。

現在、50代半ばだというご主人は、幼少期の頃から相当なクルマ好きだったと語る。小学校5年生のときに三菱・ギャランGTO GSRに一目惚れ。その想いは年齢を重ねても消えることがなく、二十歳の誕生日にこのクルマのオーナーとなってしまったほど(しかも、GSRを指名買いしたというこだわりようだ!)。二十歳の誕生日を迎える半年前からこつこつと自分好みのパーツを集め、オーナーとなってからわずか1週間で一気に自分好みの仕様にモディファイしたというから恐れ入る。その後、ミニクーパーSや、通称ナローと呼ばれるポルシェ・911S、メルセデス・ベンツなどの輸入車を中心に乗り継いだが、若き日の思い出が忘れられず、10年ほど前に再び三菱・ギャランGTOを購入したという。この個体は昨年まで所有しており、大切にしてくれるオーナーのところへ嫁いだようだ。

このFiat・500の内装は、日本車の雰囲気が随所に感じられるだけでなく、しかもAT車だ。このなんとも不思議な組み合わせはどのようにして造り上げたのだろうか?

「夫婦で乗れるFiat・500を探し始めたとき、スバルの軽トラックのエンジンとミッションに載せ換えた個体があると知り、縁あって手に入れることができました。このクルマは、今から10数年前に日本のカー用品店とある博物館が共同で企画、販売した『マキナ』のプロトタイプのような存在だということです。マキナは、Fiat・500にスバル・サンバーのエンジンやミッション(3速AT)などを移植したクルマで、フィリピンで生産して日本に持ち込んだそうです。当時、10数台販売されたようですが、即日完売するほどの人気で、今でもマキナを探している方がいらっしゃると聞いています」。

確かに見た目はFiat・500そのものだが、メーター周りやシフトノブ、シートやエンジンもスバル・サンバーのものが積まれている。「見た目はご覧の通りFiat・500ですけれど、前オーナーがかなりこだわって日本車の部品(スバル・サンバー)を組み込んだので、トラブルフリーで快適です。もちろん、きちんとエアコンも効きますよ」。なるほど、確かにFiat・500の佇まいに日本車のエンジンや駆動系を併せ持つこの個体なら、奥様も安心して日常生活の足に使えそうだ。

しかし、侮るなかれ。このFiat・500は「日本車とのいいとこ取りで誕生した、キュートで快適なだけのクルマ」ではない。随所に遊び心と走りを予感させるモディファイがなされているのだ。その印象を伝えると、ご主人の顔がほころんだ。

「車内に置いてあるルパンのフィギュアや、インターネットオークションで手に入れたフェラーリ製の革張りドアポケットも隠れた自慢です。このポケットが使えるようにするために、板でドアパネルを自作して取り付けました。それと、ヘッドライトには、通称『ぴよぴよ』と呼ばれているアイブローを装着しています。フォルクスワーゲン・ビートルやミニでは定番のアイテムですが、Fiat・500用のサイズはレアアイテムなんですよ。フロントにラジエーターを設置しているため、置き場所がなくなったスペアタイヤはリアハッチにキャリアを取り付けて移設しました。トリコローレのカバーがいいアクセントになっていると思います。あとは、エンジンルームを開けると・・・吸気系のホースに2Lのビールの缶を採用(?)しています」。

エンジンルームを覗き込んでいると、その場に居合わせたおじさまたちが「このクルマ、ビール缶が使われてるよ、面白いねえ」とご主人に話し掛けている。遊び心があるクルマは、自然と周囲の人々を笑顔にさせる魅力があるようだ。このように、一見すると実にキュートなFiat・500だが、目を凝らしてみると随所に遊び心と走りの予感を漂わせるモディファイが施してある。

「お気づきでしたか。そうなんです。フロントグリルもFiat500L用ではあまり空気を吸い込んでくれないため、この仕様に交換しました。またフロントブレーキは、ベンチレーテッドディスク、スリット&ドリルドローターに交換しています。このBBSホイールはスバル・ヴィヴィオ用の純正オプション。しかも鍛造品です。こういったところにも抜かりないのがスバルらしいですよね。オイルクーラーも増設済みで、あとは配管を取り付けるだけになっています。それと、3速ATでは高速域でエンジンが吹けきってしまうため、ワンオフでトランスミッションのファイナルギアを製作してもらいました。お陰で高速道路の移動が快適になりましたが、コストが掛かりすぎて妻には怒られました(笑)。ちなみに、お尻からチラッと覗くタコ足もワンオフです。そのお陰で、このクルマはFiat・500らしからぬレーシーな音色を奏でます。先日も、京都〜大阪旅行の帰り道、新東名高速道でポルシェ・911GT3が『このクルマは何なんだ!?』と不思議そうに近づいてきましたよ(笑)。そのとき、ビルシュタインとアバルトのエンブレムの存在にも気づいてくれたかもしれませんね」。

仲睦まじいご夫婦がFiat・500に乗り、走り去って行く姿を見送ることにした。ご主人自慢のレーシーな音色に、その場に居合わせた周囲のクルマ好きとおぼしき人たちが一斉に反応していた。そういえば「ルパン三世 カリオストロの城」に登場するイエローのFiat・500も、ルパンが車内にあるレバーを引くと、リアのエンジンフードが開き、猛然とダッシュするモンスターマシンへと変貌する。その映像がフラッシュバックする。

見た目はキュート、実はレーシー!そんなギャップをオーナーであるご夫婦も楽しんでいるのだろうか。そして、カリオストロの城におけるFiat・500がそうであるように、このご夫婦の人生にもこのクルマはなくてはならない存在なのだろう。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]