【ボルボ V60 新型試乗】売れない理由が、ちょっと見当たらない…島下泰久

ボルボ V60 T5 Inscription
◆日本の要望が通ったボディサイズ

驚いたのは、日本からの要望が通って全幅が1850mmに抑えられたという事実。新型ボルボ『V60』のプレス向け試乗会で明らかにされたトピックである。立体駐車場を考えれば、1850mmは日本の交通環境ではひとつのボーダーとは言え、まさか絶対的なボリュームでは決して大きいわけではない日本市場のために、ドアノブの変更などではなく基本設計で全幅を狭くしてくるなんて……。それだけ日本市場への、単に数の話だけではない期待値が、大きいのだろう。

デザイナーは苦労したに違いないが、我々の目から見ればそれが何かを犠牲にしただなどとは、まったく感じることはない。『XC90』から通じる最新のボルボに共通のスタイリッシュさは、新型V60にも健在だ。兄貴分たる『V90』より全長が175mm短いボディは、角度の起こされたテールゲートのおかげで、より機能主義的、あるいはいかにもボルボのエステートらしい雰囲気。

一方、エッジの入れられたグリル、T字のデイタイムライトが強調されたヘッドライトなどにより、顔つきはよりスポーティになり、ボディサイドには鋭角的な抉りが入れられて、ダイナミックな印象を強めてもいる。紛れもなく最新のボルボファミリーではあるけれど、より軽快な、これまた魅力的な仕立てとされているのだ。

先代より125mm長い全長のおかげもあり、室内は広々している。後席スペースの余裕はクラストップレベルだし、ラゲッジスペースも後席使用時で529リットルと、先代より実に99リットルも大きい。但し、これは先代が狭かったということでもあるのだが。

◆最新ボルボ車の中で最もスポーティ


最新の基本骨格であるSPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャ)を初めて使ったXC90以降、ボルボ各車はモデルとごに確実に走りを洗練させてきた。V60も同様で、乗り心地はストローク初期のコツコツとした感触が取れ、更にしなやかさを増してた印象だ。一方、ステアリングは軽く、操舵に間髪入れずにクルマが向きを変えはじめる快活さも備わる。『XC40』まで含む最新のボルボ車の中でも、もっともスポーティと言っていい。

パワートレインはガソリン2リットルターボの「T5」、そしてプラグインハイブリッドは「T6」と「T8」のアウトプットの異なる2種類が揃い、昨今の風潮を鑑みてディーゼルは用意されない。試乗したT5は最高出力254psで動力性能は十分以上。前輪駆動なので、雨の中ではもう少しトラクションを……という感も無くはないが、それも敢えて言えばの話だ。

新しいモデルの登場するごとに先進安全装備の強化が図られるのが、最近のボルボ。XC60では、緊急自動ブレーキのシティセーフティに右折時対向車検知機能が新たに採用されている。もちろん、全車に標準装備である。

それでいて価格はエントリーの「T5モメンタム」で499万円からと、ライバルに対して非常にリーズナブル。飛び道具的な派手さがあるわけではないが、スタイリッシュで実用的、軽快に走って安心感も高いとなれば、多くの人にとってきっと満足の行く買い物になるだろう。最近のボルボの絶好調ぶりが、よく表れた1台。売れない理由が、ちょっと見当たらない。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★★

島下泰久(しました・やすひさ)
1972年神奈川県生まれ。走行性能だけに留まらない、クルマを取り巻くあらゆる事象を守備範囲に自動車専門誌、一般誌、ファッション誌、webなど様々なメディアを舞台に活動。2017-2018日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。自動運転技術、電動モビリティを専門的に扱うサイト「サステナ(http://sustaina.me)」を主宰する。近著は『2018年版 間違いだらけのクルマ選び』(草思社刊)。

(レスポンス 島下泰久)

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