【試乗記】マツダCX-30(4WD/6AT)/CX-5(4WD/6AT)/CX-8(4WD/6AT)

マツダCX-30 XD Lパッケージ(4WD/6AT)/CX-5 XDエクスクルーシブモード(4WD/6AT)/CX-8 XD Lパッケージ(4WD/6AT)
マツダCX-30 XD Lパッケージ(4WD/6AT)/CX-5 XDエクスクルーシブモード(4WD/6AT)/CX-8 XD Lパッケージ(4WD/6AT)

“本物”はひけらかさない

マツダのSUV=都会派のおしゃれSUV。当のマツダがこうしたイメージ戦略を敷いてきた以上、この認識は狙い通りなのだが、これが浸透しすぎてしまい、実はちょっと困っているらしい。クローズドコースでマツダSUVの隠れた(?)オフロード性能を試してみた。

SUVに注力するマツダ

試乗の舞台は山梨県富士河口湖町にある富士ケ嶺オフロード。マツダのSUV「CX-30」「CX-5」「CX-8」の悪路走破性をテストした。
試乗の舞台は山梨県富士河口湖町にある富士ケ嶺オフロード。マツダのSUV「CX-30」「CX-5」「CX-8」の悪路走破性をテストした。
マツダの4WDモデルは全車でセンターの油圧多板クラッチを電子制御式するスタンバイ4WD「i-ACTIV AWD」を採用。安全・安心を追求しつつ、FF車と比べて燃費が悪化しないシステムを目指しているのが特徴だ。
マツダの4WDモデルは全車でセンターの油圧多板クラッチを電子制御式するスタンバイ4WD「i-ACTIV AWD」を採用。安全・安心を追求しつつ、FF車と比べて燃費が悪化しないシステムを目指しているのが特徴だ。
試乗会場にはマツダ車のアウトドア的なイメージを高めるべく、テントや折り畳み式のテーブルセットなどがクルマとともに展示されていた。
試乗会場にはマツダ車のアウトドア的なイメージを高めるべく、テントや折り畳み式のテーブルセットなどがクルマとともに展示されていた。
フラッグシップの「CX-8」を筆頭にマツダのSUVといえばヨーロッパの石畳が似合う都会派のイメージだ。
フラッグシップの「CX-8」を筆頭にマツダのSUVといえばヨーロッパの石畳が似合う都会派のイメージだ。
考えてみれば、今のマツダはすっかり、SUVに軸足を置くメーカーとなった。

日本におけるマツダのラインナップには「CX-3」「CX-30」「CX-5」「CX-8」というの4つのSUVがそろう。4車種という数字にはさほど驚かないが、マツダの場合、SUV以外の自社製乗用車も「マツダ2」「マツダ3」「マツダ6」「ロードスター」の4つしかない(車体形式のバリエーションを数えると車種はもっと増えるけど)。さらに、海外市場にまで視野を広げると、SUV以外の車種数はほとんど増えない(しいていえばマツダ2のセダンくらい)のに対して、SUVでは「CX-9」と「CX-4」という海外専売商品が2車種も加わる。

少数精鋭型ラインナップの現在のマツダは、かように“SUV占有率”が高いのだ。「SKYACTIV(スカイアクティブ)」をうたうようになって以降のマツダの、グローバルでの最量販車種はCX-5である。それに続く2番目の量販車種は「アクセラ/マツダ3」だったが、今後は新規SUVのCX-30がマツダ3以上の台数を稼ぐ可能性が高い。

彼らのSUVへの力の入れようは、商品ラインナップ数だけでなく技術的にもうがかえる。現在のマツダが使う4WDシステムの「i-ACTIV AWD」は基本構造こそよくある電子制御スタンバイ式だが、超低フリクションと超高反応制御には独自のこだわりがあり、「FFより高効率で低燃費な4WD」を目指して、日々の技術開発を続けている。また、独自の「G-ベクタリングコントロール/G-ベクタリングコントロールプラス(以下、GVCプラス)」は低ミュー路や悪路でのグリップ確保にも効果的な技術だ。

しかし、マツダがここまでやっても、本格的なアウトドア活動を趣味とするユーザーに選ばれがちなのは「トヨタRAV4」や「日産エクストレイル」あるいは「スバル・フォレスター」であって、CX-5ではないのが現実である。

試乗の舞台は山梨県富士河口湖町にある富士ケ嶺オフロード。マツダのSUV「CX-30」「CX-5」「CX-8」の悪路走破性をテストした。
試乗の舞台は山梨県富士河口湖町にある富士ケ嶺オフロード。マツダのSUV「CX-30」「CX-5」「CX-8」の悪路走破性をテストした。
マツダの4WDモデルは全車でセンターの油圧多板クラッチを電子制御式するスタンバイ4WD「i-ACTIV AWD」を採用。安全・安心を追求しつつ、FF車と比べて燃費が悪化しないシステムを目指しているのが特徴だ。
マツダの4WDモデルは全車でセンターの油圧多板クラッチを電子制御式するスタンバイ4WD「i-ACTIV AWD」を採用。安全・安心を追求しつつ、FF車と比べて燃費が悪化しないシステムを目指しているのが特徴だ。
試乗会場にはマツダ車のアウトドア的なイメージを高めるべく、テントや折り畳み式のテーブルセットなどがクルマとともに展示されていた。
試乗会場にはマツダ車のアウトドア的なイメージを高めるべく、テントや折り畳み式のテーブルセットなどがクルマとともに展示されていた。
フラッグシップの「CX-8」を筆頭にマツダのSUVといえばヨーロッパの石畳が似合う都会派のイメージだ。
フラッグシップの「CX-8」を筆頭にマツダのSUVといえばヨーロッパの石畳が似合う都会派のイメージだ。

「オフロードトラクションアシスト」を追加

空転しているタイヤを制動して、グリップしているタイヤにエンジントルクを導く「オフロードトラクションアシスト」は「CX-30」が初採用。4WD車にのみ搭載される。
空転しているタイヤを制動して、グリップしているタイヤにエンジントルクを導く「オフロードトラクションアシスト」は「CX-30」が初採用。4WD車にのみ搭載される。
「オフロードトラクションアシスト」はステアリングホイールの右下にあるスイッチで起動する。
「オフロードトラクションアシスト」はステアリングホイールの右下にあるスイッチで起動する。
「オフロードトラクションアシスト」を起動すると、燃料計と水温計との間にインジケーターが表示される。
「オフロードトラクションアシスト」を起動すると、燃料計と水温計との間にインジケーターが表示される。
「オフロードトラクションアシスト」は、他社のSUVなどが搭載する同種の機能とほとんど同じ。スタッフによればマツダならではの強みや特徴は「特にない」という。
「オフロードトラクションアシスト」は、他社のSUVなどが搭載する同種の機能とほとんど同じ。スタッフによればマツダならではの強みや特徴は「特にない」という。
マツダといえば、かつての「ファミリア4WD」は日本初のフルタイム4WDであり、世界ラリー選手権にも出ていたし、「プロシード/プロシードレバンテ」といった4WDピックアップやクロスカントリー車もつくっていた。それなのに、アウトドアやオフロード筋でのマツダの存在感がここまで希薄なのは、そっち方面へのアピールをあえてしてこなかったマツダ自身のマーケティング活動によるところも大きい。しかも、CX-5を筆頭とするマツダの最新SUVは、どれも泥んこ姿がまったく似合わない都会的デザインを売りとしてきた。

とはいえ、彼らの最新SUVの内容やデキを見れば、それをつくっている技術者たちが、くやしい思いを抱いてきたことも容易に想像できる。あるマツダ開発担当氏に今回聞いたところでは、北米では初代CX-5が開発想定外の過酷な悪路に持ち込まれたあげく、スタックした動画をネットで公開されて「やっぱりCX-5の悪路性能はいまひとつ」という不本意な評価を定着させられた例もあったとか。

そんなイメージを少しでも変えたい……というのが、昨今のマツダの強い思いらしい。

事実、2019年10月発売のCX-30の4WDシステムに同社初の「オフロードトラクションアシスト(OTA)」機構が追加されたかと思ったら、CX-8とCX-5でも商品改良時に同機構が追加となった。さらにCX-5では「タフスポーツスタイル」なるアウトドア色を強めたアクセサリーパッケージも新たに用意された。

OTAそのものは特別な技術ではなく、ハードウエア構成はそれ以前と変わらない。OTAは横滑り防止装置(やGVCプラス)にも使われている四輪独立ブレーキ制御を応用したもので、悪路などでタイヤが空転してしまった場合に、そのタイヤにのみブレーキをかけてグリップしているタイヤにエンジントルクを導くシステムである。……とここまででお分かりの向きも多いように、OTAは現在の国内外のSUVで本当によく見かける技術の一種である。

空転しているタイヤを制動して、グリップしているタイヤにエンジントルクを導く「オフロードトラクションアシスト」は「CX-30」が初採用。4WD車にのみ搭載される。
空転しているタイヤを制動して、グリップしているタイヤにエンジントルクを導く「オフロードトラクションアシスト」は「CX-30」が初採用。4WD車にのみ搭載される。
「オフロードトラクションアシスト」はステアリングホイールの右下にあるスイッチで起動する。
「オフロードトラクションアシスト」はステアリングホイールの右下にあるスイッチで起動する。
「オフロードトラクションアシスト」を起動すると、燃料計と水温計との間にインジケーターが表示される。
「オフロードトラクションアシスト」を起動すると、燃料計と水温計との間にインジケーターが表示される。
「オフロードトラクションアシスト」は、他社のSUVなどが搭載する同種の機能とほとんど同じ。スタッフによればマツダならではの強みや特徴は「特にない」という。
「オフロードトラクションアシスト」は、他社のSUVなどが搭載する同種の機能とほとんど同じ。スタッフによればマツダならではの強みや特徴は「特にない」という。

難コースでも苦もなく走れる

「CX-8」でモーグル路面に挑む。片輪が浮いてスタックしたような状況からでも、「オフロードトラクションアシスト」を起動すれば簡単に脱出できた。
「CX-8」でモーグル路面に挑む。片輪が浮いてスタックしたような状況からでも、「オフロードトラクションアシスト」を起動すれば簡単に脱出できた。
「CX-5」では急坂のぼりにチャレンジ。4輪がしっかり接地する路面であれば、この程度の坂は「オフロードトラクションアシスト」なしでも登りきる地力はもともとある。
「CX-5」では急坂のぼりにチャレンジ。4輪がしっかり接地する路面であれば、この程度の坂は「オフロードトラクションアシスト」なしでも登りきる地力はもともとある。
全高を1540mmに抑えるなどいかにも都市型SUVの「CX-30」だが、こんな急坂も余裕をもってのぼれた。
全高を1540mmに抑えるなどいかにも都市型SUVの「CX-30」だが、こんな急坂も余裕をもってのぼれた。
「CX-30」の最低地上高は175mm。同200mmの「CX-8」、同210mmの「CX-5」ともども、悪路に踏み入れるにあたって心強い数値だ。
今回のテスト車はタイヤサイズ、銘柄ともすべて標準装着のままだった。
今回のテスト車はタイヤサイズ、銘柄ともすべて標準装着のままだった。
というわけで、今回の試乗会はCX-30とCX-5、CX-8で、山梨県「富士ヶ嶺オフロード」内にそれぞれ用意された専用コースを走破するという内容だった。コース自体は本格的だが、非日常的な専用コースを比較対象となるクルマもなく短時間お試し走行するだけだったので、悪路素人である筆者の感想は「なるほどマツダのSUVも見た目に似合わず(?)よく走るなあ」といった程度のものだったことを正直に告白しておく。

ただ、モーグル路面に挑んだCX-8では、OTAの効果も明確だった。CX-8は4輪とも独立サスペンション(=リジッド式より伸び側のストロークが短い)なので、深いコブでは容易に3輪走行になってしまう。ただ、そこからがOTAの出番で、宙に浮いたタイヤが空転しかけると、次の瞬間にそこにグッとブレーキがかかって、こんな難路面も軽くクリアした。

こうした場面でOTAのような機構がないと、空転したタイヤにばかりエンジントルクが流れて接地したタイヤに駆動力が伝わらず、にっちもさっちもいかなくなる可能性が高い。また、本当に滑りやすい路面では、通常のトラクションコントロールだけだとエンジントルクが絞られるばかりで、これまた前に進まなくなるケースが多い。その点、OTAは空転輪のブレーキを作動させると同時に、わずかなスリップはあえてスルーしてエンジントルクをかけてくれるので、今回のようなコースでもきっちりと走ってくれるのだ。

このほかにもCX-5での急坂のぼりやCX-30での林道走行などのコースが用意されたが、マツダのSUVはそのすべてを標準装着のサマータイヤのまま、シレッとこなしてしまった。

考えてみればもともと優秀な4WDシステムに加えて、CX-8で200mm、CX-5で210mmという最低地上高はSUVでも屈指のレベルである。まるで乗用車風情の顔をしているCX-30のそれですら175mmあり、昨今のクロスオーバー系としては本格派の部類に入る。また、CX-30ではオンロードでの試乗もできたが、リアのトーションビームサスペンションと4WDの組み合わせとしては、旧来のCX-3よりアシさばきも明らかにしなやかだった。これは新世代プラットフォームの美点だろう。

(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)

「CX-8」でモーグル路面に挑む。片輪が浮いてスタックしたような状況からでも、「オフロードトラクションアシスト」を起動すれば簡単に脱出できた。
「CX-8」でモーグル路面に挑む。片輪が浮いてスタックしたような状況からでも、「オフロードトラクションアシスト」を起動すれば簡単に脱出できた。
「CX-5」では急坂のぼりにチャレンジ。4輪がしっかり接地する路面であれば、この程度の坂は「オフロードトラクションアシスト」なしでも登りきる地力はもともとある。
「CX-5」では急坂のぼりにチャレンジ。4輪がしっかり接地する路面であれば、この程度の坂は「オフロードトラクションアシスト」なしでも登りきる地力はもともとある。
全高を1540mmに抑えるなどいかにも都市型SUVの「CX-30」だが、こんな急坂も余裕をもってのぼれた。
全高を1540mmに抑えるなどいかにも都市型SUVの「CX-30」だが、こんな急坂も余裕をもってのぼれた。
「CX-30」の最低地上高は175mm。同200mmの「CX-8」、同210mmの「CX-5」ともども、悪路に踏み入れるにあたって心強い数値だ。
今回のテスト車はタイヤサイズ、銘柄ともすべて標準装着のままだった。
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