道路インフラの将来-東京オリンピック・パラリンピックから100年後の未来まで

歩いているときやクルマに乗っているときはもちろん、物流の面でもなくてはならない「道路」。

あまりに身近な存在であるため、道路について考える機会は少ない。しかし、世の中の変化とともに、道路の役割や意味も変わるはずだ。日本の道路インフラはこれからどうなっていくのだろうか。

変革は2020年代? 高速道路の現在と未来

まずは、高速道路の未来について、モータージャーナリストの清水草一氏に話を聞いた。

「日本の高速道路の料金は世界一高い。しかしそのおかげで、我々は地形が険しく地盤が軟弱にもかかわらず、世界一地震に強い高速道路を走れている、と言えるかもしれません」

モータージャーナリストの清水草一氏

「誕生から50年以上が経ち老朽化が進む首都高は今、6000億円もの予算をかけて老朽化対策の工事を行っています。この工事は、2028年度に完了する予定です。全国で進められている高速道路の建設も、2020年代に終わるでしょう。ここで、日本の道路インフラの整備は一段落。その後は、メンテナンスをしながら使用していく段階に入ります」

あと10年ほどで一段落するという道路インフラの整備。10年後といえば自動運転の普及が進んでいそうだが、高速道路はなにか影響を受けるのだろうか。

「自動運転技術が普及しても、高速道路自体に大きなイノベーションはないでしょう。スマホやPCはそのままで、アプリ(クルマ)が進歩していくイメージですね。しかし、クルマが走る様子は変わるかもしれません。すべてが自動運転車になれば、前後のクルマがぴったり同じタイミングでブレーキを踏むことが可能になります。今よりも車間距離を詰めて走ることができるでしょうし、坂道で知らず知らずのうちに速度が変化してしまうこともなくなりますから、渋滞も緩和されるはずです」

自動運転車や無人運転車が増えれば、その専用レーンができるかもしれない。高速道路は、2020年代に大きな変革を迎えそうだ。

一般道には無人運転バスが走るようになる

では、一般道はどう変わるのだろうか。

「高速道路と違い、一般道で高いレベルの自動運転が普及するのは、時間がかかると考えています」と話すのは、野村総合研究所執行役員の立松博史氏だ。

「一般道でも、幹線道路には自動運転車や無人運転車の専用レーンができるかもしれません。また、同じルートをぐるぐる廻るコミュニティバスは、無人運転化が実現されそうです」

野村総合研究所執行役員の立松博史氏

「自動運転・無人運転技術が普及し、公共交通が充実するのは素晴らしいことです。ただ、その技術をもっとも必要としている交通弱者の方――高齢者や障がい者など――は、バス停などまでどうやって移動するのかがポイントになりますね。パーソナルモビリティに乗ってバス停まで移動し、車椅子でバスや電車に乗るのと同じように、パーソナルモビリティと一緒に無人のバスに乗ることも考えられます」

つくばモビリティロボット実験特区で公道実証実験を行うWinglet

現在の法律では、トヨタの『Winglet』やホンダの『UNI-CUB』のようなパーソナルモビリティの公道走行は認められていない。しかし、新たな移動手段としての可能性は十分にある。もしも認可されるとしたら、そのチャンスは2020年の東京オリンピック・パラリンピックだ。

「オリンピックは、世界に向けたショールームです。そのタイミングでさまざまな規制緩和や撤廃、もしくは規制強化が行われると思われます。パーソナルモビリティの公道走行が認可されたり、自動運転の特区が作られたりもするでしょう」

「空飛ぶクルマ」で道路がなくても移動できる世界を

道路の未来について、驚きの目標を掲げて行動している団体がある。自動車業界の若手たちで構成され、愛知県豊田市を拠点に活動する団体「CARTIVATOR」だ。

CARTIVATOR - FLYING CAR PROJECT

代表の中村翼氏は、「私たちは道路がなくても移動出来る世界を実現するために活動しています」と話す。どういうことなのだろうか。

「交通インフラが整備されていないアフリカや中近東では、歩いて水を汲みに行くのに1時間以上かかることも。しかし、道路は作るのにもメンテナンスにも莫大な資金がかかります。国土が広いアフリカなどで、交通インフラを隅々まで整備するのは難しいでしょう。しかも、道路を作ることで自然の生態系が分断されることもあります。そこから、『そもそも道路がなければ移動できないのだろうか?』と考えました」

カーティベーターの中村翼氏

カーティベーターが出した答えは、「空飛ぶクルマの普及」だ。映画の中のような話だが、2050年を目標に全世界で「空飛ぶクルマ」を普及させることを考えているという。

「現在は、地上の道路を『面+α』で捉えていますが、未来の交通インフラは、空を含めて立体的に捉える必要があると思っています。今は、ゆっくり歩く人と速く走る自動車が同じ場所に混在していますよね。それを、速度によって高さを分ける形にすれば、交通事故の死傷者が減るのではないかと考えています」

例えば、地上を歩行者が歩き自動車は高架を走行、低空領域ではドローンや「空飛ぶクルマ」が、数千メートルの高度にはヘリコプターや小型飛行機、そして高度1万メートルに大型旅客機が飛ぶ――こんなイメージだと言う。もし実現できるとしたら、交通事故の死傷者だけでなく、渋滞も解消されるだろうか。

カーティベーターが開発する空飛ぶクルマ「SkyDrive」のイメージ

「現在、低空域から1万メートルまでの空域はほとんど使われていません。ここが活用できれば、地上の渋滞が分散すると考えられます。また、タワーマンションに住んでいる人が『空飛ぶクルマ』を使えば、劇的に通勤時間が短くなるはずです。さらに、『空飛ぶクルマ』は自然災害で道路が分断されても影響を受けないことも、大きなメリットでしょう」

墜落したときのリスクをどう回避するか、立体的に交通網を敷く上でのルール整備など、実現するためには多くの課題がある。しかし、移動手段が地上を離れることで得られるメリットは計り知れない。

「道路の未来」と聞くと、新規路線の建設や老朽化整備を考えてしまうが、そもそも道路は交通インフラの一部。将来、私たちの移動手段に変化が生じれば、既存の道路とは違う形に進化する可能性も大いにあるのだ。

(田島里奈/ノオト)

[ガズー編集部]