超小型車をシェアする新しいクルマの使い方―トヨタの次世代交通システムHa:mo
「シェアリング(共同所有)」という概念が広まり、都市部ではカーシェアリングサービスの普及が進んでいる。ユーザー数の増化に伴い、カーシェアリングの形態は多様化していくはずだ。
今回取り上げるトヨタ自動車の「Ha:mo(ハーモ)」も、普及が見込まれるカ―シェアサービスのひとつ。パーソナルモビリティを使った次世代のカーシェアリングサービスだ。現在は、東京、沖縄、岡山、フランスのグルノーブル、そして愛知県豊田市で実証実験を行っている。
従来型カーシェアとは違うスタイルで移動の自由を提供する
公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団による2016年3月の調査では、カーシェアリングのユーザー数は85万人。現在のカーシェアリングのほとんどは、数人乗りの一般的な乗用車をシェアし、借りた場所に返却するシステムだ。
Ha:moでは、パーソナルモビリティと呼ばれる1人乗りの小型EV(電気自動車)が使われ、借りたステーションとは別の拠点に“乗り捨て”ができる「ワンウェイ型」を採用する。最大の利点は、「移動の自由度を高められること」だ。
「都市部でも、電車やバスで行きづらい場所はあるもの。小型EVが安価で利用できれば、公共交通機関を補完して、移動の効率化や時間短縮が可能となります。また、乗り捨てができるワンウェイ型のため、小型EVで荷物を運んで電車で帰る、終電がなくなったから小型EVで帰るといった使い方もできるのです」と話すのは、トヨタ自動車でHa:moの事業企画を統括している田村誠さんだ。
Ha:moの語源は「ハーモニアス・モビリティ・ネットワーク」。パーソナルな乗り物と公共交通機関をつなぎ、シームレスで快適な移動と、渋滞や駐車場不足といった地域の交通課題解決のサポートを目的としている。
「豊田市では、駅など人が多く利用する場所、約50カ所にステーションを設置し『目的地付近の駐車場を心配せずに移動できる』『電車を使った移動でも駅から目的地まで長距離を歩かなくて済む』といった反響を得ています」
またHa:moは、公共交通機関の減便や廃止が進む地方で、移動手段に不便を感じている人が気軽に移動する手段としても期待される。
トラムと組み合わせたグルノーブルの例
フランスの高速鉄道「TGV」でパリから南東方面へ3時間ほどの場所に、グルノーブルという都市がある。豊かな自然に囲まれた人口15万人、商圏40万人のこの街でもHa:moは展開されている。
「グルノーブルに設置されるHa:moのステーションは27カ所。トラムと呼ばれる路面電車を軸としていることが特徴で、近距離移動はもちろん、トラムまでのアクセス手段として市民の足となっています。遠くへ出かける際も、自家用車ではなくトラムとHa:moを活用することで自動車利用を抑制し、環境にやさしい都市交通を実現しています」
プロジェクトは、グルノーブル市、広域自治体であるメトロ、電力会社、そしてトヨタが協力して運営する。トヨタは、パーソナルモビリティの「COMS(コムス)」と「i-ROAD(アイロード)」をそれぞれ35台ずつ提供し、運営システムもバックアップしている。
「グルノーブル市は、2007年に55%だった移動における一般自動車の比率を、2030年に20%まで削減する目標を掲げていて、Ha:moはそれを達成するための大きな役割を担っています」
パーソナルモビリティは観光との相性も抜群
沖縄では、日本の都市部やグルノーブルとは異なるアプローチでHa:moを展開している。「観光」だ。
「狭い場所にも入っていけて小回りも利きますし、駐車も省スペースで済みます。また、騒音を出さないEVだから、周辺住民の迷惑になりにくいなど、小型EVならではのメリットは多いもの。それに、普通のクルマでは行けないけれど歩いていくには遠い場所に絶景があるのです」
現在は、美ら海水族館がある本部半島を中心に本部町、今帰仁村(なきじんそん)で展開しているほか、最近では名護市や本部半島からフェリーで30分ほどの場所にある伊江村(いえむら)でもサービスを始めた。各自治体、観光協会は、観光振興目的にHa:moを活用し、観光客にとっては利便性アップと観光の活性化を狙っている。
「普通の乗用車と違って風を感じられますし、エンジン音がなく静かですから波の音もよく聞こえます。パーソナルモビリティは観光と相性がいいのです」
実証運用でわかった大きな課題
ここまでHa:moのメリットを伺ってきたが、実証実験を行って見えてきた課題もあるという。「車両配備」だ。
「借りる場所と返す場所が異なるワンウェイ型であることはHa:moの大きな特徴ですが、車両が必ず元の場所に戻ってくるわけではないので、どうしても特定のステーションに車両が集中してしまいます。また、時間帯によってもニーズは集中しますね。それを配回送するための運用コストがかかってしまうのです」
田村さんは「公共交通機関の一環としてとらえ、その地域にあったサービスの運営方法や利用料金など街や地域と協力しながら運営していくことが重要になってきますね」と言う。
最終進化形は自動運転?
最後にHa:moの今後について伺った。これまでの実証実験の知見やノウハウを活かし、近い将来、さまざまなエリアに展開していきたいと考えていると言う。
「たとえば、東京では現在、銀座や月島、豊洲、門前仲町といった“23区の東側”だけで運用していますが、今後は品川エリアや中野エリアといった東京の西側にも展開したいと考えています。山手線よりも西側には、南北に走る電車があまりありません。それを補完するようにHa:moを整備できればと思っています」
さらに先を見据えると、無人運転とのマッチングが運用面で大きな転換となりそうだ。
「無人でステーション間の回送ができれば、課題となっている回送オペレーションが効率化でき、運用しやすくなります。また、予めニーズが集中する場所や時間に、車両を配備することも簡単になりますね。理想的には、利用者のいる場所に車両が無人で迎えに行き、利用終了後は自動的にステーションへ戻ることでしょう。少子高齢化社会となっていく今、Ha:moの技術や機能を応用することで、自分で運転できない方や移動困難な方など、すべての移動者へのモビリティサービスの提供を考えています」
次世代交通システム「Ha:mo」はまだ走り始めたばかりだが、新しいクルマ利用の形として大きな期待が持てそうな存在だ。無人運転が実現するまでには、まだまだ時間がかかる。しかしそのときがきたら、Ha:moは必要なときに迎えにきてくれて好きな場所で返却でき、そして誰もがその利便性を享受できる新しい移動の価値観を提供してくれるのだ。いつの日かはわからないが、そんな未来が本当にやってくるだろう。
<取材協力>
トヨタ自動車株式会社 コネクティッドカンパニー ITS企画部 Ha:mo事業企画室長
田村誠
Ha:mo http://www.toyota.co.jp/jpn/hamo/hamo.html
http://www.toyota.co.jp/jpn/tech/its/hamo/
(工藤貴宏+ノオト)
[ガズー編集部]
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