クルマの次世代エネルギー-経済産業省に聞く電気と水素のポテンシャル
EV(電気自動車)やFCV(燃料電池自動車)が話題に上ることが増えてきた。一方で、従来からのガソリンエンジンやディーゼルエンジンの進化もまだまだ続く。果たしてクルマのエネルギー源は、どのように変化していくのであろうか。国が描く自動車エネルギーの未来像を探るため、経済産業省を訪ねた。
地球温暖化を防ぐため「脱・化石燃料」へ進む
「自動車のエネルギー源は、ガソリンまたは軽油の『化石燃料』から、徐々に電気や水素に移行していくでしょう。IEA(国際エネルギー機関)が発表したレポートでは、2030年になると世界の新車販売の約30%が、EV(電気自動車)、PHV(プラグインハイブリッド)、FCV(燃料電池車)といった、電気または水素をエネルギー源とした電動車両になるとされています。2050年には、その割合は50%を超える規模になるでしょう」
- 新車(乗用車)販売台数に占める EV・PHV の割合のイメージ「EV・PHV ロードマップ検討会 報告書」より
経済産業省製造産業局自動車課 課長補佐の荒井次郎氏はこう話す。世の流れは“脱・化石燃料”であり、その理由は地球の温暖化防止であると言う。
「世界各国は、『2050年までに産業革命期からの気温上昇幅を2度以内に抑える』という野心的な目標を確約しています。また、昨年発効された『パリ協定』で日本は、『2050年までにCO2排出量を80%削減する』という目標を掲げました」
「パリ協定」とは、地球温暖化対策の新しい国際的な枠組みだ。2005年に発効された「京都議定書」が先進国だけの枠組みだったのに対し、パリ協定ではインドや中国といった途上国も参画する初の枠組みとなる。
「しかし、鉄鋼や化学といった産業分野では、どうしても多量のCO2が排出されてしまいます。全体で80%削減を達成するために、自動車を含めた運輸部門も意欲的な削減が期待されているのです。実際トヨタさんのように、『2050年にはCO2を90%削減する』と目標を立てている自動車メーカーも存在します。自動車メーカー各車は、2050年に向かって『CO2を削減しなければ生きていけない』という前提で行動しているのです」
もちろん、80~90%ものCO2排出を削減するは非常に厳しい目標だ。そのために政府は、「EV・PHV ロードマップ検討会 報告書」や「水素・燃料電池戦略ロードマップ」などを作成して目標達成までの筋道を示している。
水素をエネルギー源としてプッシュする理由とは?
すでに実用化されて普及の進むEVやPHVに比べて、FCVはまだまだスタートしたばかりの技術だ。しかし、政府は「水素・燃料電池戦略ロードマップ』を作成してまで、水素エネルギーの普及を推している。その理由はなんだろうか。
「水素はFCVだけでなく、国のエネルギー政策への貢献も期待されています。なぜなら水素は、再生可能エネルギーの調整役になり得るからです」
太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーは、日照や気候に左右されるため、計画的に発電することが難しい。どうしても発電に変動が伴ってしまう。ところが電気は、大量に溜めておくことができないため、変動があると非常に使いにくいのだ。しかし電気で水素を作れば、水素としてエネルギーの貯蔵が可能となる。水素を作る方法は、中学校で習った「水の電気分解」だ。
- 「再生可能エネルギーから水素を作れば、純国産のエネルギーになります。また日本は、水素に関する特許が世界でも多く、技術的な競争力が高いことも魅力でしょう」
水素がエネルギー源として定着すれば、FCVだけでなく、国全体のエネルギー政策にも大きく貢献できるのだ。
「また、バイオ燃料も可能性があります。バイオ燃料であるエタノールは、EVやFCVとは違って従来からある内燃機関エンジンがそのまま使えるのです。そうしたバイオ燃料が国内で安定供給できることが望まれます。ただし、トウモロコシやサトウキビといった食物由来のバイオ燃料は日本には不向きです。生ゴミから作るなど、第2世代と呼ばれるバイオ燃料が理想。しかし、実用化にはまだまだ時間がかかるので、中長期的に期待されるエネルギーですね」
自動車のエネルギーは化石燃料から電気や水素に移行するのが本流だが、バイオ燃料というオプションも存在しているというわけだ。
インセンティブと規制を両輪に電動車両は普及が進んでいく
政府は電動車両普及へのロードマップを作成しているが、実際のユーザーは国が作ったロードマップをもとにクルマを購入するわけではない。荒井氏は「現実的にはインセンティブと規制が両輪となって進んでいくでしょう」と言う。
インセンティブは、エコカー減税などの税制優遇に加えて、「CEV(クリーンエネルギー自動車)補助金」や「充電インフラ補助金」、「水素供給設備補助金」が該当する。一般社団法人 次世代自動車振興センターが窓口になっているが、制度そのものは経済産業省が定めたものだ。もう一方の規制とは、省エネ法によって自動車メーカーに課せられた「2020年燃費基準」のこと。自動車メーカーには、目標年度までに販売するクルマの平均燃費を規制値以上にすることが求められているのだ。
「とはいえ、私どもは経済産業省なので、環境だけでなく経済と産業も重要です。これから次世代車が増える世界で、日本の産業の競争力をどうすれば維持・発展していけるのかも同時に考えています」
そこでインセンティブと規制だけでなく、もうひとつの取り組みがある。それが「研究開発」だ。日本としては、世界的な技術の競争力を高めるために、自動車メーカーや研究機関を横断したオールジャパンの研究開発を進めている。内燃機関のポテンシャルを高める「自動車用内燃機関技術研究組合(AICE)」では、2014~2016年度に第一期として、ディーゼルエンジンの研究を大学の研究室を中心に実施した。
また、二次電池の基礎研究を行う「革新型蓄電池先端科学基礎研究事業(RISING2事業)」も2016年度からスタートしている。これは、2030年の実用化を目標に数段階、性能を高めた革新型電池の開発しようというもの。京都大学・産総研に研究拠点が設けられ、自動車メーカーや電池メーカー、大学や研究機関などから研究者が集められている。
「EVが主流の時代になっても、日本の自動車産業が日本経済を牽引できるよう、EVの主要な部材である電池で日本が強みを持つこと。それが電池を研究開発する目的です。今、中国ではEVが急増していますが、それが世界市場に出てきたときに、日本企業の競争力が下がるようでは困りますからね」
ここ数年、中国市場ではEVがとてつもない勢いで増えている。広大な中国市場で技術に磨きをかけた中国の自動車メーカーと戦うためには、日本の自動車メーカーも準備が必要だというわけだ。
「今後、各社からPHVやEVが続々とリリースされます。1回乗ると電気で走るクルマの楽しさがわかるはずです。2017年が、電動車両の普及が促進する契機の年になると嬉しいですね」
(鈴木ケンイチ+ノオト)
[ガズー編集部]
<取材協力>
経済産業省
製造産業局 自動車課 課長補佐
(併)電池・次世代技術・ITS推進室
(併)自動車部品・ソフトウェア産業室
荒井次郎
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