クルマがネットにつながると何が変わるのか-IoTが自動車の未来にもたらすもの

今、世界中で注目を集めている概念、IoT(Internet of Things)。さまざまな物がインターネットに接続することで、私たちの生活が根底から変わると言われている。

もちろんIoTはクルマの世界にも波及している。今後その流れがさらに加速していくことは間違いない。もはやクルマをハードウェアだけで語ることはできないのだ。

今回は、「日経Automotive Technology」の編集長を務め、『自動運転』(日経BP社)の著書もある技術ジャーナリストの鶴原吉郎氏に、「クルマとインターネット」について伺った。

IoTの時代のサービスは、ハードとネットの両輪が必要となる

鶴原氏によると、IoT時代のサービスは「サイバー・フィジカル・システム」なのだと言う。サイバーとはインターネットのこと。フィジカルはハードウェア。つまりハードウェアがインターネットとつながって、ひとつのシステムとして機能するようになるのだ。

「スマートフォンが良い例でしょう。スマートフォンの前の携帯電話(フィーチャーフォン)も、iモードというサービスがあってネットにつながっていました。ところが、それは世の中を変えるほどのものではありませんでしたよね。まだ、ソフトの部分であるインターネットへの接続が非常に限定されていたからです。ところが、スマートフォンが出てきたとたん、ネットにつながる利便性にみんな気がついた。そして世界が変わっていきました」

ハードとネットという両輪がしっかりと揃ってこそ、世の中を変えるシステムになり得るのだと鶴原氏は主張する。「おもしろいのは、スマートフォンは世の中の大勢の人のニーズから生まれたものではありません。スティーブ・ジョブズというひとりの天才の発想力からきています」と鶴原氏。

ガラケーがスマートフォンに進化したようにクルマも進化する

では、来るべきIoT時代のクルマはどうなるのだろうか?

「クルマとインターネットをつなげるサービスは、自動車業界各社が10年ほど前から模索していますが、実際にはあまりうまくいっていません。携帯電話やスマートフォンの事例をクルマにあてはめてみれば、現在のクルマはガラケーにiモードを実装したような段階ではないでしょうか」

確かに、各自動車メーカーはクルマに通信デバイスを搭載して行うさまざまなサービスを模索してきた。しかし、それらのサービスが“世の中を変える”ほどの存在ではないのも事実だ。

「この流れが一気に変わる可能性があるのが、自動運転の技術が完成したときです。進化した自動運転技術とインターネットが組み合わさったときに、クルマはこれまでとはまったく違う存在になるのではないでしょうか。携帯電話からスマートフォンになるほどの大きな変化ですね」と鶴原氏。

iPhoneが生まれて、スマートフォンが世界を変えた。そのiPhoneになりえる存在がクルマには、まだ存在しない。その決定版が登場すれば世界は変わると鶴原氏は語る。

クルマの未来はライドシェアとカーシェアとの戦いにかかっている

鶴原氏は、重要なのはハードウェアではなくソフトウェアの方だと考えている。アメリカで生まれた自動車配車ウェブサービス「Uber(ウーバー)」にそのヒントがあるという。

「スマートフォンのアプリでクルマを呼ぶ。これ自体は、難しい技術ではありません。しかし、クルマをスマートフォンで探すだけでなく、クルマを利用したい、クルマを提供したいという一般の人のニーズを結びつけるマッチングサービス(ライドシェア)を生み出した。Uberは、そういう意味で画期的でした」

ちなみにUberは、自動車メーカーと相性の良い存在だという。世界でサービスを拡大したいUberは、新興国ではUberドライバーを増やすために、クルマをリースしているのだ。

「借り手は、Uberで稼いだ売上げからクルマのリース代金を支払います。これがもう一歩進むと、これまでクルマを持てなかった層が、Uberを利用することで買えるようになります。Uberというライドシェアがクルマを買う動機になっているんですね。しかも、ライドシェアを前提とすることで、本来よりも1ランク上の高いクルマを買えるようになる。これは自動車メーカーにとっては嬉しいことでしょう」

2016年5月にトヨタ自動車は、ライドシェア領域におけるUberとの協業を検討すると発表している。一方、自動車メーカーとは別の思惑でIoT時代に臨むのがGoogleだ。

「Googleが自動運転を目指したのは、クルマでの移動時間中にインターネットサービスを利用してほしいから。そのためには運転という面倒からドライバーが解放されなければなりません。しかし、完全な自動運転車になると、クルマは必要なときに呼んだら来るという存在になるでしょう。そうなってしまっては、クルマを所有する意欲が落ちますよね。つまりGoogleカーの描く未来では、クルマは運転したり所有したりする存在ではなくなってしまいます。人を運ぶ入れ物というだけです。逆に自動車メーカーはライドシェアを進め、車種ごとに魅力的なポイントを作り、より高いクルマを購入してほしいと思っている。Googleと自動車メーカーの目指すところは、まったく正反対なんですね」

Uberや自動車メーカーが描く未来と、Googleが描く未来、どちらが勝者になるかはまだわからない。しかし、自動運転やライドシェアといったサービス競争の先にクルマの未来があることは間違いないのだ。

(鈴木ケンイチ+ノオト)

<取材協力>
鶴原吉郎
オートインサイト株式会社代表 技術ジャーナリスト・編集者

日経マグロウヒル社(現在の日経BP社)に入社後、新素材技術誌、機械技術誌を経て、2004年に、日本で初めての自動車エンジニア向け専門誌「日経Automotive Technology」の創刊に携わる。2004年6月の同誌創刊と同時に編集長に就任。2013年12月まで9年9カ月にわたって編集長を務める。2014年3月に日経BP社を退社し、2014年5月に自動車技術・産業に関するコンテンツの編集・制作を専門とするオートインサイト株式会社を設立、代表に就任。日経BP未来研究所客員研究員。

[ガズー編集部]

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