電気に水素…これからの自動車は何で走るのか-世界のクルマのエネルギー事情
自動車と切っても切れないエネルギー問題。今、多くのクルマはガソリンや軽油を使って走っているが、走れば走るほど地球温暖化の原因とされるCO2(二酸化炭素)を排出するという課題を抱えている。
では、これからのクルマはどのようなエネルギーにシフトしていくのだろうか。世界の自動車事情に詳しいモータージャーナリストの牧野茂雄さんに、クルマのエネルギー事情を伺った。
環境問題の解決に決定打はない
「先進国を中心にCO2規制が厳しくなっていて、自動車メーカーはその対策に苦労しています。ただ、『解決策はこれ』という決定打はありません。国によって道路環境が異なるためです」
日本のように信号が多く、ストップ&ゴーが多い道路環境ならハイブリッド車やCVTを搭載したガソリンエンジン車が向いているが、ヨーロッパのように高速走行が多い地域ならディーゼル・エンジン車の方が燃費は良くなる(=CO2排出量が減る)。どのエネルギーを使うか、どの技術を使うかは、それぞれの場所に応じた“適材適所”の判断が必要だ。また、道路環境だけでなく、国や地域ごとに異なるさまざまな背景も鑑みなくてはならないだろう。
ディーゼル車とハイブリッド車の普及が進む欧州
ヨーロッパは、世界でもっともCO2規制にこだわっているエリアだ。なぜ欧州がCO2規制にこだわるのか。その理由のひとつに海抜の低さがある。
「ヨーロッパには、海抜が低く温暖化によって界面が上昇すると水没してしまうエリアがあります。例えばオランダなどですね。このことから、温暖化の原因となるCO2削減が急務とされているのです」
そのヨーロッパで注目されている技術が、「48V(ボルト)システム」だ。従来は発電のみを行っていたオルタネーターをエンジンのパワー・アシストにも利用するハイブリッド車の技術で、ハイパワーと高効率を実現する。
「48Vシステムはドイツの国策でもあるので、一定数のクルマに採用されると考えられます。ヨーロッパでは、48Vシステムとともにハイブリッド車と、それからディーゼル・エンジン車の普及がさらに進むでしょう」
資源大国アメリカ
ヨーロッパがCO2排出量削減に躍起になっている中で、資源国であるアメリカは独自路線を突き進む。販売するクルマの一定台数を、EVやFCVといった排出ガスを出さないクルマ(ZEV:ゼロ・エミッション・ビークル)にしなくてはいけない「ZEV規制」を導入する州が増えている一方で、ユーザーがついてきていない一面もある。
「アメリカは、いざとなれば自前でエネルギーを賄うことができる資源国です。そのためガソリン価格も安い。ユーザーは、環境問題に理解を示してはいても、なかなかクルマのダウンサイジングやEVへのシフトが進んでいないのが現状です。当面の間は、大きなクルマが売れ続けるでしょう。2005年にハリケーン・カトリーナがアメリカの油田地帯を直撃して、ガソリン価格が高騰したことがありました。その直後は燃費のいい小さなクルマが売れましたが、それはわずかな期間だけでした」
石油資源を保有する国は、ガソリンが安い。「CO2が……」「化石燃料が……」と、頭では理解していてもあまり実感はないのかもしれない。牧野さんは「アメリカは、大きな天変地異でも起きない限り、エネルギーに対するスタンスは変わらないでしょうね」と予想する。
電動化に向かう中国、日本に追随するASEAN
アメリカを超え、今や世界一の自動車マーケットとなった中国。しかし、この国は原油を産出しない。
「中国の税制は日本と同じく排気量に比例するため、小排気量のクルマが売れています。欧州と同じダウンサイジングの流れです。一方で、中国はガソリンを産出しないので、国としてはハイブリッドやプラグイン・ハイブリッド、EVに力を入れ、脱・石油を図っています」
牧野さんは「中国にはかなり早くEVの時代がくるかもしれない」と考えている。現在ガソリンスタンドがない地域もあるからだ。北京や上海にはすでに電動バイクが普及している。
「中国の電動バイクはお世辞にもデキがいいとは言えませんが、タフな中国の方たちは、それでもうまく使いこなしています。少々モノがいいかげんでも上手に使ってしまうような国民性が感じられるので、完成度の低いEVでも受け入れ、暮らしに取り込んでしまうのではないでしょうか」
一方、タイ、インドネシア、シンガポール、フィリピン、マレーシアなどから成るASEANは、欧米とも中国ともまったく違う環境を持っている。クルマを取り巻く環境は、日本に近いと言う。
「ASEANは、街を走るクルマの大多数が日本車です。渋滞が多くて、ストップ&ゴーが多いのも日本と似ています。ですから、日本と同じようにCVTとNAエンジンの組みあわせが人気です。将来的に経済発展できれば日本を追いかけて、ハイブリッド化が進むでしょうね」
ASEAN諸国には地場の自動車メーカーがほとんどないことも、日本に追随する理由のひとつだろう。
日本は水素社会へ向かうのか
現在、日本は、どこの国よりもハイブリッドカーの普及が進んでいる。今後もCO2削減に向け、脱ガソリン車を推進していくと思われるが、PHV、EV、FCVの何が主力になっていくのかは、まだわからない。
特に、水素を電力に変えて走るFCVが気になるところだ。トヨタ・MIRAIのようなFCVは普及していくのだろうか。
「水素エネルギーが本当に普及するのかは、さまざまな予測や議論があります。ですが、それでも日本はやるべきです。また日本では、ガス会社がすでにガス管を水素に強い樹脂に交換するなど、水素供給のインフラを整え、水素社会の準備を始めています」
今後、エネルギー問題がどのように解決の方向に向かうかは、国それぞれ違う。世界中で違う方向に発展するクルマのエネルギー技術が、人類全体の財産になるだろう。
(鈴木ケンイチ+ノオト)
<取材協力>
牧野茂雄
モータージャーナリスト(日本自動車ジャーナリスト協会所属)
新聞記者から雑誌編集者を経てフリーランスへ。新聞記者時代には運輸省、環境庁、国会などの官庁および経団連の各記者クラブ詰めを歴任。自動車を「産業」「経営」の視点から見てきた。「ニューモデルマガジンX」編集長時代は、社会と産業の接点である製品と言う切り口に。一方で、自動車技術に対する関心が深いため、技術動向については、ほぼ30年間にわたって取材を継続。現在は自動車技術誌「モーターファンイラストレーテッド」のアドバイザーとして同誌の企画・執筆全般にかかわるほか、20数年来の取材対象であるアジアおよび中国の自動車産業について中国誌「汽車之友」「Asia Market Review」などにコラムを執筆。その他に「カーアンド・ドライバー」「日経ビジネスオンライン」「Japan Business Press」などに執筆。ライフワークは「経営と技術の接点」役になること。
[ガズー編集部]
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