無人運転は私たちに何をもたらしてくれるのか-DeNAが進めるロボットタクシー

メルセデス・ベンツの「ドライブパイロット」や日産の「プロパイロット」など、クルマが周囲の状況を検知しドライバーの操作をサポートする「運転支援システム」搭載車が続々と登場し、自動運転時代が目の前まできていることを感じさせてくれる昨今。

しかし、「自動運転」とはあくまでも、ドライバーが乗っていて運転操作が自動化されること。その先には、ドライバーがいなくてもクルマが走る「無人運転」がある。具体的には、タクシーやバス、配送トラックなどだ。

株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)は、現在、無人運転車両を用いた「ロボットタクシー」の実証試験を行っている。「Mobage(モバゲー)」などのゲームや野球球団の経営で知られるDeNAだが、そのビジネスの裾野は意外なまでに広く、2014年から特に力を入れてきたのが自動車関連のビジネスだ。ロボットタクシーもその一環である。

「クルマ×IT」でさまざまなサービスを提供する

DeNAは、今回の主題である無人運転タクシーの実現に向けた合弁会社「ロボットタクシー株式会社」を設立したほか、個人間カーシェアリングサービス「Anyca(エニカ)」、ヤマト運輸株式会社と自動運転技術を活用した次世代物流サービス開発プロジェクト「ロボネコヤマト」、私有地で無人運転バスを利用する交通システム「Robot Shuttle(ロボットシャトル)」など、さまざまな観点から自動車分野に進出している。

イオンモール幕張新都心で運行を開始したRobot Shuttle

株式会社ディー・エヌ・エー広報部の青野光展さんは、「弊社はゲームや野球で知られていますが、ひとつの事業にこだわるのではなく、常に5年後、10年後に柱となる事業を模索しています。日本の基幹産業でありながら、IT化の余地が残されている自動車関連は、可能性のある分野だと考えています」と話す。

「自動車メーカーは、ハードやソフトの開発に関して非常に高い技術を持っています。一方で我々のようなIT企業に何ができるのかといえば、サービスを生み出すこと。私たちは、それを“モビリティサービスプロバイダー”と呼んでいます」

IT企業がゼロからクルマを開発するのは難しい。しかし、自動車に関係したサービスを考えるのであれば話は違う。例えば、今や世界的な配車サービスとなった「Uber(ウーバー)」は、旧来の自動車業界とは別のところで生まれている。畑が違うからこそ、生み出せるものもあるのだ。

無人運転なら24時間運行も可能に

ロボットタクシー株式会社は、DeNAとロボット開発ベンチャーである株式会社ZMPとの合弁会社。ZMPは、自動運転技術で先端を行く企業のひとつである。技術開発をZMPが、サービス開発をDeNAが行い、無人運用によるロボットタクシーの実用化を目指す。現在は、実証実験を行っている段階だ。

「無人運転によるロボットタクシーの実証実験をスタートして、非常に多くの問い合わせをいただきました。それによって、地方だけでなく都心部でもニーズがあることがわかったんです」

ロボットタクシーではエスティマ・ハイブリッドをベースにした試験車両を走らせる

過疎化や高齢化によって働き手の減る地方部では、無人で運用できるロボットタクシーが注目される予想はできた。しかし、意外だったのが都市部でのニーズだ。たとえば都市部で小回りの効くコミュニティバスは人気が高い一方で、運用台数の不足や運用時間の制限といった問題があった。ロボットタクシーなら、24時間運用や人件費削減による低料金化が可能となる。

技術だけではない、実証実験を行う2つの理由

「ロボットタクシーの実証実験には2つの意味があります。まずは、無人運用車両の開発、もうひとつは、無人運転車への心理的バリアをクリアにすることです。自分たちの街の中を無人運転車が走ることに不安を感じる人は少なくありません。それを受け入れられる社会の受容性が必要で、その醸成にも時間がかかると思います」

実際に実証実験を行い、どのような成果が得られたのだろうか。

「無人運転に対し、不安よりも期待の方が大きいことを実感できました。説明会を開くと『いつから始まるのか』『自分たちの街で実施されるのは名誉なことだ』という声が聞かれます。実際に乗った人からは、『うちの主人よりも運転が上手』『人の運転とロボットの運転の切り替わりが分からなかった』という感想も。試験走行中のロボットタクシーを見た年輩の方から『ぜひ乗ってみたい』と言われたこともありましたね」

期待が大きいとはいえ、「事故を起こさない」という安全性は必須条件だ。歩行者やほかのクルマがいる中で安全に走らせる無人運転車の開発には、まだまだ課題は多い。

目標は2020年、無人運転車は何をもたらしてくれるのか

「政府も自動車メーカーも、2020年の東京オリンピックを目標にしています。そこで大切なのは“意思統一”でしょう。みんなで実現しようと思いをひとつにすれば、夢ではないと思いますね」

たとえ自動運転技術の実現度が100%に満たなくても、「関係する行政やメーカー、サービス事業者が協力し合うことでできることはあるはず」と青野さん。たとえば、オリンピックの選手村から会場までの道路に自動運転車専用レーンを設置すれば、無人運転車の技術的なハードルは大きく下がる。

「よく『日本は自動運転の分野で遅れている』と言われますが、行政もメーカーも実現したい思いは一緒です。世界に先んじたいと思っていますし、私たちも海外企業には負けたくありません」

東京オリンピックでの無人運転実現というマイルストーンをクリアした後、一般に無人運転が普及すると、社会はどのようになるのだろうか。

「まずは、移動が楽になります。誰でもいつでも、安くどこにでも、安心安全かつ快適に移動できるようになります。移動中の時間の使い方も変わりますね。たとえば、目的地がなくて、車内で映画を見るだけという使い方もできます。音楽を聴くのもいいでしょう。クルマに乗る目的、それ自体が変わってくる可能性があります。文字通り、生活が変わるのです」 DeNAは今、IT企業として「どんなサービスが世の中の役に立つのか」「どんなサービスなら受け入れられるのか」を考えている。どんな世の中になるのかはまだわからないが、「クルマ×IT」によって私たちの暮らしが大きく変わるのは間違いなさそうだ。

(鈴木ケンイチ+ノオト)

<取材協力>
株式会社ディー・エヌ・エー
広報部 サービス広報グループ グループマネージャー
青野光展さん

[ガズー編集部]