【現地取材】スマホ1つで乗り放題。MaaSアプリ「Whim」を使ってみたーMaaS最先端都市ヘルシンキ編②

Whimのアプリでチケットを購入。このときはAB地区のシングルチケットを買ってみた
Whimのアプリでチケットを購入。このときはAB地区のシングルチケットを買ってみた

世界で初めてMaaS社会を実現した最先端シティ、フィンランド・ヘルシンキ。その先進的な実例から日本でのMaaS展開の未来を考える連載第2回では、MaaSを代表するスマートフォンアプリ「Whim(ウィム)」をヘルシンキで実際に使ってみた様子を紹介しよう。

冬のフィンランドは夜がとても長く、昼でも太陽は低い位置にある
冬のフィンランドは夜がとても長く、昼でも太陽は低い位置にある

2017年11月にフィンランドの首都ヘルシンキでサービスを開始したMaaSアプリの「Whim」。提供しているのは、ヘルシンキに本社を置くスタートアップ企業のMaaS Global社だ。

ヘルシンキ市民の多くが活用しているWhim
ヘルシンキ市民の多くが活用しているWhim

MaaS Global社は、MaaSの概念を生み出したSampo Hietanen(サンポ・ヒエタネン)氏が2015年に創業。翌2016年の1月には早くも出資する企業が現われ、同10月に最初のサービスの提供を始めた。現在では、ヘルシンキを始めイギリス・バーミンガム、ベルギー・アントワープ、オーストリア・ウィーンでサービスを展開している。

ロケ当時、ヘルシンキ大聖堂前の広場ではクリスマスマーケットの準備が進められていた
ロケ当時、ヘルシンキ大聖堂前の広場ではクリスマスマーケットの準備が進められていた

これら4都市では公共交通機関、タクシー、ライドシェア、シェアサイクルなどの移動手段に対して、出発地から目的地まで何を使ってどのルートで移動するかという「検索」、そのルート上で利用する座席や乗り物を確保するための「予約」、運賃や利用料をキャッシュレスで支払う「決済」のすべてがアプリ上で完結する。
そのほかの都市でも一部のサービスを提供しており、シンガポール、ロンドン、ミュンヘンがテストローンチ中だ。

SIXT、トヨタレンタカー、Hertzなどのレンタカーやタクシー、HSL(ヘルシンキ交通局)などが利用可能
SIXT、トヨタレンタカー、Hertzなどのレンタカーやタクシー、HSL(ヘルシンキ交通局)などが利用可能

一方、日本国内では、柏の葉(千葉県柏市)で2019年12月からWhimを使ったMaaSの実証実験が始まり、2020年中の本格的な導入を目指している。
この実証実験にはトヨタファイナンシャルサービス、デンソー、あいおいニッセイ同和損保、三菱商事、三井不動産が出資しており、MaaSは移動をスムーズにする手段としてだけでなく、街作りという視点でも、さまざまな業種から注目を浴びていることが分かる。

「柏の葉スマートシティ」ホームページhttps://www.kashiwanoha-smartcity.com/
「柏の葉スマートシティ」ホームページ https://www.kashiwanoha-smartcity.com/

Whimは月額での固定料金が特徴

料金形態もWhimの特徴の1つだ。ヘルシンキの住民以外も利用できるよう都度払いも用意しているが、基本は3段階の定額プランを採用している。どれを選んでも、電車、トラム、地下鉄、バス、フェリーなどHSL(ヘルシンキ市交通局)が提供する公共交通機関は乗り放題。

[Whim Urban 30]:月額59.7ユーロ
・HSLの公共交通機関が乗り放題
・タクシーが5kmまで毎回10ユーロ
・レンタカー1日分が毎回49ユーロ
・シェアサイクルが30分まで無料

[Whim Weekend]:月額249ユーロ
・HSLの公共交通機関が乗り放題
・タクシーが15%オフ
・レンタカーの週末利用が無料
・シェアサイクルが30分まで無料

[Whim Unlimited]:月額499ユーロ
・HSLの公共交通機関が乗り放題
・タクシーが5kmまで無料(月80回分)
・レンタカーが常に無料
・シェアサイクルが30分まで無料

※レンタカーはグレードによって追加料金がかかる場合がある

Whimの定額プランの案内ページ
Whimの定額プランの案内ページ

この3段階の定額制に、都度払いの「Whim to Go」を加えたのがヘルシンキにおけるWhimの料金制度だ。
一番安い「Whim Urban 30」は月額59.7ユーロなので日本円だと7200円くらい(1ユーロ=約120円換算)、全部入りの「Whim Unlimited」は月額499ユーロなので6万円くらいと、サービス内容に応じて料金もしっかり差が付けてある。
公共交通機関が乗り放題という基本サービスは共通しているので、あとはどのくらいアクティブに移動するか、単身者なのか家族がいるのかといったライフスタイルで選ぶことになりそうだ。

ヘルシンキでWhimを使ってみた

ここからは、実際にヘルシンキでWhimを使ってみたときの様子を紹介しよう。Whim Urban 30以上の定額プランは居住者向けなので、今回体験したのは都度払いのWhim to Goだ。

Whimの登録はシンプルで、アプリをダウンロードして携帯番号や個人情報を入力するだけ。提供都市を選べばサービスが受けられる
Whimの登録はシンプルで、アプリをダウンロードして携帯番号や個人情報を入力するだけ。提供都市を選べばサービスが受けられる

Whimを使い始めるのは簡単で、アプリをインストールして起動したら、まずは自分の携帯電話番号を入力する。するとその番号宛てにアクセスコードを記載したメッセージが届くので、アプリ上に登録。あとは、利用する都市(今回はヘルシンキ)や個人情報、クレジットカード情報などを埋めればよい。
スマートフォンが現地で通信できる状態になっている必要はあるが、項目自体に難しいところはなかった。完了までは数分といったところだ。

ところで、Whimで利用する場合に限った話ではないが、電車やトラム、バスなどHSLの公共交通機関は、利用する日数と地域(範囲)で料金が決まっている。
例えば、ヘルシンキ市内~隣接市(エスポー市)のシングルチケットなら2.8ユーロ。シングルチケットは利用する地域によって80~110分間の有効時間があり、その間は乗り降り自由だ。

トラムは路線により5分から15分間隔で運行。ヘルシンキの主要なスポットを巡ることができるので便利だ
トラムは路線により5分から15分間隔で運行。ヘルシンキの主要なスポットを巡ることができるので便利だ

Whimでチケットを購入すると、決済した瞬間からアプリ上でカウントダウンが始まるので残り時間が分かりやすい。公共交通機関を使っているときはアプリ上でHSLのマークが回転したり、時間帯で背景色が変化したりと、利用状況が把握しやすいのが好印象だった。

紫と赤のエリアの色が変わったり、白線のロゴがくるくる回っていて、利用可能時間内なのか分かりやすい
紫と赤のエリアの色が変わったり、白線のロゴがくるくる回っていて、利用可能時間内なのか分かりやすい
国際列車の始発駅にもなっているヘルシンキ中央駅。電車の駅に「改札」は無く、チケット提示を求められた時のみ提示する信用乗車システム
国際列車の始発駅にもなっているヘルシンキ中央駅。電車の駅に「改札」は無く、チケット提示を求められた時のみ提示する信用乗車システム
VR(フィンランド鉄道)のホーム入り口
VR(フィンランド鉄道)のホーム入り口

HSLが提供するアプリでも公共交通機関の予約や決済は可能だが、Whimでは利用可能なタクシーやレンタカーを地図上で探して予約できる。今回は都度払いのWhim to Goだったので料金的なメリットを受けられなかったが、さまざまな移動手段を1つのアプリで見つけ出せるのは便利だ。

ちなみに月あたりの料金で比較すると、HSLの1か月定期が53ユーロで、Whim Urban 30は59.7ユーロ。差額は6.7ユーロ(約800円)なので、1か月の定期代+800円でシェアサイクル30分無料などのサービスを受けられると考えると、十分魅力的な価格設定だと言える。

ヘルシンキ市内でのプランは4種類。旅行者は都度払いのWhim to Goを選択する
ヘルシンキ市内でのプランは4種類。旅行者は都度払いのWhim to Goを選択する

MaaS Global社によると、ヘルシンキ市内のWhim登録者数は20万人だという。そのなかで10%ほどの人がWhim to Goを利用していて、10%がWhim Urban 30を使っている。
Whim WeekendやWhim Unlimitedのアクティブユーザーは数パーセントほどとのことで、今後はプラン変更や積極的なキャンペーンなどでユーザーを増やしていく方針を採るという。
例えば、サービスを提供する側のトヨタレンタカーが顧客に無料でWhimを体験してもらい、ユーザーを獲得するなどの施策を講じている。
定額プランは法人への提案も行なっているそうで、従業員の福利厚生や出社・帰宅時の移動方法の自由化だけでなく、マイカー通勤からそのほかの手段への切り替えによって、駐車場が少なくて済むようになり、スペースの有効活用などにもつながっているという。

HSLが運行する観光名所「スオメリンナ島」へのフェリーもアプリで乗船が可能
HSLが運行する観光名所「スオメリンナ島」へのフェリーもアプリで乗船が可能

今回は短期滞在で、Whim本来のメリットに触れる機会は限られたものの、移動費を月額にするという考え方は非常に興味深かった。
ヘルシンキはコンパクトな都市で公共交通機関が張り巡らされており、電車やバスで目的地へ辿り着くのはたやすい。一方、市内で駐車場を探すのは困難で、料金が高い。
日本の都心も似たような状況にあり、MaaSアプリを使って公共交通機関とタクシー、レンタカー、シェアサイクルなどを自在に組み合わせられるようになれば、移動時間の短縮やシンプルな料金体系の実現も期待できそうだ。
次回は、Whim開発元のMaaS Global社へのインタビューをお届けする。

[ガズー編集部]