いつもそばにある「愛タク」へ! MaaSの街・富岡、導入1年で見えてきた未来って?榎本市長に聞いてみた

  • 運行スタートから約1年を迎えた群馬県富岡市のデマンド型乗合タクシー「愛タク」

「愛タク」ってみなさんご存じですか? 「愛タク」とは、2021年1月4日から運行がスタートした群馬県富岡市全域が対象のデマンド型の乗合タクシーのこと。公共交通機関の利用しにくい地方でクルマを持たない人を移動の面でサポートする事業です。

例えば、「ちょっとそこまで行きたい。でも車も交通手段もない」なんて時にサクッとアプリで配車予約、市内在住者はもちろん、市外に住む人もリーズナブルに利用できるのが都市型モビリティ「愛タク」のいいところ。

スタートから丸1年が経ち、同事業について実施エリアの中心である富岡市の榎本義法市長とシステムを提供する、MONET Technologies 代表取締役副社長兼COO 柴尾嘉秀氏に、1年でわかったこと、そして見えてきた未来ついて話を聞きました。より快適にユーザーに利用してもらうための工夫とは一体何なのでしょうか。

「地方のモビリティとしてスタートは成功」と富岡市 榎本市長

富岡市 榎本義法市長(左)とMONET Technologies 代表取締役副社長兼COO 柴尾嘉秀氏(右)

「愛タク」事業に関してスタートから約1年の手応えを、榎本市長は「高齢者を中心に市民にとても好評。地方のモビリティとしてスタートは成功したかと。市内の動きが活性化しているのを日々感じています」と開口一番に話してくれました。MONET Technologiesの柴尾氏も「認知度も日々上がっていると肌で実感。全6台での稼働ながら、街中で常に目にするほどのフル稼働中。市民の皆さんが目にすることはとても大事で、利用を促し、評判にもつながります」と期待以上に市民生活に定着しつつあるようです。

富岡市内を走るデマンド型乗合タクシー「愛タク」

そもそも、冒頭でも紹介した通り「愛タク」は、群馬県富岡市全域を対象にしたデマンド型の乗合タクシー。富岡市は世界文化遺産「富岡製糸場」を有する観光地ですが、実は駅前や中心地以外は豊かな自然ゆえにマイカーがないと移動に不便な環境。そんななか、スムーズな外出をサポートするために生まれた「愛タク」は、乗合バスのように決められた路線を時刻通りに運行するのではなく、利用者の需要に合わせ配車&指定停留所間を走るデマンド型乗合タクシーに。外出時の「行きたいけど行けない……」の悩みを解消してくれる地方都市モビリティとして日々進化中なんです。

スマホアプリの画面。市内全域に停留所がある

配車予約はスマートフォンアプリまたは電話での直接受付。市として利用を推進したいスマホアプリの使用率は、スタート当初は約29%、2021年10月の時点で約36~37%とまだまだ増加の余地はありそう。榎本市長は、「伸び率の背景には、週末のお出かけ需要向けの配車、若い世代の利用が牽引したことがあります。今後は利用に応じて市内の店舗や乗車で使えるポイントを付与する施策ができたら」と展開も示唆してくれました。

「ワンコイン(100円/500円)で利用がしやすい価格。PayPay払いもできる

価格は利用しやすい“ワンコイン(100円/500円)”。こちらも全体的な利用促進につながったと分析。料金体系については「移動による中心地や施設の活性化とともに市民の健康にも一役。使いやすいワンコインに。スタートしてすぐの増車も、手頃な価格が利用を後押ししたと考えています」(榎本市長)とのこと。富岡市民と障がい者、市内に通勤通学する人は100円、未就学児は無料です。市外から訪れた人は500円で利用が可能。お財布に負担を掛けずに手軽に利用ができる運賃体系は、市の予算補助で実現しています。

「愛タク」の車内。乗合いを基本に運行中

なお、利用できる乗合タクシーは、最大7名乗りのミニバンタイプ。福祉車両も導入済み。福祉車両の稼働数はまだまだですが「共生社会や未来に対し、いつでも利用できるよう体制を整えておくことが重要」(榎本市長)と先を見据えた準備も万全です。

アプリ&電話予約、応答速度改善や車両指定も視野にアップデート中

「市内に400を超える停留所が設置されている

乗車と下車ができる「愛タク」停留所は、現時点(2022年2月)で431カ所。病院やスーパーマーケットなど利用頻度の高い施設にも停車するのも特徴のひとつ。停留所がスタート当初の301カ所から約半年後の10月には425カ所へと大幅に増加しましたが、停留所を増やすにあたっては、「地元の声を反映した場所に設置しています」(榎本市長)といいます。実際に、しっかりと声を聞いたことでスーパーなどでは来店頻度の増加や、移動手段確保により購入金額の増加などもあったそう。

停留所間は、MONET Technologiesが提供するICTを活用した配車システムを活用し、最適な乗合状況やルートで運行します。利用者側として、気になるのがやはり予約のしやすさと相乗りだからこそのルート問題。配車側のシステムを担当するMONET Technologiesの柴尾氏によると、高齢者メインの電話予約はオペレーターを増員し、2回線での対応と着実に運営側もアップデート中と話します。

また、混雑時の乗合いでのルートの幅に関しては、「ソフトのチューニングで極力少なくしていきます」と現状の課題に関しても言及してくれました。さらに「配車の要となる専用スマホアプリ『MONETオンデマンド予約』側では応答速度の改善を軸に、予約不可の場合の別時間の予約をおすすめする“レコメンド機能”や、“車椅子対応車両指定”機能の実装を予定」と着実に使い勝手が上がっていくようです。

広域MaaSのような移動を実現するのが目標

「『愛タク』で“住み慣れたふるさと”をもっと好きになってもらえたら」と榎本市長

車両もフル稼働中、さらに市民からの評判も上々の「愛タク」。今後の展開は?との問いに市長は「市の未来像として、上信電鉄も横断的に活用し、より広域のMaaS(Mobility as a Service)のような移動を可能にするのが目標。同様に周辺自治体との連携もしていきたいですね」と話します。ネットワークがより広がることでユーザー側の利便性が大幅に上がるので、今後の動きに要注目ですね。

続けて「市内のどこに住んでも安心して暮らせ、移動が容易な町を作っていきたい。そしてワンコインで市内隅々まで移動可能な「愛タク」で“住み慣れたふるさと”をもっと好きになってもらえたら。手軽に使える生活に密着したモビリティとしてスタートも上々、市の予算を投じる事業ですので、さらに満足度を上げながら継続&支援、運営をしていきたいです」と意気込みます。

「富岡市は生活とMaaSがとてもいい形で進み始めているという印象」とMONET Technologies 柴尾氏

同じ質問をMONET Technologiesの柴尾氏にしてみると、「市内全域をデマンドで運行する地域は、MONET Technologiesとして扱っているのはまだ3カ所。全国からの注目度も高く、弊社は医療MaaSなど移動するサービスも扱っていますので、さらに多層化された利便性の高いMaaSへと発展していく可能性があります」と語ってくれました。

同氏は街に実際に出て利用者にヒアリングをしており「手応えとして、市全体で受け入れ、生活に『愛タク』が浸透していると実感。生活とMaaSがかなりいい形で進み始めているという印象です。富岡市はMaaSの街。ジャンル別に蓄積したデータは、次に必要なサービスにつながる気づきを与えてくれます。もう一段取り組みを加速させるために富岡市とともに街全体をデマンド化してデータで見える化。そして生活に必要な有効なサービスにつなげていきたいです」と話してくれました。

  • 榎本市長とMONET Technologies 柴尾氏。富岡市役所前にて

他県や市外に住む側として「愛タク」の観光利用も気になります。市には利用者からの「富岡市の魅力に気づいた」との声も届いているようで、稼働台数確保が課題としながら「“地域を知ってもらうためにも有効なシステム”と認識している」と榎本市長。とはいえ、まずは市民に対するさらなる定着と利用促進が第一課題、観光利用は次の目標となりそう。

市の計画では2024年に3万人の利用を見込んでいましたがすでに初年度で達成。稼働率も非常に高く、コロナ禍ながら営業時間中はほぼ100%配車されている状況で、高齢者から学生まで、市民生活の足として確実にこの1年で浸透した「愛タク」。地域や鉄道との連携も含め、「愛タク」を皮切りに移動がよりシームレスな体験へと進化していく予感。富岡市とその周辺エリアの動きに2022年も目が離せません!

[GAZOO編集部]

市が積極的に導入するオンデマンド型のタクシー、バス