データと数字から紐解く「愛タク」のこれから。アプリ活用でさらに便利でお得に!?

2021年1月4日から運行がスタートしたデマンド型乗合タクシー「愛タク」。群馬県富岡市全域が対象で、運賃は100円と500円の2種類。432カ所(2022年2月1日時点)に設定された停留所に停車し、誰もが市内をくまなく移動できます。予約方法は専用アプリまたは電話で。乗車時はICTを駆使したシステムを駆使し最適化されたルートを進みます。基本乗合で必ずしも最短ではないのが、タクシーとは異なるところ。運行時間も8〜17時です。

事業を取り仕切る市、運行を担う事業者に続き今回は、運用の要・システムを提供するMONET Technologies(モネ・テクノロジーズ)株式会社へ。スタートから1年が経ち多くの市民が利用するサービスに成長した今、データとして見えてきた利用者の傾向、さらに今後の展開から、群馬県沼田市での新たな事業まで最新の動きを聞きました。

「愛タク」で“ちょっと行きたい”から“あそこもついでに行こうかな”までサポート

  • MONET Technologies株式会社 事業本部 事業推進部 担当部長 山本竜也氏と事業推進部 東日本地域事業推進課 主任 渡會祥氏

サービス開始から1年が経ちMONET Technologies 事業本部 事業推進部 担当部長 山本竜也氏は「満足度は利用者全体で92%、メインの利用者である70歳以上は100%と驚異的な数字を叩き出しています」と話します。コロナ禍のまん延防止等重点措置の適用期間で利用の鈍化はありましたが、2021年末の時点で月間4000人以上、累計で約4万人もの利用と当初の目標は達成、富岡市民の足として十分に役割を果たしているのが数字から読みとれます。

  • 愛タク 停留所

    乗車利用率1位、降車利用率2位の上州富岡駅(2022年2月1日〜28日)

停留所は前述通り432ヵ所、利用頻度の高い場所も数値として出ています。2022年2月1日から28日までの直近の乗車地点ランキングでは、1位が上州富岡駅、2位が温浴施設「コミュニティセンター上高尾」、スーパーマーケット・ベイシアに西毛病院と続きます。降車地点は総合病院からはじまり上州富岡駅、前述のスーパーマーケット、温泉施設の順となっていました。
山本氏は「降車率が一番の総合病院からの乗車は実は7位。直行直帰ではなく、どこかに必ず立ち寄っており消費が生まれる傾向がある」と分析。この動きは“回遊性向上”などとも呼ばれ、街の活性化につながる、とてもよい流れです。

スーパーは乗降車がともに3位と安定。「停留所がベンチに近く、買い物後座って“愛タク”を待つことも。大荷物は載せられないが自家用車感覚で予約をし、活用するユーザーも多い」とのこと。実は定時運行でないことが、消費や“ちょっとついでにあそこも行こうかな”を叶えています。自分のペースで予約し移動できるからこそ、プラスアルファで外出が楽しめる。そこを「愛タク」が後押ししているんですね。

  • 上州富岡駅

    駅から乗り、駅で降りる。つまり横移動は鉄道、駅からの縦移動は「愛タク」利用が多いのだ

なお、上州富岡駅が乗降車で上位にあることで、“横は鉄道・縦は「愛タク」利用”とユーザー側が使い分けていることも可視化できます。鉄道利用と「愛タク」、使い方によっては互いの領域に…という懸念もありましたが、1年経ち蓋を開けてみると利用者が自分に合った公共交通を選択し、活用していることがわかりました。

2022年はプラットフォーム活用で便利&お得に。将来的には比較し選べるのが理想

2022年1月の時点で、「愛タク」に登録しているユーザーは約4400名ほど。そのうち53.4%がアプリ、46.6%が電話を利用。アプリを活用する比率が高いのが特徴です。そんななか、MONET Technologiesでは、2021年に全国共通の「MONETアプリ」(Android/iOS)をリリース。全面的な切り替えを2022年度の目標としています(※現時点での富岡市での実装は未定)。「満足度の高いサービスで定着してきた今ナゼ?」と疑問をぶつけたところ、「何をサービスで届けるべきなのかがより明確になったため」と答えが返ってきました。

富岡市で現在使っているアプリはデマンド特化型で「愛タク」予約のみに使えます。新たにリリースされたアプリは、乗車予約機能はそのままに、停留所の詳細や自治体からのお知らせの表示をはじめ、往復予約やクーポンの配布などの新機能を追加。

すでにさいたま市の美園地区や、福島県いわき市などの実証実験で使われています。サービス提供エリア一覧も表示し、利用自治体の切り替えも可能。特定地域の専用ではなく、日本各地で共通利用ができることで、利用者はよりシームレスな予約と乗車、さらにクーポン取得など利便性もアップ。自治体側も既存のプラットフォームをベースに使うため、初期費用が削減できるうえ、提供中の既存サービスから地域に合ったものを選択できスムーズな導入が見込めます。

山本部長は、少し先の話になると前置きをしながら「アプリ内にデマンドとタクシーが選べる機能を搭載するのが理想」と今後の展望も。「デマンドなら“あと何分”、タクシーならクーポンがあるので“◯◯円で行けます”と提案し、どちらにしますか?と。利用者が比較して選べる、そのようなサービスこそがMaaSだと。今後実装したいことのひとつですね」とも話してくれました。

また、同社は医療MaaSも手がけていますが、ワクチン接種を例に「打ちたい時に自分が乗り病院へ行くのか、それとも接種車(ワクチンを打つ医療従事者を乗せた車)が来るのか、それを選べるのもMaaSの未来」(山本部長)とも。タクシーや医療に限らず、行政や小売など自分のニーズに合ったMaaSが選べる時代は遠い未来ではなさそうです。

新たな問題解消のモデルケースにも!? 群馬県沼田市でAIデマンドバスが25日に運行開始

2021年から前述の新アプリも含むMaaSに必要な各種サービスをワンパッケージで提供する、事業者向けサービスを展開しているMONET Technologies。今後同アプリ対応地域がさらに増えると予想されるなか、3月25日から同じ群馬県の沼田市でデマンド型バスの実証実験に採用されます。

交通空白地域の解消と利便性向上を目指し、平日昼間はデマンド、通勤通学で混み合う朝と帰宅時間は現状維持の定時定路線運行とハイブリッド運用。同社事業本部 事業推進部 東日本地域事業推進課 主任 渡會祥氏は「民間路線、観光系、タクシー複数社と複雑に入り組む中で、しっかりとモデル化できれば多くの自治体が抱える問題解消のひとつの手立てになりうる」と期待を込めます。

沼田市を表示している「MONET アプリ」

運行開始タイミングで500ヵ所もの停留所を設置、沼田市全域を3エリアに分け運行する

停留所数もスタート開始時点で500カ所と多数。さらに利用者向けに地域の飲食店・スーパーのクーポン配布に地域通貨活用など、さらに一歩踏み込んだ実証実験となる予定。公共交通のDX(デジタルトランスフォーメーション:IT技術を導入&活用し人々の生活をよりよく変革すること)がさけばれるなか、1年後にどのような結果を導き出すのでしょうか!?

上記の問題解消だけでなく、生活スタイル変化からのデジタル化のきっかけに、市民生活のDX化も将来的に見据えた新たな沼田市での取り組み、富岡市の「愛タク」とともに要注目です!

(文/写真:村上俊一)

群馬県富岡市デマンド型乗合タクシー「愛タク」

[GAZOO編集部]

市が積極的に導入するオンデマンド型のタクシー、バス