WRCの勝ち負けってどう決まる?順位や年間ランキングの決まり方など基礎をおさらい

2018年シーズンのFIA世界ラリー選手権(WRC)は、最終戦オーストラリアを残すのみとなりました。チャンピオン争いも決着の時を迎えようとしていますが、選手権のフィナーレをさらに楽しむため、ここでいちどWRCの勝敗やポイントシステムなど、基礎知識をおさらいしてみましょう。

競技の勝敗はどう決まる? ~ WRCの競技スタイルと順位の決まり方

TOYOTA GAZOO Racingワールドラリーチームが参戦するFIA世界ラリー選手権(以下、WRC)は、その名のとおりラリー競技の世界最高峰です。WRCはひとつの大会で3〜4日間かけて競技を行い、閉鎖されたタイムアタック区間「スペシャルステージ(以下、SS)」での走行タイムを合計して勝敗を決定します。
ラリー中はSSタイムの積算が、その時点の総合順位として反映されていきます。タイムが少ない順(=速い順)という点はほかのモータースポーツと同じですが、ひとつのSSだけで最終的な順位が決まるわけではなく、総距離350㎞程度に及ぶ複数のSSを走り抜いたうえで、最も速いドライバー/コ・ドライバー(=助手席に座ってドライバーをナビゲートする役割)が、勝利の栄冠を勝ち獲ることができるのです。

世界を転戦するWRC。それぞれの国の道にタイムアタック区間(SS=スペシャルステージ)が設けられて、競技が行われる。
世界を転戦するWRC。それぞれの国の道にタイムアタック区間(SS=スペシャルステージ)が設けられて、競技が行われる。

近年のラリーではひとつの大会につき、20前後のSSが設けられていますが、同じSSを午前と午後で2度走行するパターンも多く採用されています。特に、土や砂利など舗装されていない路面(グラベル)を走るラリーの場合は、1度目の走行と、何台ものラリーカーが走行した後の2度目の走行では路面状況が大きく異なることも珍しくなく、ドライバー/コ・ドライバーにはコンディションに合わせた適応力も求められます。こうしたラリーならではの競技環境も、WRCの醍醐味のひとつと言えるでしょう。

  • 未舗装(グラベル)は雨が降ると、泥の走り難い道に。
    未舗装(グラベル)は雨が降ると、泥の走り難い道に。
  • 1台ごとに行われるタイムアタック形式の競技スタイルがWRCの特徴。
    1台ごとに行われるタイムアタック形式の競技スタイルがWRCの特徴。

2018年のWRCを見てみると、SS数が最も少ないのは第4戦ツール・ド・コルス(フランス・コルシカ島)の12SS、最も多いのは最終戦オーストラリア(東海岸・コフスハーバー周辺)で予定されている24SSとなっています。観客の集まりやすい市街地で行う1km程度の短いSSから、最長のものは55.17kmという気が遠くなりそうなSS(第4戦ツール・ド・コルス/SS11)まで、各SSの距離は非常にバラエティに富んでいます。
短いSSよりも長いSSの方がタイム差がつきやすいため、勝負どころと目される傾向にあります。タイムだけでなく、SSの距離などにも着目してみると、WRCの楽しみ方がさらに広がるでしょう。

リタイアしたのにまた走れる? ~ WRC独特のルール「ラリー2規定」

現在のWRCでは、「ラリー2」と呼ばれる規定があります。これはラリー中にリタイアしても、マシンを修復して翌日に再出走が認められるというもの。修復のための作業時間には制限があるほか、ペナルティタイムが加算されるため、上位争いを目指すには厳しい状況となりますが、チームやクルーにとっては実戦走行でしか得ることのできない有益なデータ収集ができたり、パワーステージでのボーナスポイント獲得(後述)を狙うなど大きなメリットもあるのがポイントです。
一方で、シリーズでの戦いを見据えて、エンジンなどの温存を図って無理せずリタイアを選択することもあります。なお、このラリー2規定は、最終日のSSでリタイアした場合には適用されないため、ラリーが大詰めになってからのリタイアは避けたいところです。

林道、山道、岩場、荒地、様々な道が舞台のため、想定外のトラブルでクルマが損傷してしまうことも。リタイアしても翌日走れるようにメカニックとエンジニアが力を合わせてクルマを修理する。
林道、山道、岩場、荒地、様々な道が舞台のため、想定外のトラブルでクルマが損傷してしまうことも。リタイアしても翌日走れるようにメカニックとエンジニアが力を合わせてクルマを修理する。

このラリー2規定の導入によって、WRCでは新たなドラマも生まれるようになりました。2015年第3戦のラリーメキシコで、Mスポーツが水没したラリーカーを修復し、再出走させたエピソードは、ラリーファンの間では有名な話です。この時のドライバーは、現在TOYOTA GAZOO Racingワールドラリーチームに所属するオット・タナック選手。SS走行中に池に転落してしまい、タナック選手とコ・ドライバーは無事に脱出したものの、車両は完全に水没してしまったのです。

しかし、チームは池から引き上げたラリーカーを3時間という制限時間内で見事に修復。エンジンが再始動した時には、作業を見守っていた関係者やファン、ライバルチームからも大きな拍手が沸き起こりました。その後、タナック選手は22位で完走。フィニッシュセレモニーでは、映画のタイトルになぞらえて「タイタナック」と文字をボンネットに貼ったマシンから、シュノーケルを装着したタナック選手が登場するというユーモアあふれる演出で喝采を浴びました。

チャンピオンはどう決まる? ~ 3つの選手権と、そのポイントシステム

TOYOTA GAZOO Racingワールドラリーチームが参戦するWRCには、3つの世界選手権がかけられています。「ドライバー」「コ・ドライバー」それぞれの選手権と、「自動車メーカー」が対象となるマニュファクチャラーズ選手権です。
選手権ポイントは順位によって下の表のように配点が決まっており、ドライバーズポイントとコ・ドライバーズポイントについては、WRC2やWRC3、ジュニアWRCなどの下位カテゴリーに参戦する選手も含めた出場選手全員に獲得の権利があります。また、ラリーでは大会ごとにひとつのSSが「パワーステージ」という特別な競技区間として指定され、このSSで上位タイムを記録した5名にボーナスポイントが与えられます。

一方、マニュファクチャラーズ選手権ポイントは、それぞれのラリーで事前に登録された3名のドライバーのうち、上位から2名分のポイントを合算するかたちとなります。たとえば登録された3名のドライバーが1位、4位、5位に入った場合、1位と4位の得点(25点+12点=37点)がマニュファクチャラーズポイントとして加算され、5位の選手の分は加算されないという点が特徴です。
また、「マニュファクチャラーに登録された選手の上位から2名分」が加算されるため、仮にラリー全体の総合順位が20位だったとしても、マニュファクチャラー登録選手のなかで8番手以内(4チーム×2名分)に入っていればポイントを獲得することが可能です。“完走すれば得点のチャンスが増える”という点も、ラリー2規定とあいまって選手権争いを面白くするひとつの要因と言えるでしょう。

◆選手権ポイント獲得表

1位 2位 3位 4位 5位 6位 7位 8位 9位 10位
25点 18点 15点 12点 10点 8点 6点 4点 2点 1点

◆パワーステージポイント獲得表

1位 2位 3位 4位 5位
5点 4点 3点 2点 1点

トヨタをはじめ、フォード、ヒュンダイ、シトロエンの4メーカーで争われている2018年のWRC。今シーズンのチャンピオンは誰の手に?

それぞれのラリーでポイントを獲得し、それを1シーズン(2018年は全13戦)積み重ねることで年間のチャンピオンが確定します。2018年シーズンも大詰めとなり、TOYOTA GAZOO Racingワールドラリーチームはすべての選手権でチャンピオンを獲得する可能性を残しています。なかでもマニュファクチャラーズ選手権においては第12戦スペイン終了時点でランキングの首位につけており、1999年以来となるチャンピオン獲得の大きなチャンスとなっています。最終戦オーストラリアで優勝すればチャンピオンは確定、2位を獲得すればチャンピオンとなる可能性は大きく高まります。それぞれの選手がいかに上位でフィニッシュするか、諦めずに走り続けるかがポイントとなります。

波乱の展開となった2018年シーズンも、いよいよ最終戦。ぜひTOYOTA GAZOO Racingワールドラリーチームの活躍にご注目ください。

[ガズー編集部]

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