トヨタ自動車が、世界に先駆け車両のトータルケアを実現したモビリティ・サービス・プラットフォームをグラブに提供
トヨタ自動車株式会社(以下トヨタ)のアジア販売統括会社となるトヨタ・モーター・アジア・パシフィックは、東南アジア最大の配車サービスを展開するGrab Holdings Inc.(以下グラブ)と、シンガポールにあるグラブ社のオフィスにおいて記者会見を行なった。この中で、トヨタ・モーター・アジア・パシフィックはグラブに対して、トヨタが提供するコネクテッドカーのインフラである「モビリティ・サービス・プラットフォーム」を軸にした車両管理、保険、整備等のトータルケアを、グラブがシンガポールで運行する配車サービス用車両1500台に対して提供していくことを明らかにした。また、グラブ社は配車サービス用車両におけるトヨタ車の比率を2020年までに現状の比率(非公表)から25%引き上げることも同時に明らかにした。
トヨタはMaaS(Mobility-as-a-Service)と呼ばれるITにより利便性が大幅に向上した交通システム時代に備えて各種の提携を進めており、先日日本ではソフトバンクグループと提携してMONET Technologiesという合弁会社の設立を発表したばかり。今回の発表もそうした取り組みの延長線上にあり、安全、安心、便利な交通社会を実現する未来へつながっていく可能性が高い。
東南アジアの配車サービスの大手となるグラブ、トヨタも1100億円を今年の6月に出資
グラブは2012年に設立された比較的若い会社だが、シンガポールを拠点として、タイ、マレーシア、フィリピンといったASEAN各国で配車サービスを提供しており、東南アジア最大の規模の配車サービスとされている。
- 記者会見が行なわれたグラブのシンガポールオフィス。IT企業らしい、モダンなオフィスになっていた。まもなくクリスマスということもありクリスマス仕様のロゴになっていた
配車サービスとは、ライドシェアとも呼ばれる新しい形のサービス。スマートフォンなどのIT(Information Technology、情報技術)を活用することで、配車を希望する利用者と、近くにいるドライバーをマッチングさせるサービス。従来のタクシーが駅や空港という拠点で待ったり、街を流して顧客を探したりするのに対して、配車サービス/ライドシェアでは利用者が自分のスマートフォンでリクエストを出し、それを受けて配車サービスのコンピュータが最適な空車を探して割り当てるというITを活用していることが大きな違いになる。現在欧米ではUber(ウーバー)やLyft(リフト)と言ったベンチャー企業がサービスを展開しており、大きな注目を集めている。
グラブはその東南アジア版となっており、今年の2月にはUberがシンガポールから撤退する時にそのビジネスを吸収してさらに規模が大きくなるなどしており、その将来性には大きな注目が集まっている。
- トヨタはモビリティカンパニーを目指すと、1月に米国ラスベガスで開催された世界最大の家電ショーCESの記者会見で表明している
- トヨタがグラブに投資を発表した時の写真。左からトヨタ自動車株式会社 副社長 友山茂樹氏、Grab Holdings Inc. グループCEO アンソニー・タン氏、トヨタ自動車株式会社 代表取締役社長 豊田章男氏
今年の6月13日(現地時間)にはトヨタが10億ドル(1ドル=110円換算で、1100億円)の出資を行なう事を明らかにするなど、今後の成長企業として注目を集めており、これから到来するであろうMaaS(Mobility-as-a-Services)と呼ばれるITを活用した交通サービスが当たり前となる時代に向けて熱い視線を浴びる企業の1つとなっている。
グラブとの提携はITインフラを活用したトータルケアの提供とグラブのトヨタ採用率の上昇という2つ
今回のトヨタとグラブの発表は、6月に発表されたトヨタのグラブへの10億ドル(1100億円)の出資という発表に次ぐ両社の提携になり、2つの会社の提携がより深まっていることを印象づける発表となっている。今回の発表の要点は2つある。
(1)トヨタが提供するコネクテッドカーのインフラである「モビリティ・サービス・プラットフォーム」を軸にした車両管理、保険、メンテナンス等を、グラブがシンガポールで運行する配車サービス用車両1500台に対して提供し、今後東南アジア全域に拡大する
(2)グラブのトヨタ車比率を2020年までに25%引き上げる
モビリティ・サービス・プラットフォーム(MSPF)とは、トヨタが提供する自動車向けITのインフラ。自動車のセンサーなどから収集される各種のデータを、インターネット回線を経由して収集、活用することで新しいサービスを自動車の利用者などに対して提供する基礎となっている。今回の提携ではモビリティ・サービス・プラットフォームにより収集されるデータを利用して、トヨタがグラブの運行させている配車サービスの車両に対して、車両管理、保険、メンテナンスの各種サービスをトータルサービスとして提供していくというもの。それにより、ドライバーの利便性を向上させ、より安全に車両を運行できる環境作りをしていく。
また、それと同時に2020年をメドに、グラブが運行している配車サービスの車両におけるトヨタ車の比率を25%引き上げる。ただし、現状どの程度までの比率になっているのかは非公開であるため、どの程度の数の車両が増えるかは明らかではない。
配車サービス向けのトータルケアサービス
記者会見の冒頭で挨拶したグラブ 地域執行責任者 ラッセル・コーエン氏は「今年の6月にトヨタが10億ドルの出資をしてくれることを発表した。今回の発表はそうした両社の提携がより深化していることを示すものとなる。グラブは業界最高水準の安全性を目指しており、自動車のメンテナンスやテレマティックス、保険はそれを実現するために重要になる。これを実現するため今回はシンガポールで運行する1500台にこのサービスを導入し、2020年までに弊社のサービスにおけるトヨタ車のシェアを2020年までに25%引き上げることに合意した」と述べ、グラブがトヨタのモビリティ・サービス・プラットフォームにより実現する各種のサービスが、グラブが運行する配車サービス用車両の安全性をさらに高めてくれることに期待感を表明した。
- グラブ 地域執行責任者 ラッセル・コーエン氏
次いで登壇したのはトヨタ自動車株式会社 常務役員 兼 トヨタモーターアジアパシフィック株式会社 社長 松田進氏。松田氏は「トヨタとグラブ 地域執行責任者 ラッセル・コーエン氏は皆さんのためのモビリティの実現という同じ目的を共有している。東南アジア地域でより安全な交通サービスを提供していき、継続性のある成長を目指していきたい」と述べ、グラブ 地域執行責任者 ラッセル・コーエン氏に新しいサービスの提供を行なっていくことは、より安全に使える交通サービスを実現するというトヨタの社是を実現するためと強調した。
- トヨタ自動車株式会社 常務役員 兼 トヨタモーターアジアパシフィック株式会社 社長 松田進氏
- トヨタ生産方式のノウハウをもってグラブとの提携に取り組む
- 包括的なケアサービスをグラブに対して提供する
松田氏は「今回提供するサービスの中心にあるのはトヨタにより開発された情報インフラのモビリティ・サービス・プラットフォーム。車両から送られてくる情報を共有し、そこから車両管理、事故対応、保険、メンテナンスなどの各種サービスを提供する。こうしたトータルなケアサービスを提供するのは世界初だ」と述べ、これまで他では実現したことがないような包括的なサービスになると説明した。
ITサービスを基盤として車両管理、保険、整備をトータルなサービスとして提供する
松田氏によれば、モビリティ・サービス・プラットフォームで記録されるサービスでは、車両に何らかの異常があるとそれを通知するような仕組みになっており、例えばサービス中に事故が発生した時には、その前後のドライブレコーダーの録画データ、センサーのデータなどが記録される。発表会では前車が急ブレーキで止まったときに、グラブの車両は止まったが、さらにその後ろの車が止まれなくてぶつかってきた様子がデータで示されている様子が表示された。こうした事故では、中間にいた車の責任も問われてしまうこともありうるが、こうした客観的な証拠を残しておくことができれば、事故に巻き込まれてもドライバーも安心して事故処理ができる。また、そうしたデータから、ドライバーに対してより安全な運転をするにはどうしたらよいかなどのアドバイスもできると松田氏は説明した。
- 何らかの突発事態が発生した時には赤く表示する
- 事故が発生したときにもこうしたセンサーのログやドライブレコーダーの映像を統合して保存して事故様子が把握できるようになっている
- 記録からドライバーにアドバイスを送ることもできる
保険の観点では、ドライバーの運転の記録を詳細に検討することで、ドライブスキルに応じた保険料を設定する仕組みが導入できるという。トヨタの発表によればあいおいニッセイ同和損害保険株式会社の現地子会社にデータを提供し、そのデータを基に保険料の算出を行なうという。松田氏によれば、これを活用することで、保険料を従来よりも低くできる可能性があるという。
- 保険の観点では記録から運転手のスキルに応じて保険料を変動させる仕組みを導入する
- 配車サービス/ライドシェアの車両は一般的な私有車に比べて5倍の距離を走る
さらに、走行データをもとに、車両の状況をチェックして整備の時期の提案を行なう。さらにそのデータを、トヨタのシンガポールにおける販売店(Borneo Motors)に共有することで、より効率よく整備を行なうことができ、グラブのドライバーはより安全に車両を運行することができるようになると松田氏は説明した。
- 整備データに関してもモビリティ・サービス・プラットフォームを介して販売店に直接送られる
- 整備データをモビリティ・サービス・プラットフォームで共有する
- モビリティ・サービス・プラットフォームを利用すると整備にかかる時間が70分から30分に減少する
- トヨタ、グラブ、販売店の3者が協力する
トヨタにとってのメリットはMaaSに向けた知見の蓄積と安全な交通社会の実現
- 質疑応答の様子
質疑応答で、トヨタがこうした取り組みを行なうメリットは何かと問われた松田氏は「2つある。1つはグラブの1500台を6年間で9万kmという長い期間・距離をトータルで管理することは、事故の予防にもつながる。それによりトータルで管理する知見が得ることができる。もう1つは交通事故の低減撲滅につながることだ。事故になりそうな状況を踏まえてアドバイスができるようになる。それは交通安全を実現するという会社の目標に沿っている」と述べ、今回の取り組みが、近い将来実現するMaaS社会に向けた第一歩となり、そうしたITによる新しい車両運行のインフラを実現していくために必要な知見を得るのに有益だと述べた。
- トヨタのメリットは2つ。グラブとの取り組みを通じてMaaSへの知見が貯まり、かつグラブの成長に貢献すること。もう1つは東南アジアの交通事故の低減撲滅に貢献すること
また、松田氏はこうしたグラブとの取り組みはシンガポールだけでなく、今後はマレーシア、タイ、カンボジア、ベトナム、インドネシア、フィリピンといったグラブがサービスを提供しているASEAN各国へと適用していく可能性があることに言及し、そうした国でグラブがサービスを行なう上で、より安全に運行できるように手助けできることが、トヨタの社是にもあっていると説明した。
- 今後同様の取り組みはグラブがサービスを提供している同様の国へと拡大していく
今回のトヨタとグラブの発表は、シンガポールで広く活用されている配車サービスに、ITのインフラを組み合わせることで、安心安全な自動車社会を目指す、新たな一歩と言えるだろう。グラブが運用する配車サービスで実際に運用するということの価値は非常に大きく、トヨタが目指すMaaS社会の実現に向けて前進したと言っていいのではないだろうか。
- 今回の記者会見はライブストリーミングで世界中に配信された。世界的にMaaSに注目が集まる中で、トヨタとグラブの取り組みは今後も要注目だ
[ガズー編集部]
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