【特別取材】LEXUS初の海上モビリティ「LY650」開発ストーリー

LEXUSブランド初の海上モビリティとなるLY650は、クルマだけに留まらず驚きと感動を提供するLEXUSの新たな提案として、2019年9月19日、世界に向けて初披露された。

「海のど真ん中に、自らを開放できる隠れ家のような空間を作ってみないか?」というトヨタ自動車 豊田社長の発想から始まったこのプロジェクトは、大手自動車メーカーとボートビルダーという異色の組み合わせで進められた。全くの異文化である両社だが、「今よりももっと良いものがある」というトヨタの改善精神と両社のクラフトマンシップが一丸となり、ついに完成を迎えたという。

LY650誕生の裏側に存在した物語を、開発に携わったプロジェクトメンバーに話を聞きながら紐解いてみたい。
 

米国TMNAメンバーに聞く、「LY650」最大の挑戦とは。~TPSの導入による生産性と品質の向上~

トヨタ生産方式(TPS)の導入による生産性と品質の向上をテーマに、Marquis Yachts社と仕事をしてきたTMNA(Toyota Motor North Americaの略。トヨタ自動車の北米事業体)のJeff Hubert氏は「Marquis Yachts社との信頼関係によって、彼らのボート製造に関する高い技術を習得することができた。TPSを通して、彼らと共に変革を起こせたことは、我々にとって大きな一歩になった」と語る。『LY650』の製造現場で起きた変革とは何か。彼らが挑んだことは何か。

Jeff Hubert:プロフィールTMNAメンバー。TPSの導入と製品効率の改善を担当。
Jeff Hubert
TMNAメンバー。TPSの導入と製品効率の改善を担当。

【Jeff Hubert】
今回初めて、Marquis Yachts社でボートの製造過程を学びました。
この1年、彼らと仕事をしてきましたが、私の最大の挑戦項目は、製造現場における問題点の認識とその解決です。

私が担当していた生産ラインでは、以前まで、ラインで持ち上がった問題点はライン内で解決するというのが習慣だった。そのため、当初の課題は「問題点はどこにあり、その要因はどこにあるのか」という点であった。製造ラインでは、可視化ができておらず、製造工程と手順が不明確だったため、工程の繰り返しができず、作業負荷も平準化されていない状況だったのです。そこで我々は、「TPSツールの導入」「進捗管理」「作業時間の計測」という3つの課題に取り組みました。

TPSの導入によって、我々の目標は、生産量として1日あたり2隻のボートを作り出すよう改良することであった。この目標を達成するためには、Marquis Yachts社との信頼関係を築く必要があると気付いたのです。さらには、トヨタのボート製造に関する理解、Marquis Yachts社のTPSに関する理解を深めていくことが重要であった。この経験は結果として、LEXUSのラインだけでなく、他のラインの生産性向上にも大きく役立ったのです。

「LY650」最大の挑戦とは―
プロジェクトに関わる全員が、TPSの導入を通して問題点を共有し、高い目標に向かって自らを改革していくことにあったようだ。Marquis Yachts社は、マリンビジネスの本場、米国で実績のあるボートビルダーである。高品質なボートを製造する技術を持つ彼らは、TPS についてどう感じたのか?



Marquis Yachts社とトヨタが、プロジェクトを組むことで起きた変革について教えてください。
【Jeff Hubert】
初めてMarquis Yachts社に来た時、トヨタのメンバーとMarquis Yachts社のCarverラインで作業した時間がとても印象的でした。彼らの製造工程を見る力や、製品を作り込む品質を理解する力。それは、私にとってLEXUSを知ることでもあり、Carverラインや現在のヨットラインを見ることでもあり、製品の品質を理解することでもあります。

製造現場では、「良くなっていく工程を見たい」と願う作業者たちがいます。LEXUSのヨットを造る上で、もっと品質を向上させたい。トヨタと密に仕事をしていきたい。彼らのその思いを知ることができ、とても嬉しかったことを覚えています。

TPSの導入における最大の変革は、文化の変革であると思う。トヨタとの密な作業によって、問題の特定と可視化が実現し、実際に問題を解決することできたのです。その製造工程における変化を見ていくことは、とても興奮したし、励みにもなったのは言うまでもありません。
 

―信頼関係を築く、最善の方法とは何でしょう?
【Jeff Hubert】
我々が彼らに思っていることを‶シンプルに見せること″ですね。生産ラインで求められることは、作業者と共に作業し、持ち上がった問題一つひとつに取り組み、問題を最後まで解決するということ。ここでは、作業者との信頼関係が重要であることが分かります。
早い段階から作業者に‶信頼が生産に役立つもの″であることを伝えることで、お互いの信頼関係がレベルアップしていくのです。
 

―プロジェクト後の活動への期待を教えてください。
【Jeff Hubert】
Marquis Yachts社との関係を築いて製造していくことは、将来の活動にも繋がってきます。
65フィートのヨットで既にやってきたことや、彼らに託したこと。さらに、改良が必要なことなど。ここで起こった変革活動は、製造工程だけに留まらない。エンジニアリングや型製作の現場でもその変化を見ることができ、生産ラインを超えて他部門にまで広がっていったのです。彼らの考え方が、TPSの考え方にシフトしていくのは、とても刺激的なことでした。

 

Marquis Yachts社のメンバーに聞く、TPSの導入で巻き起こった変革とは何か。~相互信頼が生み出す価値~

「どんな新規プロジェクトでも、スタート時には障害やつまずきが付きものである」と、現場監督であるEric Rice氏はいう。彼らはその壁をどのように乗り越えてきたのか。
困難を乗り越えた先の学びとは何か。設計とエンジニアリング、製造現場のメンバーに聞く。

Eric Rice:プロフィールマーキー社に25年勤務。職人であり現場監督。床に建てつけるキャビネットから始まり、ボート造りから木を扱う仕事へ。その後、電気系統や配管工事にも携わる。
Eric Rice
Marquis Yachts社に25年勤務。職人であり現場監督。

―現場監督として、プロジェクトをどのように思いますか?
【Eric Rice】
どんな新規プロジェクトでも、スタート時には障害やつまずきが付きものです。
しかし、JeffとOMDDとの共同作業のおかげで、会社として事態の維持や把握、良い管理ができるようになったと思う。我々だけで苦闘したり問題解決したりするのではなく、お互いに連絡を取り合って対処することが大切ですね。

―プロジェクトを進めていく上で、困難なことはありましたか?
【Eric Rice】
困難は必ずあると思います。普段の生活の中にも困難なことはありますから。
必要なことは、困難を見極めて対処計画を立て克服すること。何か障害が立ちはだかっても、チームの皆が一丸となって問題を解決し、前に進んでいく。それがこのプロジェクトで、常に我々が行っていることです。乗り越えるべく大きな障害も、Jeffと彼のチームがトヨタを通して支援してくれました。

Josh Doffer:プロフィール設計とエンジニアリングのプロジェクト監督であり、マーキー社の副社長。マーキー社に勤めて15年。新製品の開発、変更オーダーの処理、モデルチェンジなどエンジニアリング関連のことをチームで担当している。
Josh Doffer
設計とエンジニアリングのプロジェクト監督であり、Marquis Yachts社の副社長。

―LY650を設計するにあたって、困難なことはありましたか?
【Josh Doffer】
Marquis Yachts社、トヨタ自動車、イタリアの設計会社であるNuvolari Lenard社、3社の共同作業の為、コミュニケーションと文化の違いという課題を克服せねばなりませんでした。最善のヨット設計を目指し、3社共にあらゆる努力で克服できたと思います。

LY650の部品は非常に難しく、やりがいのあるものでした。150を超える部品を型に組み入れて造らなければならず、このサイズのヨットの平均数をはるかに超えるものでした。チームとして、これらの部品をLEXUSの要望に見合う形状にするために、新しい製造方法を一生懸命模索しました。

―TPSを経験したことで、学んだことはありますか?
【Josh Doffer】
TPSは、当社に多大な利益をもたらしています。おかげさまで、当社を様々な方向へ導く扉を開いてくれました。将来の成功をもたらすところへ、我々を導いてくれたのです。良い意味で、本当に大きな影響を与えてくれました。

Josh Doffer:プロフィール設計とエンジニアリングのプロジェクト監督であり、マーキー社の副社長。マーキー社に勤めて15年。新製品の開発、変更オーダーの処理、モデルチェンジなどエンジニアリング関連のことをチームで担当している。
Josh Doffer
設計とエンジニアリングのプロジェクト監督であり、Marquis Yachts社の副社長。

今回のプロジェクトに参加したMarquis Yachts社は、マリンビジネスの本場、米国で実績のあるボートビルダーである。彼らはLEXUSの新たな挑戦であるLY650の開発に当たって、さまざまな課題に直面することになった。しかし、プロジェクトチームは、ボートの製造現場に「自動車製造の現場で生まれた、TPSを導入する」という新たな手法で課題を乗り越え、厳格なLEXUSの品質を達成することができたのです。業種を超えて品質を支えたトヨタのモノづくり。その歴史に新たなストーリーが生まれた。

このプロジェクトで生まれた、信頼と実績。そして、品質を造り込むための優秀なリーダーたち。
彼らの新たな挑戦が今から楽しみだ。


 

[ガズー編集部]