東日本大震災から13年を迎えた『東松島市の今』。新たな魅力の創出や愛車を災害から守るための取り組みも
今回、全国で開催中のGAZOO愛車広場 出張取材会を宮城県で開催するにあたり、Gazoo muraとして縁のあった東松島市での開催を決め、この機会に現在の東松島市の状況、そして今後についても取材させていただいた。
おなじく復興政策課に勤めている菊地さん(写真左)は当時まだ小学生で、学校の先生が妹さんとともに自宅まで送り届けてくれたものの、家の中はグチャグチャで入ることはできず、近所の方のクルマの中で一晩を過ごしたとのこと。仕事に出かけていたお母さんが帰宅できたのは翌日の朝で、沿岸部で被災したお父さんはクルマで1時間ほどの距離を徒歩で3日かけて自宅まで戻ってきたのだという。
東松島市の浸水域は市街地の65%、家屋被害は1万1000棟以上にも及んだという。被災直後の混乱たるや想像を絶するものだったに違いない
復興再建と被災経験を活かしたアップデート
「我慢していただかなければいけないことや決めなければいけないことも多い中で、東松島市は何事にも具体的な期限を設けて『いつまでにこれをこうします』とみなさんにお伝えしながら進めるということを徹底して実施してきました」と宮崎さん。
渡部さんも「私が入庁した2012年は、ちょうどお米の生産を復活させる取り組みを始めた時期で、農家のみなさんの生活基盤の立て直しなども含めて数年にわたって一緒に取り組みました」と当時を振り返ってくれた。
名産品だった海苔の生産などを元通りにしていこうと必死に取り組む方々の姿を目にして、改めて「東松島にはこんな魅力があったんだ」と、再発見するキッカケにもなったという。
渡部さんと菊地さんも「自分的にはやっぱりブルーインパルスだな。あの飛行音が帰ってきた時『やっぱり東松島はこうじゃなくちゃ』って改めて思いました」「私は奥松島にある月浜海水浴場が2013年に復活した時に、すごくうれしくて、改めて『こんな綺麗な場所だったんだなぁ』って感動したのを覚えています」と、それぞれの思い出を振り返ってくれた。
2022年には脱炭素先行地域としての認定を受け、再生可能エネルギーに関する取り組みや公用車をEVにシフトするなどの取り組みも行なっている東松島市。目線と同じ高さに防潮堤が整備された野蒜海岸は、格好のドライブスポットとなっているそうで、愛車で訪れて記念写真を撮るドライバーやライダーも多いという
「防潮堤を整備したり、湾岸エリアから高台に向かう道路を拡幅したり増やしたりとさまざまな対策を実施しました。また、クルマが必需品といえる土地柄でもあることから、避難の手段としてクルマを使うことを考慮した避難訓練なども行うようになりましたね。大震災の時にガソリンの入手が困難になった経験などもふまえて、電気自動車やハイブリッドカーへの関心も高まった気がします」と宮崎さん。
公用車にハイブリッド車やEV車を導入し、EVカーポートソーラーによる充電設備を設けるなど、もしもの時に備えて装備や考え方は常にアップデートし続けているという。
また、現在は『心の復興』をキーワードに、心の傷をケアする取り組みとしてイベントや植栽事業などさまざまな復興政策に力を入れているそうだ。
生活に欠かせない愛車を守るための避難方法も模索
結婚を機に仙台市から東松島市に移り住んだという山縣さん。避難先だった塩竈市から再興された東松島市に戻ってきた際に「キレイになった場所ですべて忘れて何事もなく新しい生活を始めるのは、何か違うなって思ったんです」と感じたという。
そこから震災時の反省や教訓について考えるようになり、一念発起して防災士の資格を取得。現在は防災意識を高めるための普及活動や、イベントでの講演などにも参加しているという。
救急用具やライトなどのほか、避難生活の際に色々役立ったという買い物カゴや「これがあるだけでいざという時に違うんです」というウチワなど、実体験をもとにした備えはとても参考になる内容だった
バッグの中には折りたたみ型のコップやビニール袋、クルマには水やカゴ、うちわなどとともに「どこでも歌えるように楽器も持ち歩いています。歌って気持ちを明るくすることができるし、地面に敷くマットはいざという時に寝床にもなりますしね」とのこと。ちなみに愛車は買い替えたばかりだというホンダの新型フリードで、もしもの時に電源としても使えるハイブリッド車を選んだそうだ。
高台の野蒜ケ丘に移された野蒜駅には、沿岸部側から徒歩で上がれる連絡通路がある。これは山を削って団地を造成する際に削った土を運んだベルトコンベアのトンネルを活用したものだ。その横には広い駐車場も設けられている。ここまでクルマを避難させてから徒歩でさらに高台に上がれるルートがあることは、大事なクルマを守りつつ、直接高台へと逃げる道路の渋滞も緩和することができるという
「津波避難は高台に逃げるための道路も限られ、車ごと流された方も多く危険なため、津波の避難には、渋滞しないようにできるだけクルマを使わずに逃げるというのが基本的な教えでした。でも、実際に被災してみると、クルマを流されて失ってしまっても車両保険による保証などはなくて、多くの人が途方に暮れてしまったんです」
そこで、最近ではクルマを使って避難する経路をあらかじめ決めるとともに、高台までクルマを避難させてから徒歩で逃げる避難行動や、湾岸エリアからの避難経路となる道路の整備など、官民一体となって取り組んでいるという。
また、お年寄りなど避難が困難な方が優先的にクルマで避難できるように、健康な方は徒歩で避難するという“共助”の考え方のいっぽうで、そういった場合に被害を受けたクルマに対する補償や補助の仕組みについても社会的な課題として捉える必要性を山縣さんは自身の体験からも感じている。
お話を伺った場所は、東日本大震災の教訓を広く後世に伝承する施設として、津波の被害を受けた旧野蒜駅を整備した『東松島市震災復興伝承館』。施設内には震災当時の様子や復興に関する取り組みについての展示があり、ホームやレールは被災当時のままの姿で残されており、慰霊碑が建てられている復興祈念公園内に併設されている
ドライブやご当地グルメを楽しめる施設も続々!
お話を聞かせてくれたのは東松島観光物産公社の後藤主任。商工観光課の渡部さんたちと協力しながら、物産店や奥松島遊覧船の運行などに携わっているという。
東松島市宮戸地区復興再生多目的施設『あおみな』。大人3名以上が集まると運航する奥松島遊覧船のほか、毎週日曜日には松島との往復便の運航もはじめたという
建物や道路といったハード面での復旧・復興が一区切りを迎え、次は『心の復興』というソフト面の取り組みを継続している東松島市。
渡部さんによると、特産品である海苔の養殖をはじめ、お米や日本酒の生産も震災前の状態に戻りつつあり、東松島市を訪れる観光客も増え続けているとのこと。
三陸自動車道の矢本パーキングエリアのそばには2024年11月に東松島市初となる道の駅が開業する予定となっていて、クルマで訪れる楽しみはますます増えそうだ。
ぜひ、みなさんも宮城県、そして東松島市に愛車でドライブにでかけて、地元グルメや絶景を楽しんでみてはいかがだろう。
許可を得て取材を行っています
取材協力:東松島市役所
取材場所: 奥松島イートプラザ(宮城県東松島市野蒜ケ丘1-15-1)
東松島市震災復興伝承館(宮城県東松島市野蒜字北余景56-36)
東松島市宮戸地区復興再生多目的施設『あおみな』(宮城県東松島市宮戸川原5-1)
[GAZOO編集部]
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