【池原照雄の単眼複眼】トヨタ、ロボット群で少子高齢化と闘う…リハビリ支援タイプを完成

トヨタ 歩行リハビリ支援ロボット「ウェルウォーク WW-1000」
◆「パートナーロボット」として初の市販へ

トヨタ自動車は10年がかりで開発を進めてきた下肢麻痺の人の歩行リハビリテーションを支援するロボット「ウェルウォーク WW-1000」を、2017年9月から国内で医療機関などにレンタルする。

今世紀から新技術領域として開発を加速してきた「パートナーロボット」で、初めての市販製品となる。ビジネスとしての成立にはなお時間を要すが、それよりも、少子高齢化時代の現役世代負担を、順次実用化するロボット群で軽減したいという遠大な挑戦の始まりとして注目したい。

トヨタのロボットは、「人との共生」を目指して人を支援するというコンセプトからパートナーロボットと呼んでいる。1980年代からの産業用ロボットの知見などを基に、2000年から要素技術研究に着手。05年の愛知万博(愛・地球博)では自社パビリオンに楽器を演奏する2足歩行タイプなどを出展し、ロボットへの取り組みを広くアピールした。

07年には開発ビジョンを定め、「近距離のパーソナル移動支援」、「家庭内での家事支援」、「医療介護支援」、「製造・モノづくり支援」―という4領域に重点を置く方針を表明した。同時に移動支援や医療介護支援ロボットなどの開発を始め、08年にはパーソナルな移動支援ロボットとして立位で走行する「ウィングレット」を実用化した。

今回発表した歩行リハビリロボットは07年末から藤田保健衛生大学(愛知県豊明市)と共同開発に着手していた。11年に技術発表を行って医療現場での実証実験に入り、さらに14年からは医療機関での臨床的な研究活用に供してきた。現在は全国23の医療機関が導入、累計で300人超の脳卒中などによる下肢麻痺の患者のリハビリに使われてきた。ロボットは歩行ベルトやモニターといった本体や、膝部にモーターを配置したロボット脚などで構成し、モーターやセンサー、制御ソフトにトヨタの技術ノウハウを生かしている。

◆現役世代への負担を増やさない社会への長期視点

公開された「ウェルウォーク WW-1000」はリハビリの段階に応じた使い方や、音や画像などによる患者へのガイダンス機能など、11年に技術発表されたものとは格段に進化していた。藤田保健衛生大の才藤栄一教授は、このロボットを使った場合のリハビリは、通常の1.6倍のスピードでできるようになったと評価する。トヨタのパートナーロボット部によると、レンタルは月額35万円で、別途初期費用として100万円(いずれも税別)がかかる。当面は国内向けに3年間で100台規模の販売を計画している。

トヨタは16年4月に、将来の技術とビジネスを長期視点と社会視点の両面から創造していくための組織、「未来創生センター」を新設した。パートナーロボットはまさに、そうした将来技術だ。同センターを担当する磯部利行常務役員は、少子高齢化という日本の差し迫った課題を念頭に「2050年に高齢者を支える現役世代の比率は、2000年比で3分の1に減少する。パートナーロボットによって現役世代の負担が増えない社会をつくっていきたい」と、同社のロボット群に託す思いを語る。

ロボットの支援によって人の介護が必要になる高齢者を減少させる一方、介護やリハビリが必要な人には、その労力をロボットに置き換えるという両面からのアプローチを描いている。この実現には多種多様なロボットが必要であり、トヨタは今回の歩行リハビリ支援以外でも多面的な開発を進めている。

◆米AI開発子会社の成果も順次注入

ひとつは、12年に開発に着手し、16年度からは全国の大学と共同開発を進めている生活支援ロボットの「HSR」(ヒューマン・サポート・ロボット)。住居内を移動してモノを持ってくるなど手足の不自由な人を手助けする。また、自立サポートの機能として、遠隔地の家族とのコミュニケーションもできるようにしている。

介護の労力を軽減するものでは11年に技術発表し、高齢者施設などで実証実験を重ねている「移乗ケアロボット」がある。ベッドから車いすへなどの被介護者の移動を行う力持ちロボットだ。さらに精神面でのケアのために、ぬいぐるみの外見をした「対話ロボット」も試作し、同様に実証を進めている。これらのロボットには、米国シリコンバレーに拠点を置くTRI(トヨタ・リサーチ・インスティテュート)が開発を進めるAI(人工知能)技術も順次注入される。

磯部常務は「今は事業ありきではないが、社会ニーズのなかで、必ずこれらが事業に結びついていくと信じて取り組む」と話す。しばらくはビジネスとしての目算は立たなくても、歩を止めないという覚悟だ。トヨタは80年前の1937年に「国産大衆乗用車」の普及と事業化という遠大かつ高リスクの伴う目標に向かって設立された。ロボットは、当時の自動車事業進出に比べればリスクははるかに小さいが、豊田綱領に謳われる「産業報国」という理念では、まったく軌を一にしている。

(レスポンス 池原照雄)

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