なぜマツダの新世代エンジン「SKYACTIV-X」が世界から注目されるのか…ドイツ試乗レポート
◆世界初の技術に世界のメディアが大注目
マツダは9月上旬、ドイツのフランクフルト郊外にあるマツダ・モーター・ヨーロッパ(MME)の研究開発拠点で、グローバル次世代技術フォーラムを実施した。
これは、8月8日に都内で開催した、マツダ技術開発長期ビジョン説明会を受けて、世界各国のメディアに対して同社の次世代技術を実体験してもらう場である。
目玉となったのは、やはり「SKYACTIV-X」だ。
フォーラムの具体的な内容は、最初にマツダの技術系担当役員4名による合計1時間15分間のプレゼンテーション。次に、直列4気筒・排気量2.0リットルのSKYACTIV-Xを搭載した、第二世代のSKYACTIV ボディ&シャーシの実験車両で一般道路と速度無制限のアウトバーンを走行した。
実験車両は現行のCセグメントセダンの『アクセラ』に仮装され、マニュアルミッション車とオートマチックミッション車ぞれぞれを1時間づつ運転した。
試乗後は、エンジンと車体について30分間づつ、担当役員と1対1での意見交換を行った。
◆SKYACTIV-Xに世界の注目が集まる理由
試乗の感想を紹介する前に、どうしてSKYACTIV-Xが世界中から大きな注目を集めているかを説明したい。
SKYACTIV-Xの最大の特徴は、マツダがSPCCI(スパーク・コントロールド・コンプレッション・イグニッション:火花点火制御圧縮着火)と呼ぶ燃焼方式だ。
圧縮着火は、一般的にはディーゼルエンジンで採用されている方式。シリンダー気筒内の圧縮比を高めることでシリンダー気筒内の空気が高温となり、そこにディーゼル燃料を噴射することで一気に燃焼して大きなトルクを生む。この原理をガソリンで行う場合、シリンダー気筒内の空気と混ざるガソリンの量を少なくし、混合気を極めて薄くして燃焼させる必要がある。これを、一般的にリーンバーンと呼ぶ。リーンバーンによって、シリンダー気筒内の燃焼温度は下がることで、低燃費かつ高性能というエンジン開発のキモとなる各種の要因が相乗効果によって良い方向へと向かう。
こうしたガソリンエンジンによるリーンバーンをエンジンの低回転域から高回転域まで確実を行うためには、シリンダー気筒内の燃焼状況を確実に制御しなければならない。この制御とは具体的に、一般的なガソリンエンジンのように点火プラグを用いて、最適な圧縮点火を実現するものだ。
つまり、SKYACTIV-Xは、ディーゼルエンジンとガソリンエンジンの理論が融合した、究極の内燃機関だといえる。
また、補機類としては、リーンバーンを最適化するために高圧の空気を送る、高対応エアサプライを用いた。駆動力をエンジンのクランクシャフトから取っているため、技術的にはスーパーチャージャーだが、一般的なスーパーチャージャーが低回転域でのトルクを増大させるのが目的なのに対して、SKYACTIV-Xではあくまでもリーンバーンを正確に行うことが目的だ。
この他、低回転域での燃費を向上させるため、今回の実験車両はエンジンの回転力を補助するモーターが装着されており、技術的な車両分類ではマイルドハイブリッド車になる。
こうした各種の構成部品を見ると、SKYACTIV-Xはかなり割高なエンジンに思えるが、欧州、アメリカ、そして中国でこれから厳しさが増すCO2規制や企業間平均燃費(CAFE)をクリアするためには、マツダとして絶対に必要な投資だといえる。
マツダの発表資料によると、現行のガソリンエンジンSKYACTIV-Gと比べて、エンジン単体の燃費率は最大で20~30%改善され、ディーゼルエンジンのSKYACTIV-Dと同等以上の燃費率だという。
SKYACTIV-Xに似た燃焼方式では、HCCI(ホモジェーネアス・チャージド・コンプレッション・イグニッション:予混合圧縮着火)という理念で独ダイムラーが2007年にコンセプトモデルに搭載して発表するなどの事例があるが、どの自動車メーカーも量産までには至っていない。
◆次世代プラットフォームとSKYACTIV-Xの絶妙なマッチング
まず、マニュアルトランスミッション車に試乗した。市街地の走行では、SKYACTIV-G 2.0リットルの現行アクセラと比べて、低回転域から中回転域までしっかりしたトルク感があるが、SKYACTIV-Dのターボによるド太いトルク感とは違う。
SKYACTIV-Gと大きな違いを感じたのは、緩やかな登り坂での加速だ。ギアをシフトアップしていくと、クルマ全体がドンドンと加速する。その加速感はミッションのギアによって引っ張り上げられているのではなく、エンジン自体の伸びやかさに起因する。つまり、中回転域から高回転域で芳醇なトルクを感じるのだ。
そして、なんとも表現が難しいのが、乗り心地とハンドリングだ。あえて言葉にすると、『まったり』『やさしい』という曖昧な表現になってしまうのだ。
この第二世代SKYACTIVボディ&シャーシの開発コンセプトは、『人間中心の発想』。これは、人間が歩く際の動的バランスを、クルマの運転における理想の状態として再現するというものだ。
そのために、着座した際、脊髄のSカーブの維持によって骨盤を立てることで、自動車技術領域では『ばね上』と呼ぶ車体のサスペンションより上部の動きとシートの動きを一体化した。さらに、ボディを多方向の環状構造とすることで、力の伝達の遅れを減らした。
加えて、サスペンションより下の『ばね下』への力の入力を滑らかにした。
この結果、どうなるかというと、まさに運転者とクルマが『人馬一体』となる。マツダの開発陣はこの実験車両の乗り味について「クルマの存在を忘れてしまうような感覚」と表現する。
こうして、マツダの次世代技術が満載したエンジンと車体が生み出したクルマは、筆者がこれまでに経験したことのない、不思議な感覚の乗り物だった。
それでも、今回の実験車両はまだまだ粗削りの状態。2019年に量産される時には、さらなる進化を見せていることだろう。
(レスポンス 桃田健史)
マツダは9月上旬、ドイツのフランクフルト郊外にあるマツダ・モーター・ヨーロッパ(MME)の研究開発拠点で、グローバル次世代技術フォーラムを実施した。
これは、8月8日に都内で開催した、マツダ技術開発長期ビジョン説明会を受けて、世界各国のメディアに対して同社の次世代技術を実体験してもらう場である。
目玉となったのは、やはり「SKYACTIV-X」だ。
フォーラムの具体的な内容は、最初にマツダの技術系担当役員4名による合計1時間15分間のプレゼンテーション。次に、直列4気筒・排気量2.0リットルのSKYACTIV-Xを搭載した、第二世代のSKYACTIV ボディ&シャーシの実験車両で一般道路と速度無制限のアウトバーンを走行した。
実験車両は現行のCセグメントセダンの『アクセラ』に仮装され、マニュアルミッション車とオートマチックミッション車ぞれぞれを1時間づつ運転した。
試乗後は、エンジンと車体について30分間づつ、担当役員と1対1での意見交換を行った。
◆SKYACTIV-Xに世界の注目が集まる理由
試乗の感想を紹介する前に、どうしてSKYACTIV-Xが世界中から大きな注目を集めているかを説明したい。
SKYACTIV-Xの最大の特徴は、マツダがSPCCI(スパーク・コントロールド・コンプレッション・イグニッション:火花点火制御圧縮着火)と呼ぶ燃焼方式だ。
圧縮着火は、一般的にはディーゼルエンジンで採用されている方式。シリンダー気筒内の圧縮比を高めることでシリンダー気筒内の空気が高温となり、そこにディーゼル燃料を噴射することで一気に燃焼して大きなトルクを生む。この原理をガソリンで行う場合、シリンダー気筒内の空気と混ざるガソリンの量を少なくし、混合気を極めて薄くして燃焼させる必要がある。これを、一般的にリーンバーンと呼ぶ。リーンバーンによって、シリンダー気筒内の燃焼温度は下がることで、低燃費かつ高性能というエンジン開発のキモとなる各種の要因が相乗効果によって良い方向へと向かう。
こうしたガソリンエンジンによるリーンバーンをエンジンの低回転域から高回転域まで確実を行うためには、シリンダー気筒内の燃焼状況を確実に制御しなければならない。この制御とは具体的に、一般的なガソリンエンジンのように点火プラグを用いて、最適な圧縮点火を実現するものだ。
つまり、SKYACTIV-Xは、ディーゼルエンジンとガソリンエンジンの理論が融合した、究極の内燃機関だといえる。
また、補機類としては、リーンバーンを最適化するために高圧の空気を送る、高対応エアサプライを用いた。駆動力をエンジンのクランクシャフトから取っているため、技術的にはスーパーチャージャーだが、一般的なスーパーチャージャーが低回転域でのトルクを増大させるのが目的なのに対して、SKYACTIV-Xではあくまでもリーンバーンを正確に行うことが目的だ。
この他、低回転域での燃費を向上させるため、今回の実験車両はエンジンの回転力を補助するモーターが装着されており、技術的な車両分類ではマイルドハイブリッド車になる。
こうした各種の構成部品を見ると、SKYACTIV-Xはかなり割高なエンジンに思えるが、欧州、アメリカ、そして中国でこれから厳しさが増すCO2規制や企業間平均燃費(CAFE)をクリアするためには、マツダとして絶対に必要な投資だといえる。
マツダの発表資料によると、現行のガソリンエンジンSKYACTIV-Gと比べて、エンジン単体の燃費率は最大で20~30%改善され、ディーゼルエンジンのSKYACTIV-Dと同等以上の燃費率だという。
SKYACTIV-Xに似た燃焼方式では、HCCI(ホモジェーネアス・チャージド・コンプレッション・イグニッション:予混合圧縮着火)という理念で独ダイムラーが2007年にコンセプトモデルに搭載して発表するなどの事例があるが、どの自動車メーカーも量産までには至っていない。
◆次世代プラットフォームとSKYACTIV-Xの絶妙なマッチング
まず、マニュアルトランスミッション車に試乗した。市街地の走行では、SKYACTIV-G 2.0リットルの現行アクセラと比べて、低回転域から中回転域までしっかりしたトルク感があるが、SKYACTIV-Dのターボによるド太いトルク感とは違う。
SKYACTIV-Gと大きな違いを感じたのは、緩やかな登り坂での加速だ。ギアをシフトアップしていくと、クルマ全体がドンドンと加速する。その加速感はミッションのギアによって引っ張り上げられているのではなく、エンジン自体の伸びやかさに起因する。つまり、中回転域から高回転域で芳醇なトルクを感じるのだ。
そして、なんとも表現が難しいのが、乗り心地とハンドリングだ。あえて言葉にすると、『まったり』『やさしい』という曖昧な表現になってしまうのだ。
この第二世代SKYACTIVボディ&シャーシの開発コンセプトは、『人間中心の発想』。これは、人間が歩く際の動的バランスを、クルマの運転における理想の状態として再現するというものだ。
そのために、着座した際、脊髄のSカーブの維持によって骨盤を立てることで、自動車技術領域では『ばね上』と呼ぶ車体のサスペンションより上部の動きとシートの動きを一体化した。さらに、ボディを多方向の環状構造とすることで、力の伝達の遅れを減らした。
加えて、サスペンションより下の『ばね下』への力の入力を滑らかにした。
この結果、どうなるかというと、まさに運転者とクルマが『人馬一体』となる。マツダの開発陣はこの実験車両の乗り味について「クルマの存在を忘れてしまうような感覚」と表現する。
こうして、マツダの次世代技術が満載したエンジンと車体が生み出したクルマは、筆者がこれまでに経験したことのない、不思議な感覚の乗り物だった。
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