トヨタ スープラ 新型の発表が「レース仕様」だった理由を、デザインから考える

トヨタGRスープラ・レーシングコンセプト(ジュネーブモーターショー2018)
6日にプレスデーが幕を開けたジュネーブモーターショーで、トヨタが『GRスープラ・レーシングコンセプト』を発表した。GRはもちろん、トヨタのモータースポーツ活動を統括するTOYOTA GAZOO Racing Companyのスポーツカー・ブランド。「新型スープラそのものを公開するのはまだ早い」との判断の下、GAZOO Racingの意向でレース仕様車を披露することになったという。

レーシングコンセプトの開発を担ったのは、ドイツのケルンを拠点とするToyota Motorsport GmbH(略称TMG)。GAZOO Racingの前線基地として、WECマシンの「TS050」やWRCの「ヤリス」を手掛けている子会社だ。トヨタから提供された新型『スープラ』のホワイトボディなどをベースに、TMGが豊富なノウハウを注ぎ込んで生粋のレーサーが誕生した。

当然ながらレースカーはレギュレーションの制約を受けるが、カテゴリーによってボディの改造範囲が異なる。TMGが選んだのはWEC(世界耐久選手権)などでお馴染みのLM-GTEのカテゴリー。これがもしGT3だったらオリジナルのボディ形状がほぼ維持されるので、開発の主旨に合わない。時期尚早だ。日本のスーパーGTのJAF-GTカテゴリーではドアをカットして背を低くするなど大幅な改造が許されるが、それではデザインイメージが変わりすぎてしまう。新型スープラのデザインを“チラ見せ”して期待感を高揚するレーシングコンセプトとして、LM-GTEこそ最適だったのは想像に難くない。

ボディについては、本社側から口出しすることなく、TMGにすべて任せてデザインしたとのこと。フロントのエアインテークの下に突き出したエアスプリッター、フロントコーナーに追加したカナード、太いレーシングタイヤを包むワイドな前後フェンダー、リヤの大型ウィングやディフューザー…これらがLM-GTEレーサーとしてのリアリティを高める。逆に言えば、それらのために新型スープラの実像が見えにくくなっているわけだが…。

一般論として、これから登場する量産車に向けて、それをベースにもっとカッコよくしたショーカーを披露するのはよくあること。量産のための要件を少し度外視すれば、おのずとカッコよくなるし、デザインテーマをより強調して表現することでショーという限られた環境でもテーマを印象付けることができる。しかしそれをやっても、期待感を煽る効果を期待できる反面、量産車が出たときに「ショーカーのほうがカッコよかったね」という落胆を招く懸念も大きい。予告編的ショーカーの、そこが難しさだ。

だからこそトヨタは、レーシングコンセプトというカタチで新型スープラを予告したのだろう。レーシングカーであれば、量産車と比較して「どちらがカッコいいか?」といった議論は起こりにくい。その一方、レース用の空力パーツやオーバーフェンダーを取り除いた姿を想像すれば…全体のプロポーションやキャビン形状は新型スープラそのものであるはずだ。

そんな想像を楽しみながら、新型スープラが正式デビューする日を待ちたいと思う。

千葉匠|デザインジャーナリスト
デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。

(レスポンス 千葉匠)

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