ハンドルを“回す”必要なし!レクサス『RZ』に新採用「ステア・バイ・ワイヤー」を体験して見えたクルマの未来
車両の側に舵取りを託することができるレベル4以上の自動運転が実現した暁には、車内の空間自由度を高めるために、クルマの操作系が大きく変わることになる−−。
いま、そんな未来を示唆したコンセプトカーをみてもいまいち現実味が抱けないかもしれないが、その要素技術は着実に育ちつつある。操舵を物理的接続ではなく電子的にコントロールする「ステア・バイ・ワイヤー(SBW)」もそのひとつだ。
トヨタは専用アーキテクチャーをもつBEVのリリースに合わせて、世界に先駆けてSBWの実装をコーポレートで目指している。その大枠を開発しているのが同門のレクサスだ。今年度中の発売を目指すレクサス『RZ』のいちグレードとして採用されるSBWは、チューニングを違えるかたちで『bZ4X』にも搭載される予定だ。その先進性をレクサスではプレミアムな体験として、トヨタではブランドイメージの先鋭化として、各々繋げたいという思惑もあるだろう。
開発が最終段階に入ったSBWを搭載したRZに試乗する機会を得たのは、愛知のトヨタテクニカルセンター下山だ。広大な高速周回路や起伏を活かした暴露性の高いハンドリングコースなどを擁するこの施設に、レクサスは開発機能の大半を移管することになっている。
「ステア・バイ・ワイヤー」の仕組み
RZのSBWはコラム側とラック側、2つのアクチュエーターを持ち、操舵コントロールだけでなく入力のセンシングや路面情報のフィードバックなどを担っている。この間を繋ぐコントロールユニットは2系統の伝達ラインを持つ完全冗長型となっているほか、万一車両側からの電源供給ができなくなった際には、独立系統のバックアップバッテリーによって電源を確保し作動をサポートするなど、フェイルセーフには万全を期している。
SBWで肝心なのは、ドライバーに操縦実感をいかに伝えるかという点だ。以前、レクサスのマスタードライバーを務める豊田章男社長に開発中の車両を託した際には、テストコースを一周しただけでこの点を指摘され「走る気がしないね」と一刀両断されたという。そこから開発は、SBWゆえの違和感を新しさとして許容するのではなく、コンベンショナルなモデルとの差異を限りなくなきものとしながら、SBWの利を見直していくことになったそうだ。
RZの場合、舗装目地やダート、ウェットや氷雪路など時々刻々と変わる路面環境の変化は解析によって周波数化され、ラック側のアクチュエータを介してステアリングに伝達される。そしてステアリングの切れ込みや戻りなどの操舵反力はコラム側のアクチュエーターを制御することで再現している。
と、言葉で書くのは簡単だが、そこに速度域や各輪負荷なども加わりつつ、推移を違和感なく自然に繋げていくには莫大なパラメータを要し、それを瞬時に処理・反映しなければならない。搭載されるCPUのマシンパワーが大きくなれば、その安定性にも配慮が必要だ。その開発は領域エンジニアはもちろん、社内で“TAKUMI(匠)”と呼ばれる実験部のマイスターも総出で行われたというから、そのおおごとぶりは察するに余りある。
想像以上に切れすぎるが、速度を上げると違和感は消える
操縦桿のように突飛なステアリングもTAKUMIの試行錯誤の末に辿り着いた形状だという。その可動域は約150度、つまり持ち替え無しでロックtoロックが可能な設定となっている。これに可変ギアレシオを組み合わせて、停止~低速時は小さな操作量でも車庫入れなどの細かなハンドリングが可能という算段になっているわけだが、普通のステアリング操作が染み付いた身には、さすがにその動きは慣れが必要だ。
最初は建物の周りをそろそろと走ってみたが想像以上に切れすぎて内輪差を御するのに時間を要した。一方で、たとえばステアリングを回すという動作自体が身体的に辛いという方々にもクルマを操る門戸が開かれる、SBWという技術にはそういう社会的意味もあることは認識しておくべきだろう。
ある程度慣れたところでコースに出て徐々に速度を上げていくと、切り過ぎの違和感は霧散する。むしろ想像以上に扱いやすく、操作量は小さいながらも、コーナーに合わせての舵角が定まらないという状況はほとんどなかった。人工的に再現されている舵の反力、そしてセンタリング感も言われなければわからないほどだ。そして保持から微細な入力、そして早い転舵と様々な入力を試してみると、ステアリングの形状の端々に意味があることも伝わってきた。
我々がまだ見ぬクルマにリーチを掛けてきたレクサス
物理的接続がないSBWは、凹凸や轍などの路面変化においても必要な情報のみを電気的に再現して伝えながら、不快な要素をフィルタリング出来る。この動的なメリットは、レクサスとしてのベネフィットに直結している。コースには数々の意地悪なギャップが仕込まれているが、そういうポイントでも舵はピタリと安定し、不快な反動を伝えてこない。
車体側の安定感はBEVならではの重心や駆動制御からくるものだが、そこにSBWが加わることで動きの質感がより高められた形でドライバーに伝わってくる。普通のステアリングを持つモデルと比べても、最終的に掌に伝わる転がりの上質さは確実にSBWモデルの側が勝っていた。
ちなみに現在はレーンキープや緊急回避支援、パーキングアシストなどのADASを用いる際は、車両の挙動に合わせるかたちでステアリングは動かす設定となっている。ドライバーがオーバーライドする際に方向性を誤認識することがないようにという配慮だが、この先、認証的な問題がクリアになれば、時代の変化に合わせてアップデートすることも可能となるだろう。
或いは駆動制御と操舵制御をシンクロさせた新しいハンドリングキャラクターを加えるといった進化も模索できるかもしれない。そういった、我々がまだ見ぬクルマの新たな一歩にも、レクサスはリーチを掛けてきたというわけだ。
いま、そんな未来を示唆したコンセプトカーをみてもいまいち現実味が抱けないかもしれないが、その要素技術は着実に育ちつつある。操舵を物理的接続ではなく電子的にコントロールする「ステア・バイ・ワイヤー(SBW)」もそのひとつだ。
トヨタは専用アーキテクチャーをもつBEVのリリースに合わせて、世界に先駆けてSBWの実装をコーポレートで目指している。その大枠を開発しているのが同門のレクサスだ。今年度中の発売を目指すレクサス『RZ』のいちグレードとして採用されるSBWは、チューニングを違えるかたちで『bZ4X』にも搭載される予定だ。その先進性をレクサスではプレミアムな体験として、トヨタではブランドイメージの先鋭化として、各々繋げたいという思惑もあるだろう。
開発が最終段階に入ったSBWを搭載したRZに試乗する機会を得たのは、愛知のトヨタテクニカルセンター下山だ。広大な高速周回路や起伏を活かした暴露性の高いハンドリングコースなどを擁するこの施設に、レクサスは開発機能の大半を移管することになっている。
「ステア・バイ・ワイヤー」の仕組み
RZのSBWはコラム側とラック側、2つのアクチュエーターを持ち、操舵コントロールだけでなく入力のセンシングや路面情報のフィードバックなどを担っている。この間を繋ぐコントロールユニットは2系統の伝達ラインを持つ完全冗長型となっているほか、万一車両側からの電源供給ができなくなった際には、独立系統のバックアップバッテリーによって電源を確保し作動をサポートするなど、フェイルセーフには万全を期している。
SBWで肝心なのは、ドライバーに操縦実感をいかに伝えるかという点だ。以前、レクサスのマスタードライバーを務める豊田章男社長に開発中の車両を託した際には、テストコースを一周しただけでこの点を指摘され「走る気がしないね」と一刀両断されたという。そこから開発は、SBWゆえの違和感を新しさとして許容するのではなく、コンベンショナルなモデルとの差異を限りなくなきものとしながら、SBWの利を見直していくことになったそうだ。
RZの場合、舗装目地やダート、ウェットや氷雪路など時々刻々と変わる路面環境の変化は解析によって周波数化され、ラック側のアクチュエータを介してステアリングに伝達される。そしてステアリングの切れ込みや戻りなどの操舵反力はコラム側のアクチュエーターを制御することで再現している。
と、言葉で書くのは簡単だが、そこに速度域や各輪負荷なども加わりつつ、推移を違和感なく自然に繋げていくには莫大なパラメータを要し、それを瞬時に処理・反映しなければならない。搭載されるCPUのマシンパワーが大きくなれば、その安定性にも配慮が必要だ。その開発は領域エンジニアはもちろん、社内で“TAKUMI(匠)”と呼ばれる実験部のマイスターも総出で行われたというから、そのおおごとぶりは察するに余りある。
想像以上に切れすぎるが、速度を上げると違和感は消える
操縦桿のように突飛なステアリングもTAKUMIの試行錯誤の末に辿り着いた形状だという。その可動域は約150度、つまり持ち替え無しでロックtoロックが可能な設定となっている。これに可変ギアレシオを組み合わせて、停止~低速時は小さな操作量でも車庫入れなどの細かなハンドリングが可能という算段になっているわけだが、普通のステアリング操作が染み付いた身には、さすがにその動きは慣れが必要だ。
最初は建物の周りをそろそろと走ってみたが想像以上に切れすぎて内輪差を御するのに時間を要した。一方で、たとえばステアリングを回すという動作自体が身体的に辛いという方々にもクルマを操る門戸が開かれる、SBWという技術にはそういう社会的意味もあることは認識しておくべきだろう。
ある程度慣れたところでコースに出て徐々に速度を上げていくと、切り過ぎの違和感は霧散する。むしろ想像以上に扱いやすく、操作量は小さいながらも、コーナーに合わせての舵角が定まらないという状況はほとんどなかった。人工的に再現されている舵の反力、そしてセンタリング感も言われなければわからないほどだ。そして保持から微細な入力、そして早い転舵と様々な入力を試してみると、ステアリングの形状の端々に意味があることも伝わってきた。
我々がまだ見ぬクルマにリーチを掛けてきたレクサス
物理的接続がないSBWは、凹凸や轍などの路面変化においても必要な情報のみを電気的に再現して伝えながら、不快な要素をフィルタリング出来る。この動的なメリットは、レクサスとしてのベネフィットに直結している。コースには数々の意地悪なギャップが仕込まれているが、そういうポイントでも舵はピタリと安定し、不快な反動を伝えてこない。
車体側の安定感はBEVならではの重心や駆動制御からくるものだが、そこにSBWが加わることで動きの質感がより高められた形でドライバーに伝わってくる。普通のステアリングを持つモデルと比べても、最終的に掌に伝わる転がりの上質さは確実にSBWモデルの側が勝っていた。
ちなみに現在はレーンキープや緊急回避支援、パーキングアシストなどのADASを用いる際は、車両の挙動に合わせるかたちでステアリングは動かす設定となっている。ドライバーがオーバーライドする際に方向性を誤認識することがないようにという配慮だが、この先、認証的な問題がクリアになれば、時代の変化に合わせてアップデートすることも可能となるだろう。
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