【ランドクルーザー250 デザイン考察】原点回帰が生むもうひとつのドリーム・カム・トゥルーとは
8月5日にデビューしたトヨタ『ランドクルーザー250』。たんなるニューモデルではない。そのデザインはデザイナーたちが積年の思いを実現した成果だ。そしてランクル・ファンにとっても“ドリーム・カム・トゥルー”な1台かもしれない。
◆サイモンのドリーム・カム・トゥルー
「ドリーム・カム・トゥルーだ。私は20年前からこういうクルマを作りたいと思っていた」と、発表会の囲み取材で満面の笑みを見せたのはサイモン・ハンフリース取締役。トヨタのデザインを統括する英国人であり、今年4月からは執行役員としてチーフブランディングオフィサーも兼務している。
ハンフリースの現在の愛車はレクサス『NX』だが、かつて3代目『ランドクルーザープラド』を2台乗り継ぎ、さらに4代目=従来型プラドにも乗っていたというランクル・フリークだ。「20年前から」という彼の言葉は、3代目プラドがデビューした2002年にほぼ符合する。しかし理想のランクルができた、ということだけが彼のドリカムではなかったのだろう。
「今回のこだわりをひと言でいえばファンクショナリティ。クルマの世界ではデザイン=スタイリングと思われがちだけど、そうじゃない。デザイナーは問題解決する人のはずです。主観的なところが先に来るのではなく、客観性のあるデザインをやりたい、というアプローチがこのデザインにつながった」とハンフリース。
デザインのなかにある客観的な部分が機能性だ。美しさはとかく主観的なものだが、ハンフリースは「美しさもファンクションです。このクルマのどこを見ても、美しさは機能に由来するということを原則にデザインされている」と力説する。
スタイリングではないデザインをやり通したい。機能という客観的な部分についても、デザイナーが美しく問題解決できることを示したい。その絶好のチャンスが今回のプロジェクトで訪れたわけだ。これこそが、ハンフリースにとってドリーム・カム・トゥルーだったのかもしれない。
◆原点回帰は二度目の正直?
ハンフリースは発表会のプレゼンテーションで、「アキオ・トヨダが我々に与えたミッションはシンプルに『原点回帰』だった」と語った。それをどう解釈するかは、開発陣に委ねられたという。「レトロなデザインはやりたくない。それは意味がないので、ファンクショナリティを第一優先に考えた」
トヨタは日米欧にデザイン拠点を持つので、開発初期段階で各拠点がアイデアを出して競い合った。そのなかでエクステリアについては米国拠点のキャルティの提案が選ばれている。
「キャルティが原点回帰のコンセプトに相応しい案を出してくれたことが、今回のプロジェクトの最初のターニングポイントになった」と語るのは、Mid-size Vehicle Company・MSデザイン部の園田達也部長。採用案を創出したのは、ジン・ウォン・キムという韓国人デザイナーだ。
ジン・キムはカリフォルニアの名門校、アートセンターでカーデザインを学び、01年にキャルティに入社。03年にコンセプトカーとして発表され、06年に量産化された『FJクルーザー』は彼の若い頃の作品だ。彼は16年にキャルティを辞めてEVスタートアップのファラデー・フューチャーに移り、1年後にキャルティに戻って今回のプロジェクトを手掛けることになった。
84年にFJ40系の国内生産が終了した後も、アメリカではブラジル生産のFJ40が販売されていた。それもいよいよ01年に打ち切りになり、一方でランクルが80系から100系へと大型化・高級化して状況のなか、若い世代にも手の届きやすいFJ後継車として企画されたのがFJクルーザーだった。当時のプラドや『ハイラックス』のハードウエアをベースに、ジン・キムのデザインはFJ40のイメージをアイコニックかつモダンに表現していた。
しかしFJクルーザーは「FJ」の二文字でランクルの伝統を強く示唆しながらも、「ランクル」ではなかった。ランクル250はキムにとって言わば二度目の原点回帰のデザインだが、今度は正真正銘のランクルだ。ここにもドリーム・カム・トゥルーがあるのかもしれない。
ちなみに東京ビッグサイトでの発表会と並行して、アメリカではユタ州ソルトレイクシティの”ランドクルーザー・ヘリテージ・ミュージアム”で発表会を開催。そこに出席していたキムは、自身のLinkedinページにこう投稿している。
「なんて素晴らしい日だ! ランドクルーザーが戻ってきた。信じられないほどエキサイティングだし、この素晴らしい旅路の一員であれたことを誇りに思う。ひとつのチームとして働いたデザインスタジオのネットワークの大きな成果だ。みんな、おめでとう!」
◆原点回帰が生むもうひとつのドリカム
日本で2009年に登場した従来型プラドは、アメリカでは姉妹車のレクサス『GX』だけを販売。21年のランクル300も同様にレクサス『LX』だけに絞ったため、「ランドクルーザー」の名がアメリカから消えていた。だからキムは「ランドクルーザーが戻ってきた」と投稿したわけだ。
アメリカでの発表会で、米国トヨタでトヨタ部門を統括するデイブ・クリスは、新型のお披露目に先立ってこう述べていた。「数年前に我々はランドクルーザーの販売を打ち切り、60年の歴史を終わらせるという難しい決断を行った。あのときは言えなかったが、ランドクルーザーが戻ってくることはわかっており、それを正しい道筋でやりたいと考えた」。正しい道筋とはつまり原点回帰だ。
FJクルーザーはアメリカでFJ40がなくなるのを受けて企画された。今回のランクル250は、アメリカからランクル・ブランドをいったんなくすという決断と並行して開発された。共通するのは原点回帰の方針である。
ちなみに豊田章男・現会長は90年代末にサンフランシスコにあったGMとの合弁工場(後にテスラに売却)の副社長を務め、米国トヨタと共にFJクルーザーの企画を推進。帰国して取締役になると、その量産化にゴーサインを出した。
ランクル250で現会長が開発陣に指示した「原点回帰」の背景に、FJクルーザーの記憶があったのかどうか…。アメリカでの発表会でデイブ・クリスが新型の価格を「5万ドル台半ば」と告げると、会場から歓声が沸き起こった。ランクル200が8万ドル台だったから、高級化しすぎたランクルを価格的にも原点に戻すことになる。そこにもFJクルーザーとの共通点がありそうだ。
アメリカの新型ランクルは2.4リットルターボ・ハイブリッドを積む。しかも円安のご時世とSUVにかかる25%の関税を含めての5万ドル台半ばだ。日本向けは当面、コンベンショナルなガソリンとディーゼルターボだから、ファンにとって手の届きやすい価格設定を期待できそう。となれば、もうひとつのドリーム・カム・トゥルーになるが、はたして…?
◆サイモンのドリーム・カム・トゥルー
「ドリーム・カム・トゥルーだ。私は20年前からこういうクルマを作りたいと思っていた」と、発表会の囲み取材で満面の笑みを見せたのはサイモン・ハンフリース取締役。トヨタのデザインを統括する英国人であり、今年4月からは執行役員としてチーフブランディングオフィサーも兼務している。
ハンフリースの現在の愛車はレクサス『NX』だが、かつて3代目『ランドクルーザープラド』を2台乗り継ぎ、さらに4代目=従来型プラドにも乗っていたというランクル・フリークだ。「20年前から」という彼の言葉は、3代目プラドがデビューした2002年にほぼ符合する。しかし理想のランクルができた、ということだけが彼のドリカムではなかったのだろう。
「今回のこだわりをひと言でいえばファンクショナリティ。クルマの世界ではデザイン=スタイリングと思われがちだけど、そうじゃない。デザイナーは問題解決する人のはずです。主観的なところが先に来るのではなく、客観性のあるデザインをやりたい、というアプローチがこのデザインにつながった」とハンフリース。
デザインのなかにある客観的な部分が機能性だ。美しさはとかく主観的なものだが、ハンフリースは「美しさもファンクションです。このクルマのどこを見ても、美しさは機能に由来するということを原則にデザインされている」と力説する。
スタイリングではないデザインをやり通したい。機能という客観的な部分についても、デザイナーが美しく問題解決できることを示したい。その絶好のチャンスが今回のプロジェクトで訪れたわけだ。これこそが、ハンフリースにとってドリーム・カム・トゥルーだったのかもしれない。
◆原点回帰は二度目の正直?
ハンフリースは発表会のプレゼンテーションで、「アキオ・トヨダが我々に与えたミッションはシンプルに『原点回帰』だった」と語った。それをどう解釈するかは、開発陣に委ねられたという。「レトロなデザインはやりたくない。それは意味がないので、ファンクショナリティを第一優先に考えた」
トヨタは日米欧にデザイン拠点を持つので、開発初期段階で各拠点がアイデアを出して競い合った。そのなかでエクステリアについては米国拠点のキャルティの提案が選ばれている。
「キャルティが原点回帰のコンセプトに相応しい案を出してくれたことが、今回のプロジェクトの最初のターニングポイントになった」と語るのは、Mid-size Vehicle Company・MSデザイン部の園田達也部長。採用案を創出したのは、ジン・ウォン・キムという韓国人デザイナーだ。
ジン・キムはカリフォルニアの名門校、アートセンターでカーデザインを学び、01年にキャルティに入社。03年にコンセプトカーとして発表され、06年に量産化された『FJクルーザー』は彼の若い頃の作品だ。彼は16年にキャルティを辞めてEVスタートアップのファラデー・フューチャーに移り、1年後にキャルティに戻って今回のプロジェクトを手掛けることになった。
84年にFJ40系の国内生産が終了した後も、アメリカではブラジル生産のFJ40が販売されていた。それもいよいよ01年に打ち切りになり、一方でランクルが80系から100系へと大型化・高級化して状況のなか、若い世代にも手の届きやすいFJ後継車として企画されたのがFJクルーザーだった。当時のプラドや『ハイラックス』のハードウエアをベースに、ジン・キムのデザインはFJ40のイメージをアイコニックかつモダンに表現していた。
しかしFJクルーザーは「FJ」の二文字でランクルの伝統を強く示唆しながらも、「ランクル」ではなかった。ランクル250はキムにとって言わば二度目の原点回帰のデザインだが、今度は正真正銘のランクルだ。ここにもドリーム・カム・トゥルーがあるのかもしれない。
ちなみに東京ビッグサイトでの発表会と並行して、アメリカではユタ州ソルトレイクシティの”ランドクルーザー・ヘリテージ・ミュージアム”で発表会を開催。そこに出席していたキムは、自身のLinkedinページにこう投稿している。
「なんて素晴らしい日だ! ランドクルーザーが戻ってきた。信じられないほどエキサイティングだし、この素晴らしい旅路の一員であれたことを誇りに思う。ひとつのチームとして働いたデザインスタジオのネットワークの大きな成果だ。みんな、おめでとう!」
◆原点回帰が生むもうひとつのドリカム
日本で2009年に登場した従来型プラドは、アメリカでは姉妹車のレクサス『GX』だけを販売。21年のランクル300も同様にレクサス『LX』だけに絞ったため、「ランドクルーザー」の名がアメリカから消えていた。だからキムは「ランドクルーザーが戻ってきた」と投稿したわけだ。
アメリカでの発表会で、米国トヨタでトヨタ部門を統括するデイブ・クリスは、新型のお披露目に先立ってこう述べていた。「数年前に我々はランドクルーザーの販売を打ち切り、60年の歴史を終わらせるという難しい決断を行った。あのときは言えなかったが、ランドクルーザーが戻ってくることはわかっており、それを正しい道筋でやりたいと考えた」。正しい道筋とはつまり原点回帰だ。
FJクルーザーはアメリカでFJ40がなくなるのを受けて企画された。今回のランクル250は、アメリカからランクル・ブランドをいったんなくすという決断と並行して開発された。共通するのは原点回帰の方針である。
ちなみに豊田章男・現会長は90年代末にサンフランシスコにあったGMとの合弁工場(後にテスラに売却)の副社長を務め、米国トヨタと共にFJクルーザーの企画を推進。帰国して取締役になると、その量産化にゴーサインを出した。
ランクル250で現会長が開発陣に指示した「原点回帰」の背景に、FJクルーザーの記憶があったのかどうか…。アメリカでの発表会でデイブ・クリスが新型の価格を「5万ドル台半ば」と告げると、会場から歓声が沸き起こった。ランクル200が8万ドル台だったから、高級化しすぎたランクルを価格的にも原点に戻すことになる。そこにもFJクルーザーとの共通点がありそうだ。
アメリカの新型ランクルは2.4リットルターボ・ハイブリッドを積む。しかも円安のご時世とSUVにかかる25%の関税を含めての5万ドル台半ばだ。日本向けは当面、コンベンショナルなガソリンとディーゼルターボだから、ファンにとって手の届きやすい価格設定を期待できそう。となれば、もうひとつのドリーム・カム・トゥルーになるが、はたして…?
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