「王道のセダン」を目指した、新型トヨタ『クラウン・セダン』デザインの5つの見所
4タイプのボディを揃える新世代『クラウン』。今回は「クラウン・セダン」に注目して、そのデザインの見所を紹介していこう。お話を伺うのは、シリーズ全体のチーフデザイナーを務めた宮崎満則氏である。
◆見所1:革新のセダンに対する王道のセダン
新世代クラウンのデザインチームは当初から、さまざまなボディタイプを描いていた。「車型やユニットにはこだわらずに、どんなクラウンがいいのかを探った」と宮崎チーフ。チームにはあえて若手を起用していた。
「クラウンの成功も紆余曲折も知らない若手に『セダンとは何か?』と問い掛けても、彼らの生活のなかにセダンがない。ミニバンやSUVしかないわけです。それでも彼らと会話を続けるうちに、セダンをリフトアップして、乗り降りしやすくて視線が高く、しかもクーペライクなデザインができたら…というアイデアが出てきました」
そんな折り、並行して進んでいた先代クラウンのマイナーチェンジ・プロジェクトに、豊田章男会長(当時は社長)がNGを出した。「それを受けて、あらためてクラウンとは何かを考えた。歴代クラウンのチーフエンジニアの言葉をいろいろ調べた結果、やはりクラウンには『挑戦と革新』が必要だ。リフトアップしたセダンを提案し、始まったのがクロスオーバーのプロジェクトでした」
クロスオーバーの開発を進めるなか、「次期クラウンはセダン廃止、SUVになる」との新聞報道が流れ、大きな反響を呼んだ。それを章男社長は「クラウンへの期待」と解釈。「社長から『セダンも作ってみないか』という話があって、『えっ?』となった」と宮崎チーフ。「私たちはクロスオーバーをセダンだと思っていましたからね」
クロスオーバーという名前は後から付けたもの。デザイナーたちはそれをクラウン・セダンを革新するものと考えていたわけだが、もうひとつセダンを開発することになった。
「今までのクラウンのお客様を大切にするような、王道のセダンが必要なのだろう。本当に美しいセダンをデザインしよう、と取り組みました」と、宮崎チーフは振り返る。
◆見所2:水平に延びるベルトライン
「王道の美しいセダン」を目指すうえで、宮崎チーフが重視したのが水平基調の伸びやかなサイドビューだ。しかしそれを実現するには、思わぬハードルがあった。
クラウン・セダンはシリーズで唯一、後輪駆動のGA-Lプラットフォームを使う。GA-Lは燃料電池車=FCEVにも対応し、クラウン・セダンのFCEV仕様は『MIRAI(ミライ)』のレイアウトをほぼ踏襲。ウインドシールドとフロントドアのガラスをミライから流用しながらも、ホイールベースを80mm延ばして後席居住性をさらに改善したことがパッケージングの特徴だ。
ミライも基本的には水平基調のプロポーションだが、ベルトラインは後ろ上がりのウエッジを描く。クラウン・セダンではそれをもっと水平に延ばしたい。「そこがいちばんの難題だった」と宮崎チーフ。焦点になったのはフューエルリッドだ。
「フューエルリッドからタンクまでの距離を最短にしたいという設計要望があるなかで、フューエルリッドの位置をミライより下げながら後ろにズラしてもらった」。リッドの上端はベルトラインに迫っている。また、設計要件が許す範囲で後ろにズラすことで、張り出したホイールアーチの美しい曲面にリッドがかかるのを最小限にした。まさにギリギリの攻防で水平に延びるベルトラインを実現したのだ。
◆見所3:凜とした硬質なボディサイド面
ボディサイドの造形もミライとは大きく異なる。ミライではショルダー下のハイライトが後輪に向けて緩やかに下降し、それがウエッジしたベルトラインと対をなすことで、躍動感を持たせながらも全体としては水平基調の落ち着きを醸し出していた。
それに対して、クラウン・セダンはボディサイドのハイライトも水平基調だ。開発初期から前後方向の伸びやかさに徹底してこだわった。そのぶん断面変化は小さい。断面を抑揚させられないなか、「シリーズでセダンだけは少し硬い感じの断面にした」と宮崎チーフ。これがボディサイドに凜とした緊張感をもたらしているのも、セダンの見所だ。
もうひとつミライと違うのは、キャビン後部をあまり絞り込んでいないこと。王道のセダンとして後席の幅方向の寸法も大事だし、トランクリッドの開口幅も必要だったからだ。宮崎チーフは「ショーファーカーとしても充分な後席の広さを確保した。トランクは少なくとも2個のゴルフバッグを積めるようにしたい。ミライも2個積めますが、より容易に積み込めるようにした」としている。
◆見所4:太い分割線で描くハンマーヘッド
フロントはクラウン・クロスオーバーや『プリウス』などと同様に、”アンダープライオリティ”と”ハンマーヘッド”という2つのテーマに基づいてデザインされている。
アンダープライオリティは冷却機能を集約したロワーグリルを、アッパーグリルより大きくすることで機能性と低重心感を表現するもの。クラウン・セダンではそれを縦パターンの桟を並べたワイドで大きなロワーグリルで表現した。FCEVは多くの冷却風を必要とするので大型ロワーグリルは必然であり、それは「王道のセダン」の風格を表現するためにも必要だったのだろう。
そのロワーグリルの上に表現したのがハンマーヘッドだ。シュモクザメ=ハンマーヘッドシャークの頭部には左右に広がるヒレがある。ボンネット・バルジを前方に向けて絞り込みつつ、その前端をヒレのように広げるのがハンマーヘッドのテーマ。そこで大事になるのが、ハンマーヘッド形状とその周囲とをどう区切るかだ。
クラウン・シリーズはそれぞれ異なる方法で区切っているのだが、セダンはヒレ部分とボンネット/フロントフェンダーの間に極太の分割線を入れた。普通なら部品の分割線は最小幅にしたいもの。できれば分割線などないほうがよい。しかし今回は違った。分割線を積極的に活かすことで、ハンマーヘッド形状が明瞭に見えるようにしたのだ。
◆見所5:寸法を超えた広さ感の表現
クラウン・セダンのインパネは一見したところ、クロスオーバーですでにお馴染みのデザインに思えるが…。「部分的に共通部品があるけれど、寸法が違うのでまったく同じデザインにはできない。ただ、クラウン・シリーズとして共通のイメージにしています」と宮崎チーフは語る。
室内幅はクロスオーバーより55mm広い1595mm。2つの12.3インチ・ディスプレイや空調スイッチは共通だが、それらを車両右側に少しズラしている。車両中心線からドラポジ中心線までの距離が長いからだ。実はクロスオーバーではセンターディスプレイや空調スイッチの位置が車両中心線から助手席側にオフセットしていた。セダンはオフセットを解消。センターがきちんと揃うようにした。
その上でインパネアッパーの幅(言い換えると左右の空調ルーバーの距離)を40mmほど延ばした。残りの15mmは空調ルーバーとドアトリムの隙間を広げることに使い、夜間はその隙間をイルミネーションで照らす工夫も盛り込んだ。
プラットフォームがそもそもFRベースなので、センターコンソールのデザインはクロスオーバーとはまったく異なる。シフト・フィニッシャーはその前方のスマホ置き場と一体的にデザインされ、カップホルダーにリッドが付いて、よりスッキリした。
もっと大きな違いはインパネとコンソールのつなぎ方だ。クロスオーバーではインパネロワーのパッドがコンソールに連続していたが、セダンはインパネロワーに横長に木目調加飾を設定。インパネからコンソールへの連続感を抑えることで、インパネ全体を水平基調に見せた。これもワイド感の表現だが、エクステリアの水平基調をインパネにも再現したという意味もありそうだ。
クロスオーバーを「革新的なセダン」としてデザインしていたデザイナーたちにとって、「王道のセダン」ではやはり居住性こそ重視すべきこと。ホイールベースをミライより延ばし、室内幅をクロスオーバーより広げたとはいえ、そうした寸法的な広さだけに頼るのではなく、クラウン・セダンの存在意義として広さ感をしっかり表現した。これがインテリアのいちばんの見所だ。
◆見所1:革新のセダンに対する王道のセダン
新世代クラウンのデザインチームは当初から、さまざまなボディタイプを描いていた。「車型やユニットにはこだわらずに、どんなクラウンがいいのかを探った」と宮崎チーフ。チームにはあえて若手を起用していた。
「クラウンの成功も紆余曲折も知らない若手に『セダンとは何か?』と問い掛けても、彼らの生活のなかにセダンがない。ミニバンやSUVしかないわけです。それでも彼らと会話を続けるうちに、セダンをリフトアップして、乗り降りしやすくて視線が高く、しかもクーペライクなデザインができたら…というアイデアが出てきました」
そんな折り、並行して進んでいた先代クラウンのマイナーチェンジ・プロジェクトに、豊田章男会長(当時は社長)がNGを出した。「それを受けて、あらためてクラウンとは何かを考えた。歴代クラウンのチーフエンジニアの言葉をいろいろ調べた結果、やはりクラウンには『挑戦と革新』が必要だ。リフトアップしたセダンを提案し、始まったのがクロスオーバーのプロジェクトでした」
クロスオーバーの開発を進めるなか、「次期クラウンはセダン廃止、SUVになる」との新聞報道が流れ、大きな反響を呼んだ。それを章男社長は「クラウンへの期待」と解釈。「社長から『セダンも作ってみないか』という話があって、『えっ?』となった」と宮崎チーフ。「私たちはクロスオーバーをセダンだと思っていましたからね」
クロスオーバーという名前は後から付けたもの。デザイナーたちはそれをクラウン・セダンを革新するものと考えていたわけだが、もうひとつセダンを開発することになった。
「今までのクラウンのお客様を大切にするような、王道のセダンが必要なのだろう。本当に美しいセダンをデザインしよう、と取り組みました」と、宮崎チーフは振り返る。
◆見所2:水平に延びるベルトライン
「王道の美しいセダン」を目指すうえで、宮崎チーフが重視したのが水平基調の伸びやかなサイドビューだ。しかしそれを実現するには、思わぬハードルがあった。
クラウン・セダンはシリーズで唯一、後輪駆動のGA-Lプラットフォームを使う。GA-Lは燃料電池車=FCEVにも対応し、クラウン・セダンのFCEV仕様は『MIRAI(ミライ)』のレイアウトをほぼ踏襲。ウインドシールドとフロントドアのガラスをミライから流用しながらも、ホイールベースを80mm延ばして後席居住性をさらに改善したことがパッケージングの特徴だ。
ミライも基本的には水平基調のプロポーションだが、ベルトラインは後ろ上がりのウエッジを描く。クラウン・セダンではそれをもっと水平に延ばしたい。「そこがいちばんの難題だった」と宮崎チーフ。焦点になったのはフューエルリッドだ。
「フューエルリッドからタンクまでの距離を最短にしたいという設計要望があるなかで、フューエルリッドの位置をミライより下げながら後ろにズラしてもらった」。リッドの上端はベルトラインに迫っている。また、設計要件が許す範囲で後ろにズラすことで、張り出したホイールアーチの美しい曲面にリッドがかかるのを最小限にした。まさにギリギリの攻防で水平に延びるベルトラインを実現したのだ。
◆見所3:凜とした硬質なボディサイド面
ボディサイドの造形もミライとは大きく異なる。ミライではショルダー下のハイライトが後輪に向けて緩やかに下降し、それがウエッジしたベルトラインと対をなすことで、躍動感を持たせながらも全体としては水平基調の落ち着きを醸し出していた。
それに対して、クラウン・セダンはボディサイドのハイライトも水平基調だ。開発初期から前後方向の伸びやかさに徹底してこだわった。そのぶん断面変化は小さい。断面を抑揚させられないなか、「シリーズでセダンだけは少し硬い感じの断面にした」と宮崎チーフ。これがボディサイドに凜とした緊張感をもたらしているのも、セダンの見所だ。
もうひとつミライと違うのは、キャビン後部をあまり絞り込んでいないこと。王道のセダンとして後席の幅方向の寸法も大事だし、トランクリッドの開口幅も必要だったからだ。宮崎チーフは「ショーファーカーとしても充分な後席の広さを確保した。トランクは少なくとも2個のゴルフバッグを積めるようにしたい。ミライも2個積めますが、より容易に積み込めるようにした」としている。
◆見所4:太い分割線で描くハンマーヘッド
フロントはクラウン・クロスオーバーや『プリウス』などと同様に、”アンダープライオリティ”と”ハンマーヘッド”という2つのテーマに基づいてデザインされている。
アンダープライオリティは冷却機能を集約したロワーグリルを、アッパーグリルより大きくすることで機能性と低重心感を表現するもの。クラウン・セダンではそれを縦パターンの桟を並べたワイドで大きなロワーグリルで表現した。FCEVは多くの冷却風を必要とするので大型ロワーグリルは必然であり、それは「王道のセダン」の風格を表現するためにも必要だったのだろう。
そのロワーグリルの上に表現したのがハンマーヘッドだ。シュモクザメ=ハンマーヘッドシャークの頭部には左右に広がるヒレがある。ボンネット・バルジを前方に向けて絞り込みつつ、その前端をヒレのように広げるのがハンマーヘッドのテーマ。そこで大事になるのが、ハンマーヘッド形状とその周囲とをどう区切るかだ。
クラウン・シリーズはそれぞれ異なる方法で区切っているのだが、セダンはヒレ部分とボンネット/フロントフェンダーの間に極太の分割線を入れた。普通なら部品の分割線は最小幅にしたいもの。できれば分割線などないほうがよい。しかし今回は違った。分割線を積極的に活かすことで、ハンマーヘッド形状が明瞭に見えるようにしたのだ。
◆見所5:寸法を超えた広さ感の表現
クラウン・セダンのインパネは一見したところ、クロスオーバーですでにお馴染みのデザインに思えるが…。「部分的に共通部品があるけれど、寸法が違うのでまったく同じデザインにはできない。ただ、クラウン・シリーズとして共通のイメージにしています」と宮崎チーフは語る。
室内幅はクロスオーバーより55mm広い1595mm。2つの12.3インチ・ディスプレイや空調スイッチは共通だが、それらを車両右側に少しズラしている。車両中心線からドラポジ中心線までの距離が長いからだ。実はクロスオーバーではセンターディスプレイや空調スイッチの位置が車両中心線から助手席側にオフセットしていた。セダンはオフセットを解消。センターがきちんと揃うようにした。
その上でインパネアッパーの幅(言い換えると左右の空調ルーバーの距離)を40mmほど延ばした。残りの15mmは空調ルーバーとドアトリムの隙間を広げることに使い、夜間はその隙間をイルミネーションで照らす工夫も盛り込んだ。
プラットフォームがそもそもFRベースなので、センターコンソールのデザインはクロスオーバーとはまったく異なる。シフト・フィニッシャーはその前方のスマホ置き場と一体的にデザインされ、カップホルダーにリッドが付いて、よりスッキリした。
もっと大きな違いはインパネとコンソールのつなぎ方だ。クロスオーバーではインパネロワーのパッドがコンソールに連続していたが、セダンはインパネロワーに横長に木目調加飾を設定。インパネからコンソールへの連続感を抑えることで、インパネ全体を水平基調に見せた。これもワイド感の表現だが、エクステリアの水平基調をインパネにも再現したという意味もありそうだ。
クロスオーバーを「革新的なセダン」としてデザインしていたデザイナーたちにとって、「王道のセダン」ではやはり居住性こそ重視すべきこと。ホイールベースをミライより延ばし、室内幅をクロスオーバーより広げたとはいえ、そうした寸法的な広さだけに頼るのではなく、クラウン・セダンの存在意義として広さ感をしっかり表現した。これがインテリアのいちばんの見所だ。
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