中国のローカルショー「深センモーターショー2018」で見た現地のリアルなクルマ事情
中国のモーターショーと言えば、日本では北京(偶数年開催)、上海(奇数年開催)、広州(毎年開催)の3つが有名ですが、比較的大規模なローカル格式のショーも含めると、中国国内で年間数十ものショーが開催されています。
今回、ご紹介するのは6月2日(土)~10日(日)に開催された「深センモーターショー」です。正式名称を「2018第二十二届 深港澳国際車展(The 22nd Shenzhen-Hong Kong-Macao International Auto Show)」と言い、広東省深セン市の深セン会展中心で行われました。
- 地下鉄4号線会展中心駅から徒歩5分、高層ビルや高級ホテルが並び立つ場所にある会場
深セン市は、1980年に経済特区に指定され、当初から先進的な製造業が集まっていた場所。中国で最初に発展した先進的都市と言っても差し支えないでしょう。今でも有名企業が本社を構える街でもあります。香港、マカオと合わせていわゆる”珠江デルタ“と呼ばれる地域です。このショーの名称が深港澳(深セン・香港・マカオ)となっているのもそのためでしょう。
深センはEV(電気自動車)で有名なBYDの地元
中国三大モーターショーに若干食傷気味で、この数年は見ずに過ごしていました。一方で、どこかにおもしろそうなローカルショーはないものかと探していました。そんなおり、「おもしろかったよ」と深セン通の知人から教えてもらったのがこれでした。もうひとつの要素は、この街がBYDの本拠地だからです。
- 地元のBYDは正面入口前の一等地にも販売ブースを構える
“Build Your Dream”の意味を持つBYDというメーカーはかつて、外周にBYDの文字、内側の丸は青と白の半々というどこかで見たようなデザインのエンブレムや、外装の一部を変えるだけでカローラと瓜二つになってしまうようなクルマ(実際にカローラ化キットもあった)など、いわゆるコピーで有名でした。それが今やリチウムイオン電池の大手メーカーであり、京都市にも導入されているEVバスをはじめ、乗用車フルラインにEVをラインナップするなど、すっかりEVの先進メーカーになっています。デザインもご覧のとおりです。
- “新能源汽車引領者”を標榜するBYDはデザインの洗練具合もなかなかのもの。社名も“唐”や“宋”など中国らしい名前に加えてフォントもちゃんとデザインされていてカッコいい
どのブースも販売熱がすごい!
ローカルショーは販売を目的とするショーなので、各ブースの販売員の数と売り込み熱は相当なもの。ちょっとでも立ち止まると、チラシと価格表を持った販売員に話しかけられます。そんな状況なので、三大ショーのようにコンセプトカーが舞台に上がることはなく、舞台上は新型車の展示やラッキードロー(抽選)に使われます。
- 自社ブースへの誘導のためマスコットがねり歩く
- 販売員が多すぎてクルマが見えない広汽のブース
- 抽選でいいもの当たります。東風日産のステージ
- なかなかの飾り付けな広汽新能源(広汽の新エネ車)のブース
二カ所にブースを構えるメーカーもある
中国では、外国メーカーは地元資本との合弁でなければ進出できませんが、合弁相手が一社とは限りません。多くのメーカーが二社と合弁企業を設立しているため、同じメーカーのブースが二カ所ずつあるのが特徴です。さらにフォルクスワーゲンは、輸入車だけを展示したブースも別にあったので三カ所にありました。
- トヨタと広州汽車との合弁である広汽豊田。カローラの兄弟車レビン、カムリ、ハイランダーなどを製造販売
- トヨタと第一汽車との合弁会社一汽豊田製クラウン。この他カローラ、C-HRの兄弟車イゾアなどを製造販売
- トヨタとしてのブースも併設。広汽豊田製レビン ハイブリッド(手前)と一汽豊田製カローラ ハイブリッド(奥)が並ぶ
- フォルクスワーゲンの正規輸入車のブース。eゴルフもあった。ちなみに輸入車に漢字のエンブレムは装着されない。そこが国内製と輸入車の識別点だ
ローカルメーカーは洗練されるもちょっと残念
久しぶりに見る中国メーカーのクルマはずいぶん洗練が進み、思わず「なんじゃこれは?」と言ってしまうような不思議なデザインのクルマやコピー車は、すっかりなくなりました。同時に、細部に宿っていた中国っぽさも薄まってしまったのは、ちょっと残念です。
- ハンテンオート(漢騰汽車)の新能源汽車(PHEV)。スクリーンには宣伝文句があふれる
- かつて国家元首級のVIPの専用車であった紅旗もずいぶんモダンで庶民的にになった
- 鈴木、フォードとの合弁会社ももつ長安汽車。ここのところの地味な印象を隠すため? 展示車に目を引くデザインを施す
- 長城汽車の上級SUV新ブランドWEY。VV7、VV5、プラグインハイブリッドのP8の三車種を展開する
余談となりますが、筆者の目を引いたのはアウディのブースでした、日本のショーや路上では見たこともないようなカラーの展示車が並んだブースはとても華やか。同じ赤でも何種類もありましたが、どの色もいい色でした。
EVの世界はどうだったのか?
”犬も歩けば電動化車種に当たる”ほど、多くの新能源(EV)、挿電式混合動力車(プラグインハイブリッド)が見られました。それもすぐ買って乗れるモデルが。深センの街にもEVタクシー、EVバスが当たり前のように走っています。これらを見て、「日本はEVで遅れている」なんて言う人もいますが、本当にそうでしょうか?
- 北汽新能源(BAIC BJEV)のEVシリーズ。2人乗りのLITEが今回のショーで一番良かった
国によって事情は違いますし、何より中国は国策でEVを増やそうとしています。内燃機関エンジン車では外国勢に勝てないので、「EVで天下を取る」という野望もあるでしょうし、コネクテッドカーと親和性の高いEVが増えれば、国民一人ひとりの移動状況も把握できるでしょう。露店での買い物も地下鉄も電子決済サービス「アリペイ」が普及していて、スマートフォンを持っていれば現金がほとんど必要ないほど進んでいるのは、かなり便利でうらやましいですが、これは個々人の購買状況をすべて誰かに握られるということも意味します。
- いつでもどこでもQRコード決済で過ごせる街
もうひとつ気になるのは、バッテリー、モーター、インバーターなど、リサイクルが難しい材料がふんだんに使われているEVが「寿命を迎えたときどうなるのか?」です。また、各国政府やメーカーが打ち上げている目標台数が本当に生産されたとしたら、充電するための「電気はどうするのか?」も気になります。
これからは、「再生可能エネルギー」と言われている太陽光発電や風力でと思われるかもしれませんが、太陽光発電はソーラーパネル下の土壌に与える影響や、反射熱を問題視する向きもありますし、風力は空気の流れの変化による気候や環境の変化が懸念されているとも聞きます。15年~20年の廃棄やリサイクルについての課題もあるでしょう。
- 街中で頻繁に見るBYDのEVタクシー。筆者も今回、このタクシーで移動した
深センモーターショーは、BYDの地元で行われたローカルショーであるだけに、現地のリアルなクルマ事情が垣間見えました。これがローカルショーのおもしろさというものです。急速にEV化が進む中国、これから一体どうなっていくのでしょうか。
(取材・写真・文:大田中秀一 編集:木谷宗義+ノオト)
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[ガズー編集部]
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