道路交通法に定められた高齢者講習って何をするの? 実際に体験してきた
人口変動に伴い、増える高齢者ドライバー。安心して運転を続けてもらえるように、運転免許更新時に行われる高齢者講習とは、いったいどんなことをしているのでしょうか。北海道中央自動車学校校長の田村豊さんと高齢者講習を実際に担当する教務部課長の武田雅弘さんにお話を伺いました。
運転免許更新時に70歳以上は2通りの講習
――高齢者講習とは何歳から受けなければならないのですか?
昨年2017年3月12日に改正された道路交通法に基づいて、高齢者講習は年齢により大きく分けて2つのパターンで行われます。70~74歳までは2時間の合理化講習の受講、75歳以上は受講に先立って認知機能検査を受けていただき、その検査結果により、合理化講習あるいは3時間の高度化講習に分かれます。これらの講習を受講して、運転免許の更新となります。
- 階段を利用せずに済むように1階の部屋を改造して講習室に。高齢者講習時は6名、認知機能検査時は10名で行われる
――70~74歳の方が受ける合理化講習とは具体的にどんなことをするのでしょう。
最初の30分は座学を行います。道路交通法の改正点など、クルマを運転する上で変わっていっていることを学習していただきます。
次の30分は各種検査です。運転をするのに一番大事な身体の部分は「目」となります。ですので、3種類の目の検査を受けていただきます。
1つ目は、動体視力検査。静止視力に比べて、動いているものを見る時の視力は落ちてしまいます。その視力を測ります。2つ目は視野角度の範囲を測ります。正面を見て目線を動かさずに自分の左右がどのくらいの角度まで見えているか。3つ目は夜間視力検査です。夕暮れ時など暗くなってくると見え方は非常に悪くなります。検査では明るいところが暗くなって、そこから少しずつぼやーっと明るくなっていくという状況でどのくらいの時間でものが見えてくるかを測ります。
残りの1時間でクルマの運転をしていただきます。こちらは方向転換や一時停止、S字カーブなどの課題が決まっていて、実際の運転状況を判定します。高齢者は何十年も運転をされている方々ですので、運転に慣れている分、自分では正しいと思っていることが多いことも。間違って覚えていることに気づいていただいたり、もっとこうしたらよいということをアドバイスして講習は終了となります。
――では、75歳以上の方はどういう流れになりますか?
75歳以上の方は、まずは認知機能検査を受けていただき、判断力や記憶力の状態を判定します。その検査結果により、心配ないと判定された方は、70~74歳の方と同様の合理化講習を受けていただきます。少し低下しているとの結果が出た方は高度化講習の対象となります。
高度化講習は、合理化講習と座学、検査、クルマの運転まではほぼ同じですが、クルマの運転をドライブレコーダーで録画します。それを一緒に見ながら、自身の運転のクセなどを知っていただき、どのようにすればより安全運転ができるか映像により個別指導させていただきます。
3種類の目の検査を受けてみた
講習の前半で行われる目の検査。どんなことをするのか、ペーパードライバー歴5年の筆者が体験してみました。
まずは、夜間視力検査(暗順応検査)。
- 暗幕の中に顔を入れる
明るくよく見える状態から、暗幕の中に顔を入れ、真っ暗闇の中へ。再びぼんやりと明るくなったところで、中の指標が見えたらボタンを押します。暗闇から見えるようになるまでの秒数を測ります。
次に受けたのは、動体視力検査。
検査の機械の中を両目でのぞくと、ランドルト環(視力検査のC型のもの)が見えます。動かない状態で静止視力を測り、時速30㎞の状態の動体視力を測ります。
「Cの上下左右どこの方向が開いているかを手元のレバーを倒して下さい」と言われ、
- レバーを倒すのに戸惑う
何回か練習をした後に、本検査が始まります。その声を聞いた途端に、思いのほか緊張。手元が見えないので、もしかしたら間違っているのではと不安になりました。
最後に視野検査です。
半円形の機器の中心に座り、正面に小さい白い円形のものがあるのを確認します。
- 黒い棒の上部についた白い円形のものが半円の端に一旦移動され、見えてきたらボタンを押す
この中心部にある白いものが動き、目の端で見える時点でボタンを押し、見えた角度を測ります。
- この図の100°の辺りから検査機器の白いものが動いてくる
- 夜間視力検査の判定は24秒でA判定でした。筆者よりも年齢の若い20代くらいになると7~8秒で見える方もいるのだそう
- 動体視力検査は、筆者の年代と同年代と比較しての評価になるが、高齢者の場合は下の年代と比較しての判定となるそう
――思いのほか、緊張しました。ボタンがちゃんと押せているか焦ることもありました。高齢者がこの検査をいきなり受けるのは、かなりハードルが高いですね。
検査自体は、あくまでも目の検査なのですが、実は目でとらえたものを判断して、手でボタンを操作するという反応も、検査で確認している部分なのです。
また、「見る」ということは視力だけのことではなく、どう見ているかということも重要で、大抵の「見ている」は、「景色として見ている」つまり、全体をぼんやりと見ているということ。あるいは、1つの点を見ていたら、他のものは見えていない。次のものにピントを合わせるまでには時間もかかる。それは、信号を見ていたら、標識が見えていない。自分のすぐ前のクルマを見ていたら、その前のクルマがどういう状況か見えていない、ということなのです。視力検査を受けることを通じて、こういったことにも気づいて、これからの運転に活かしてほしいと思っています。
「俺は、運転なんてずっとやってきたんだ!」の先には
――高齢者講習をやってきて思うことはありますか。
高齢者の方たちはクルマの運転年数でいくと、私たちより先輩なんです。私たちが指導をすると、「俺は、運転なんてずっとやってきたんだ!」とお叱りを受けることもあります。後輩の立場としては、もっともなことだとは思いますが、私たちは、ダメ出しをしたいのではありません。
運転歴が長くても、残念なことに高齢になることで、視力や判断力などは若い時とは違ってくる部分も出てきます。そこに気づき、それを補うためにどう工夫して安全運転をしていくのかを考えてもらえればと思うんです。例えば、視野角度が狭くなっているのであれば、視線を動かすだけで確認するのではなく、首をぐっと曲げて確認していくとか。そのきっかけになるようなアドバイスができればと思っています。
――認知機能検査で、判断力・記憶力が低下しているとの結果が出た場合はどうなりますか?
病院で診断を受けていただくことになります。場合によっては、運転免許の取り消しになることもあります。
――運転免許更新の際に高齢者講習が必要な年齢になったら、どうしたらよいですか?
免許の有効日の半年前から、高齢者講習、認知機能検査は受けられます。その時期が来ましたら、なるべく早く、講習を行っている自動車学校に電話し、予約を入れてください。当校でも、高齢者講習・認知機能検査を受ける方は年々増えていて、認知機能検査を1日に3回講習を行っている日もあるくらいです。免許更新のギリギリだと大変です。また、かなり遠い町の自動車学校に行かなければ、受けられないところもあるようです。いずれにしても、早めに動くのがよいと思います。
- 取材協力いただきました北海道中央自動車学校
実際に目の検査を受けてみて、自分の思う能力と、自分の現実的な能力の差に愕然としました。出来なくなっていることに気づくことと、それを補うための方法を身につけることが、高齢者の安全運転のために重要であるとわかりました。生活するためにクルマが必要な高齢者も多いと思いますので、免許更新の際には、しっかりと高齢者講習を受けて、安心して運転していただければと思います。
(取材・文:わたなべひろみ 編集:ミノシマタカコ+ノオト)
[ガズー編集部]
取材協力
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