ソーラーパワーで“号外”を印刷する信濃毎日新聞社の「なーのちゃん号」、長野県内各地で活躍中
現存する新聞としては日本で3番目に古いという、信濃毎日新聞。発行する信濃毎日新聞社に、現代の技術を最大限に盛り込んだ特別なクルマがあります。それが、同社のオリジナルキャラクターの名を持つ「なーのちゃん号」です。
なーのちゃん号は、必要なときに必要な場所で“号外”を印刷して配布できる、多目的広報車。似たような車両を持つ報道機関はほかにもありますが、なーのちゃん号にはほかにはない特徴があります。それは、4電源に対応していること。
類似車両の多くは、エンジンもしくは発電機で稼働2電源式、もしくはキャンピングカーのように引き込み電源に対応した3電源式です。なーのちゃん号はそれらに加えて、大型のソーラーパネルを4枚搭載し、エンジンをかけたり発電機を回したりせずに記念新聞やPDF号外の印刷ができます。ソーラーパワーを駆使した日本で唯一の多目的広報車、それが、なーのちゃん号です。
さながら移動オフィスのよう車内には工夫がたくさん
ベースとなったのは、27人乗りのマイクロバスであるトヨタ・コースター。信濃毎日新聞社は当初、よりコンパクトな車種を考えていましたが、車内を立って歩けるだけの高さと、必要な機材を搭載できるスペースを確保するために、この車種を選んだとのこと。精密機器を搭載することから、エアサスペンションを採用するグレードをベースとしています。
内装は完全に新規制作され、乗車定員は6名に。6台の編集用PCを一度に扱えるよう、座席やテーブルが配置されています。車内にはネットワーク配線も完備され、さながら移動オフィスの様相です。
車内外には、必要な機材を搭載するための独自の工夫が盛り込まれています。たとえば、業務用の高速プリンタは自動車に搭載して使うことを想定していませんし、走行中の振動に耐えられるかどうかもわかりませんでした。
そこで、プリンタの代理店に依頼してプリンタの内部構造を補強、車両制作を担当した長野トヨタでは、衝撃を吸収する特別な土台も制作しました。床全体のクッション性を高めると車内高が犠牲になるため、プリンタを設置するスペースのみを改造するという手の込みようです。
目玉となるソーラーパネルの施工は、太陽光発電を専門とする長野県の株式会社サンジュニアが担当。2008年の施工当時、キャンピングカーへのソーラーパネル搭載も少なかったため、大型ソーラーパネルや電源設備を車載することへの不安もありましたが、さまざまな工夫で乗り切ったと言います。
太陽光発電は発電量にムラがあるため、本来、精密機器の電源には向いていません。そこで大型のバッテリーを複数搭載し、一度充電してからPCやプリンタに供給する方式を採用。重量バランスを取るため、プリンタと反対側に設置されたクローゼットにバッテリーとインバーターが整然と並んでいます。
細かいこだわりポイントのひとつとして、ナンバープレートも見逃せません。「1873」は、信濃毎日新聞が創刊した1873年、明治6年に由来しています。
人が集まる場所で排気ガスを出さずに活動できるのが強み
なーのちゃん号の活躍の場は、大きく2つあります。もっとも大きな役割は、イベント会場などに行き、その場で記念新聞を作って配布すること。派遣先となるのは、長野県内で開催されるマラソン大会やバラ祭り、人形劇フェスタなどのイベントです。
県内外から訪れる人たちの写真と名前が入った記念新聞をその場で作成、印刷して渡しています。その日だけ、1枚だけ、自分たちだけの記念新聞です。毎年恒例となっているイベントでは、この記念新聞を楽しみに訪れる人もいるというぐらい、浸透してきたと言います。
屋外イベントでは引き込み電源を当てにできません。かといって、人が多く集まる場所でエンジンや発電機を動かし、騒音と排気ガスをまき散らしたくもありません。信濃毎日新聞社が太陽光発電にこだわったのは、それが理由でした。もうひとつの役割は、必要なときに必要とされる場所でPDF号外を印刷し、配布すること。ニュースを受けて編集局が編集し、PDFデータとしてなーのちゃん号に送信、車載されているプリンタで印刷して配布するのです。
2018年だけでも6回の出動がありました。たとえば、大相撲名古屋場所のときは御嶽海の優勝を受けて即座にPDF号外を発行、御嶽海の出身地である長野県上松町などで配布しました。地元の人は、優勝のニュースをテレビで見て、すぐにPDF号外を紙で受け取れることを喜んでくれたそうです。
また、J2リーグ優勝、J1昇格を果たした松本山雅FCのホーム開幕戦には、スタジアムになーのちゃん号を派遣。試合終了直後に〝号外〟を発行してファンに配布しました。2018シーズンはホーム初戦が初勝利だったので、応援していた1万5千人を超えるサポーターの興奮が冷めないうちに配られたことで、盛り上がりはさらに高まったと言います。
導入から10年、現在の走行距離は7万キロ超。読者との距離を近づけること、ニュースを現地、現場で、即時届けること。なーのちゃん号は、信濃毎日新聞社の活動をこれからも支えていくことでしょう。
(取材・文・写真:重森大 編集:木谷宗義+ノオト)
[ガズー編集部]
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