日本にたった3台! 北海道地元食材と見晴らし抜群のレストランバスに乗ってみた

ガイドさんの案内による観光バスに乗るのは、その土地を知るのに適した旅の仕方のひとつでしょう。昨年から北海道を走る「レストランバス」は2階建てバスの見晴らしと、地元食材をふんだんに使った料理を堪能できる特別仕様です。レストランバスを運行する網走バスの札幌営業所所長の鈴木敏雄さん、千田恭江さんにお話をお伺いしました。

日本にたった3台の走るオープンキッチン

外からよく見えるキッチン
外からよく見えるキッチン

こちらのレストランバスは、三菱ふそうのダブルデッカーという2階建ての車種を加工したものです。1階は大きいガラス窓で外側からよく見えるキッチン、2階が屋根を全開放できる客席となっています。客席の透明な屋根は、ガラスではなくポリカーボネート製。このポリカーボネートという素材は紫外線を通しにくいそうです。お客さまが乗車される時は、基本的に屋根はオープンにしていますが、ピンとチェーンの二重ロックで走行中にもずれることのないようしっかり固定されます。

ピンとチェーンの二重ロックで最大限の安全管理を
ピンとチェーンの二重ロックで最大限の安全管理を

現在このタイプのバスは、日本に3台しかありません。その第1号車が北海道で走っているもので、ほかに、京都で1台走っており、運行は終了していますが新潟でも走っていました。

「北海道では、昨年2ヶ月限定の運行に引き続き、今年は函館での4~5月の2週間ほどを皮切りに、札幌では5月から、網走での8月の運行をはさんで、9月末まで走ります」

この1号車、北海道で走らない冬から春までは島根に移動。島根では、地元の皆さんで構成される実行委員会が主となり、バス会社の協力のもと運行しているそうです。バス内での案内は実行委員会の男性がされているとか。また、京都では、通年で基本的に毎週水・土・日に運行しています。それぞれの土地ごとに集客の状況やサービスの仕方を考えて運行の形態を決めているのです。

これまでにもあったキッチンカーとの大きな違いは、お客さまを乗せてリアルタイムで料理をお出しするところ。キッチンカーは動く厨房。レストランバスは動くレストランなのです。しかも、コンセプトである「景色を楽しみながら、地元の旬のおいしいものを味わう」の通り、観光地や生産地を巡りながら、おいしい食事をいただけるのがポイントです。

ナイトクルーズから収穫体験までの多彩なコース

料理のコースは、ランチ、ディナーそれぞれ用意されています。内容は、小樽や札幌の有名な観光地をまわるもの、夜景を楽しんでいただけるものなどのほかに、生産地での収穫体験ができるコースも。時期によって、アスパラ、ジャガイモ、とうきび(とうもろこし)を自分で採って、その場で簡単に調理して食べてることもできますし、お土産用に持ち帰りも可能です。「収穫の際の軍手や靴のカバー、カッパなどはこちらでご用意しますので、お気軽に参加いただけます」とのこと。

ほかにどのようなコースが人気なのでしょうか!?

今年の札幌のコースでは、5~7月はフレンチの橋本昇シェフが、8~9月はイタリアンの根田和也シェフが腕をふるう
今年の札幌のコースでは、5~7月はフレンチの橋本昇シェフが、8~9月はイタリアンの根田和也シェフが腕をふるう

「1時間程度のスイーツコースやビアコースも人気ですね。ビアコースはビールとおつまみ付きなのですが、おつまみと言っても一口サイズのお料理を組み合わせた充実のワンプレートメニューになっています。

また、いずれも、コースのルートの組み方と料理のタイミングを工夫しています。例えばランチのフルコースの場合、札幌市の羊ヶ丘展望台に到着したところで、魚料理を召し上がっていただき、食べ終わったところで1時間ほど見学。バスに戻ったところで肉料理をお出しし、出発といった具合です。記念撮影に最適な場所では停車する時間もつくります。お客さまに観光とお料理を無理なく楽しんでいただけるとうれしいです」

衛生上の許可の扱いは焼き鳥屋さんの移動販売車と同じ

「私たちは、そもそも観光バス会社ですので、バスの運転、観光ガイドに関してはプロなのですが、さすがにレストランバスとなると全く勝手が違い、わからないことだらけです。一から勉強し、ひとつひとつ積み上げながら運行に漕ぎつけました」

衛生上の許可ひとつとっても、道内全域を走るので道庁への許可申請に加えて、政令指定都市である札幌市にも許可申請をする必要がありました。レストランバスは、扱いとしては食品の移動販売車ということになるので、スーパーの店先などにいる焼き鳥屋さんのトラックと同じ扱いになるんだそうです。

コンパクトながら機能的なキッチン。キッチンツールはマグネットで固定、食器棚はクルマの揺れにも開かないようにストッパーがつき、走行中でもスムーズに調理ができる工夫がされている。
コンパクトながら機能的なキッチン。キッチンツールはマグネットで固定、食器棚はクルマの揺れにも開かないようにストッパーがつき、走行中でもスムーズに調理ができる工夫がされている。

「とにかく、衛生上の事故を出してはならないので細心の注意を払っています。冷蔵庫ももちろん積んでいますが、電源の容量がバスのものでは足りないので、発電機を積み込んでいます。そして、車庫に戻ったら発電機は止めて、クルマの外に出せるプラグコードで車庫のコンセントに繋ぎます。こうして、途切れることなく冷蔵庫を冷やし続けているのです」

運転席の様子。手前にある黒いものは水のタンク。厨房内には200ℓの水が用意されているが、予備のためさらにタンクを常備する。
運転席の様子。手前にある黒いものは水のタンク。厨房内には200ℓの水が用意されているが、予備のためさらにタンクを常備する。

「また、サービスという点でも手探りでした。レストランとしての接客は、基本、ガイドが1人で行います。もちろん、バスガイドとして接客のプロではありますが、飲食業の接客は全くの別物。料理のサーブの仕方から、カトラリーの種類、出す順番、ワインのコルク栓の抜き方まで、観光ガイドの仕事の合間に猛勉強して対応しています」

ガイドさんの制服も飲食店風のものを
ガイドさんの制服も飲食店風のものを

ガイドさんは観光案内も行いますが、さらに現地で現金支払いする方のために、お金の管理もするそうです。1人何役もこなす、まさにマルチプレイなんですね。そのため、こちらの会社に所属しているバスガイドの中から選ばれた、7名だけがレストランバスの担当をしているとのこと。また、ドライバーも経験豊富な ドライバー7名が担当しています。

「このバスは、1階建ての中ではおそらく一番背が高いと思われる“スーパーハイデッカー”というタイプよりも、さらに6㎝くらい高さを持っています。加えて、2階客席は視線が上がって景色が良く見えるようにと床面をぐっと高くしているんです。そのため、自ずとバスの重心が上部に上がり、揺れがとても大きくなりやすいので、どんなところを走っても極力揺らさないような技術が必要になってきます。お客さまに快適に乗車いただくこと、そして、何より事故を起こさないために大事なことです」

安全走行のために、レストランバスに乗っているドライバー、ガイド、シェフは全員インカムをつけて細かに連絡を取り合っています。安全かつ快適に過ごしてもらうために、たがいに連絡は欠かしません。

「先日、函館で運行した時のことです。街路樹がちょうど勢いよく茂り出す頃で、車道に張り出した枝でバスの上部がこすられそうになったことがあります。ドライバーは揺らさないように走ることに加え、上の枝も気にしなければならず大変でした。が、この時は、上にいるガイドから『枝があぶないですよー』などのマメな連絡を受けつつ、しのいでいたそうですよ」

夜の札幌をレストランバスでひと巡り

“百聞は一見に如かず”ということで、実際にレストランバスに乗車しました。コースは「ビアナイトレストランバス」。札幌駅を出発し1時間ほどで、ススキノ、テレビ塔など、夜の札幌中心部をまわります。

2階の客席に上がった瞬間、「おおおっ!!」と声がもれてしまいました。空をひとり占めしたような気分の良さです。

空が近くに感じる2階客席
空が近くに感じる2階客席
細い曲線にくりぬかれた部分にグラスの足を入れて固定する。ビールやワインの色がよく見えるようにすべて脚付きのグラスを使用する
細い曲線にくりぬかれた部分にグラスの足を入れて固定する。ビールやワインの色がよく見えるようにすべて脚付きのグラスを使用する

お料理は橋本昇シェフによるフレンチのワンプレートです。早来豚の生ハムや”ようてい”という品種のジャガイモ使用のたらこサラダなど、北海道産食材をふんだんに使った料理が彩りも美しくお皿に並んでいます。

おつまみと一言では済ませられないボリューム
おつまみと一言では済ませられないボリューム

ビールもお料理もそろったところで出発です。ガイドさんが、先ほどビールを注いてくれた方と同一人物と思えないほど、別の趣きで観光案内を始めます。JRの高架下はバスの屋根ギリギリの高さで、頭をぶつけそうな迫力。ススキノ交差点のネオンもいつもとは違う目線で見ると、一味違った輝きに見えてきました。

ひと際大きい車体に、明るいキッチンの見えるバスが夜の街を通ると、やはり目を引くようで、道行く人たちから物珍し気に見上げられます。ガイドさんいわく、「今ばかりは芸能人気分で手を振ってあげてくださいね(笑)」。

夜の札幌の街を泳ぐように走る
夜の札幌の街を泳ぐように走る

手の届きそうな街路樹とともに見えるテレビ塔は初めてです。このあとは、現在改修工事中(改修工事は2018年10月31日まで)の時計台の横を通って、豊平橋を渡り豊平川沿いの道へ。札幌の開拓時のことなど、札幌市民が意外に知らない話に思わず「へえー」とうなずきながら、ビールも進みます。

ドリンクのおかわりは専用の端末で。操作の苦手な方にはガイドさんが丁寧にフォローをしてくれる
ドリンクのおかわりは専用の端末で。操作の苦手な方にはガイドさんが丁寧にフォローをしてくれる

実は、各コースとも、お客さまは地元の方が多いのだとか。普段、巡ることない地元の観光地をガイドさんの案内のもと訪れることによって、札幌、北海道の様々な物事の再発見に繋がっているそうです。

手の届きそうな案内標識越しのテレビ塔
手の届きそうな案内標識越しのテレビ塔
歩道橋の下をくぐる。信号機と速度標識の大きさを実感
歩道橋の下をくぐる。信号機と速度標識の大きさを実感

お料理のおいしさとともに、乗っているだけでアミューズメントパーク並みの驚きと迫力の連続で、あっという間の1時間強でした。

「弊社の会長は、その土地を盛り上げていくには観光業界を盛り上げていくこと、そうして地域の景気を良くしていきたいという考えを持っているんですね。そのためには、自社の利益だけを考えるのではなく、地元はもちろん北海道全体を盛り上げていけるようなことをいろいろしていこうと。その一つがこのレストランバスの導入なんです。今後は、地元の方々ももちろんですが、観光でいらっしゃる方々にもこの取り組みを広く知っていただき、北海道の食と地域の魅力を味わってほしいですね」

と、鈴木さん。一度、この体験をするとやみつきになるはず。現在、料理はイタリアンにチェンジ。
北海道での2018年の運行は9月30日(日)まで限定です。ぜひ、たくさんの方にレストランバスの旅を堪能してほしいものです。

※レストランバスは9月30日(日)までの運行ですが、コースによって異なります。詳しくは網走バス株式会社までお問い合わせください

(取材・文:わたなべひろみ 編集:ミノシマタカコ+ノオト)

[ガズー編集部]

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