動物よけ警笛でシカの飛び出しは防げるか? ニッポンレンタカー北海道(株)の取り組み
動物の道路への飛び出しによる交通事故は、後を絶ちません。特に、エゾシカが増え続ける北海道では、深刻な問題となっています。ニッポンレンタカー北海道株式会社では、数年前から車体に動物よけ警笛を装備するという取り組みを始めています。エゾシカよけの決定打となるのか? ニッポンレンタカー北海道株式会社 車両管理部部長 赤平真樹男さんに伺いました。
夜をぬって走る陸送業者さんの言葉をきっかけに
――北海道内ではエゾシカの飛び出しによる事故でかなりの被害があると聞きますが、動物よけ警笛の導入のきっかけは何だったのでしょう?
エゾシカとの衝突事故は、かなりの頻度で起きています。こする程度でしたらまだいいのですが、相手は重いですからね、クルマが全損になってしまうような大きな事故が年間に何件も起きるんです。お客さまにとっても大変なことですし、弊社としての損害も大きく、何とかしていかなければと思っていたんですね。お客さまに「注意してください」とただ言い続けているだけでは、なかなか減るものではありませんし。
そんな折、遠方に行っているレンタカーを元の営業所へ運ぶ陸送業者さんがいい情報を持ってきてくれたんです。クルマの陸送は主に夜間に行われるため、そこの社長さんも私たちと同じくシカとの衝突という悩みを抱えていました。そこで、動物よけ警笛を全車につけてみたのだそうです。すると、前年に12、3件あったシカとの衝突事故がなんと1件に減ったというのです。「そんなに効果があるものなの!?」 という話になりまして。たとえ、そこまで劇的な効果がないにしても、事故がいくらかでも減れば、お客さまにとっても、弊社としてもありがたいので、やってみる価値はあるなと。
現在、弊社で購入しているのは1組1,000円強程度のものなのですが、それにしても、レンタカー全車に一気に取りつけるとなると、コスト面でかなりの負担になるから……と、当初は二の足を踏んでいたのです。
そうしましたら、それを聞きつけたある新車ディーラーさんがお手伝いしてくれることになりました。その年の納車分の全車に動物よけ警笛をつけてくれることになったんです。それが2015年のことです。730台ほどから、まずは効果を試してみましょうということになりました。
人間には聞こえない音を響かせる
――こちらの動物よけ警笛はどのような仕組みでエゾシカとの衝突を防ぐのですか?
笛が2つで1組になっていて、それぞれ別の周波数の音を出します。この音は人間の耳では聞こえない高さで、動物の耳には届くものです。ただ、特に嫌がる音というわけではなく「あれ? 何か音がしているな」と、気にする→立ち止まるというものだそうです。
――クルマのどの場所に、どのように取りつけるのでしょうか。
笛の口がクルマの進行方向側に向くように取りつけます。取りつけるのはクルマのグリル部分あるいはドアミラーの近く辺り。そのまま走行することで、風が笛を通り抜けて音を出すという仕組みです。ですから、時速50~60㎞程度のスピードが出ている状態で、うまく鳴ります。
クルマが走ることによって音を出し、道路沿いにいるシカがその音を気にして、立ち止まるということなので、既に道路上にいるシカには効きません。また、これはシカの習性ということで専門家の方から伺ったのですが、シカは群れで行動しますよね。群れにはリーダーがいまして、リーダーの動きが群れ全体の行動を決めるのだそうです。笛が鳴っていても、リーダーが音を感知して止まってくれないと、後続の他のシカもどんどん飛び出してくるそうで。そんなふうに向かってくるシカにはさすがに効かないそうです。
効果があったり、なかったり……シカを相手に四苦八苦
――動物よけ警笛をつけて既に数年たっているかと思いますが、効果のほどはいかがですか?
2015年にディーラーさんの協力で一部のクルマにつけることからスタートしたわけですが、翌2016年には全車に取りつけることにしました。その年は、事故が減り、見事に効果が出たんです。そのまま、効果を出し続けることができるかと思いきや、実は、今はあまり目立った効果が見られなくなってきています。
――効果減の原因は何なのでしょう?
ひとつ、考えられることはあるんです。それは、クルマのデザインの変化です。
当初は、クルマのグリル部分……正面のボンネットの下の網目状になっているところがありますよね。そこに差し込むような状態で取りつけをしていたんです。ところが、最近発売されるクルマのグリルの形だと、上手く笛が収まってくれないものが多いのです。無理に取りつけると、笛の先端がグリルよりも飛び出してしまい、洗車の時にひっかけて壊してしまうという事態になってしまったのです。洗車は毎日のことですから、ブラシでこすったりする度に壊してしまっていては、たまりません。
そこで、苦肉の策として、両側のドアミラーの近くに取りつけることにしました。でも、この位置が良くないのではないかと今、考えられているところなんです。
ドアミラーはフロントガラスの両横についていますよね。クルマが走った時にフロントガラスに受けた風はそのまま横に流れます。その空気の流れによって、真正面から笛口に入るべき風が邪魔されて、上手く笛が鳴っていないのではないかと推測されます。ただ、こればかりは、検証のしようもなく……なにせ人間の耳では聞き取ることができませんから(笑)正直、困っているのです。
――ほかに何か対策されましたか?
はい。2018年には取りつけるクルマを半数くらいに減らすという実験もしてみました。
レンタカーのクルマというのは、特に北海道では夏場と冬場では利用率の差が出てくるので、秋にはクルマの台数を減らします。そして、また春が来ると増やしていくというサイクルがあるので、2018年に春に増やす分のクルマには笛を取りつけないことにしてみました。ところが事故件数で比較するとほとんど変わりがないんですね。
ただ、動物よけ警笛をつける前には、シカとの衝突事故による全損事故が年に4、5件はあったのです。ところが、つけるようになってからは、それはゼロになっています。事故が全くなくなるわけではないけれど、大きな事故はなくなっているということです。
ですから、効果について考える時に、単なる事故件数で効果を比較するのにも、無理があります。実際、弊社で取り扱っているクルマの台数も増えていますし、エゾシカの頭数も年々増えてきています。それぞれの母数が増えているのに、件数で比較して効果のあるなしを単純に判断できないというのも事実です。電気的に音を出すタイプのものあるにはあるのですが、配線の手間がかかるのとやはりコストが大きいんですよね。どうしても、費用対効果という面で考えると、効果のある、なしは社内でも取り沙汰されてくるものです。効果が全くないとはっきりしてしまえば、やめるという決断もしやすいのですが、微妙な効果の出具合であるというところが、非常に悩ましいところでして……。
――では、まだしばらくは、効果の検証をされるということですね。
そうですね。弊社としては、今後も継続してやっていこうと思っています。エゾシカの飛び出し事故っていうのは、クルマ業界としては、永遠の課題だと思いますね。なにせ相手は動物なので、どんな動きをするかわからない。さまざまなケースに対してひとつずつ対策を考えていかなければならないと思っています。
- 動物よけ警笛を取りつけているクルマには車内にステッカーが
動きがわからないと言えば、何台もクルマが連なって走っていて、先頭を走るクルマが大丈夫だからと、油断してついていったら、何台目かのクルマにぶつかってくる、なんていうケースもあるのです。まるで狙われたように。ですから、特に道東方面を走るお客さまには、「もうわかった」と言われるくらい、繰り返し、気をつけてくださいと伝えますね。わかっていても避けられないこともありますから。
「相手が動物」なだけに、やっかいな問題である、ロードキル問題。これからも、いろいろな分野の方たちがこの問題に取り組んでいくことでしょう。最良の方策が見つかるのを期待するとともに、自分の身やクルマを守るために、動物が飛び出しやすいと言われる地域では、十分に注意していきましょう。
(取材・文・写真:わたなべひろみ 編集:ミノシマタカコ+ノオト)
<取材協力>
▼ニッポンレンタカー北海道株式会社
URL:https://www.nrgroup-global.com/hk/
[ガズー編集部]
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