世界初!? 線路も走れるバス「DMV」が徳島県・高知県で2020年度内の運行開始を目指して準備中
徳島県と高知県の県境を走る阿佐海岸鉄道(あさかいがんてつどう)は、2020年度から、電車とクルマの両特性を持ち、線路も道路も走ることができる「DMV(デュアル・モード・ビークル)」の導入を目指しています。バス路線のうち、JR牟岐線(むぎせん)阿波海南駅~甲浦駅間の4駅およそ10kmを、鉄道として走らせようというのです。本格的な営業導入となれば、世界初だと言います。
では、DMVを導入する狙いはどこにあるのでしょうか? 阿佐海岸鉄道の井原専務にお話を聞きました。
地域の活性化のほか、防災面でも強みを発揮
阿佐海岸鉄道の計画が実現すれば、営業導入としては世界初となりますが、DMV自体は前からあり、以前はJR北海道で試験運転が行われていました。JR北海道では、新夕張駅~夕張駅間でDMVを運用予定でしたが、諸事情により2014年9月に開発を中断。しかし、このJR北海道での試験運用の結果が、今回の導入計画に大きく影響しています。
「JR北海道で技術開発されたDMVは、平成27年(2015年)に国土交通省『DMV技術評価委員会』にて、前提条件はあるものの技術的には『特に問題なし』との結論が出ていました。阿佐海岸鉄道では人口減少、高齢化など地域の特性や立地条件などからDMV導入に向けて、実証運行や駅舎改築基本計画策定などの検討を進めておりましたが、その結論を得て実用化が可能と判断しました。そこでJR北海道で技術開発されたDMVのノウハウをそのまま踏襲させていただき、3台のDMVを製作しました」(井原さん)
- 阿佐海岸鉄道は徳島県南部と高知県にまたがって走る、総延長8.5kmの短い鉄道
運用の方針として、「地域の活性化」「地域公共交通の維持・充実」「防災面の強化」などが掲げられています。線路と道路の両方を走るDMVの強みや、列車の定時性と悪天候時の走破性、バスの路線設定の柔軟性、路線建設コストの低さという両者のメリットを併せ持つこと。予定では、牟岐線阿波海南駅~甲浦駅間を鉄道モードで走行し、鉄道としての始発・終点に当たる阿波海南駅と甲浦駅周辺の観光施設や病院などを、路線バスモードで走行することになっています。
「鉄道と路線バスというシームレスな交通体系の創設は、高齢化が進む阿佐東地域に最適だという研究結果が出ています。また、DMVは現行のディーゼル機関車と比較して燃費がよく、維持費の削減による経営改善のほか、温室効果ガスの低減にも貢献できます。災害面でも強みがあり、仮に巨大地震などで交通手段が寸断されたとしても、DMVなら残った線路と道路をつなぐことで、被災者支援をいち早く行うことが可能です」(井原さん)
観光資源としての期待も!
DMVは世界でも珍しい移動手段のため、観光資源としても期待されており、阿佐海岸鉄道では、導入と同時にグッズ展開なども計画に入れているそう。現在、試験運用されている3台には、それぞれ固有の名前があり、青色の1号車は、未来に向かってチャレンジする意識を象徴して「未来への波乗り」、緑色の2号車は徳島の特産品のすだちイメージして「すだちの風」、赤い3号車は坂本龍馬と土佐の太陽をイメージした「阿佐海岸維新」と名づけられています。
- 1号車「未来への波乗り」
- 2号車「すだちの風」
- 3号車「阿佐海岸維新」
「世界初の本格的営業運行を目指すDMVは、話題性が高く、地域観光活性化の起爆剤としての役割も期待されています。地域の観光資源の活性化とDMVの導入で、人口減少や高齢化の進む阿佐東地域の活性化に繋げていきたいと考えています」(井原さん)
2020年8月4日現在、阿佐海岸鉄道はDMV導入に向けて、JR牟岐線の阿波海南~海部間を阿佐海岸鉄道へ譲渡する準備のための工事を実施しており、牟岐~海部間でバス代替運行を行っています。DMV本格運用は2020年度内の運行を目指しているそうです。
「新型コロナウイルスの影響で、協議などに遅れが発生しており、導入が遅れる可能性もあります。イベントに関しても実施時期は変動することが予想されますが、現行車両のさよなら企画やDMV営業開始のオープニングイベントなどを計画しています」(井原さん)
なお、鉄道部分は鉄道事業法や軌道法、道路部分は道路運送法となりますが、この複雑な法律関係の手続きは2007年に制定された「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」によって解決されているそう。まだ具体的な日程は明らかにされていないものの、世界初のDMVが徳島・高知を走る日は近そうです。
<関連リンク>
阿佐海岸鉄道
http://asatetu.com/
阿佐海岸鉄道Facebookページ
https://www.facebook.com/asatetu.ganbaru/
(取材・文:斎藤雅道 写真:阿佐海岸鉄道株式会社 編集:木谷宗義+ノオト)
[ガズー編集部]
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